122
遥はスケッチブックを受け取ると、それを大切そうに胸の中で抱きしめた。
「照子の絵はもうないの?」夏がそう聞いたのは、同じ形をした箱があと二つ残っていたからだった。たとえ絵ではなくても、照子の創作物のようなものがほかにあるのなら、それをちょっとだけ見てみたいと夏は思った。
「まだあるよ。きちんとしまってある。今渡したのは比較的新しいやつ。古いのはこっちの箱にしまってあるの」
遥は夏と話をしながら指先でいじっていた赤色のクレヨンを綺麗に元の場所に戻すと、一つ目の箱の中にそのクレヨンとスケッチブックをしまって蓋を閉じた。
それから遥はその隣に置いてある二つ目の箱から、一つ目の箱の中に入っていたものとそっくりのクレヨンとスケッチブックのセットを取り出した。
その遥の作業を待っている間、夏はふと腕時計を見て現在の時刻と充電の状態を確認しようと思い右手につけている白い腕時計の画面を確認した。しかし、腕時計の画面はなぜか異常な数値を示していた。その数値を見て、夏はぎょっとした。……バグってる? 昨日ドームにやってきたときには確かにまだ正常に動いていたのに……。
「あったよ。はい、これ」と言って遥が夏にスケッチブックを手渡した。
「……うん。ありがとう」そう言って夏は、受け取ったスケッチブックを先ほどと同様に最初のページから順番にめくっていった。
するとそこには不思議な人物画が四枚描かれていた。それは先ほど見た遥の絵に似ているが、こちらの絵のほうはさらに線や構図がぐちゃぐちゃに崩れている。夏はすべてのページを確認したが、書かれているのは四枚の人物がだけだった。
夏は四枚の絵を順番に鑑賞する。
最初の絵を見る。
女の人……かな? じっとこちらを見ている。黒い髪。黒い瞳。どこかで見たような気もする やっぱり遥だろうか? 子供っぽい落書きのような書きかたをしている。顔はよくわからない。




