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 真っ白な部屋の中に、白い女の子が一人でぽつんと背もたれのある可愛らしい丸い椅子の上に座っている。

「あ! あの、消毒とかしなくていいの?」こちら側の部屋に入ってしまったあとだが、夏はそのことに気がついて遥に尋ねる。

「大丈夫。もうしてあるから」夏を手招きをしながら遥は言う。夏には遥の言っている言葉の意味がよくわからない。でも、とにかく夏はなにも勝手がわからない子供のように、遥の後ろについて移動した。

 夏は一応、警戒したまま行動する。

 真っ白な空間。真っ白な部屋。ありとあらゆるものが白色に淡く発光している。その明るさに慣れるまでの間、夏の目が眩しさで眩んで少しだけ痛くなる。すべてが白色。透明なものは大きなガラスの壁だけだった。その壁は透けていて、向こう側がきちんと見えた。

 遥は照子の目の前に座り込んで、膝の上に乗せられている小さな照子の白い両手に自分の両手をそっと置くようにして重ね合わせた。……とても軽く、……とても柔らかく。

 しばらくすると照子の手がぴくっとわずかに反応した。夏はどきっとした。照子は生きている。この女の子はきちんと生きているのだ。かすかに動いた照子の手が、すぐ近くにある遥の手を、まるで道端で拾った落ち葉を崩さないように気をつけている子供のような仕草で、ぎゅっと握った。……とても弱く、……とてもゆっくりと。

 その動作は、ただ見ているだけで、照子が必死にその状態を維持しようと努力していることが、夏にもわかる。照子は遥をきちんと認識しているのだ。遥は両手でそんな照子の手を包み込む。まるで照子が今日も生きていることを、……願い、そっと確かめるように。

 それから遥は、そのまま優しく、まるでお母さんが我が子にでもするように、動かない照子の頬にキスをした。遥のキスはとても長い。遥は長いキスのあとで、今度は照子のおでこに短いキスをする。

「……お誕生日おめでとう」キスが終わると遥は言う。今度はきちんと照子にも聞こえただろう。夏は二人が行う愛の儀式を、ただ呆然と遥の横に立ったまま、じっと眺めていた。

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