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「人間は人工知能を作り出して自由を手に入れたんじゃないの?」

「人工知能はあくまで道具。人間の模倣でしかない。だから自由とは関係ない」

「でも便利でしょ? 便利になれば時間が作り出せるし、それを自由って呼ぶんじゃないの?」

「呼ばない。自由とはそういうものじゃない」

「じゃあ自由ってなによ?」

「孤独であること」

「孤独?」

「一人であることを受け入れるってこと。人間はね、みんなが孤独なの。ほとんどの人たちはそれを嫌がるけどね、でもね、孤独ってそんなに悪いものじゃないのよ。付き合ってみると結構いいやつなの」

「私は一人は嫌だな」夏は言う。それは夏の本音だった。一人は嫌だった。孤独が嫌いだった。それだけは、絶対に嫌だった。

「夏は子供だからね」夏の答えを聞いて、遥は笑う。夏はちょっとだけ口先を尖らせて、その発言に抗議をした。

 本当は遥のほうが私よりもずっとずっと子供のくせに。

 そんな言葉を夏は喉の奥に飲み込む。

「じゃあなんのために技術はあるの? 幸せになるためじゃないの?」夏は質問する。遥がなんのために研究をしているのか? ここで本当はいったいなにをしているのか? 遥はどこに向かって歩いているのか? 遥はなにを見て生きているのか? それらの問いの答えを知りたいと思った。遥本人の口から直接、聞いてみたいと思ったのだ。

 それらの問いは昔から、遥と出会ったときから、ずっとずっと夏の心の中に存在し続けていた問いだった。

「難しい質問だね。でも、そうだな……。一言で言うと、新しい命を創造するため、かな?」

「新しい命? 人間を作りたいってこと?」

「少し違うよ。それなら妊娠して子供を出産すればいい。でもそれだと遺伝子を残すことしかできないでしょ?」

「……? それじゃあだめなの?」夏は首をかしげる。そもそも子供を作ることは遺伝子を伝えるためではないのだろうか?

「だめ。人はね、もっと高いところを飛べるよ。もっともっと高くて広い空の中を自由自在に飛ぶことができる。世界なんていくらでも大きくすることができるんだよ。世界は無限大に広げることができる。世界なんていくらでも、自分の好きな数だけ増やすことができるんだよ」遥は夏の目をじっと見つめる。

 遥の大きな瞳の中に、夏の顔が完璧に写り込んでいるのが見える。

「命っていったいなんなの?」夏は質問する。

「私たちのもっとも身近にあるものだよ」遥は夏の質問に答える。でも夏には遥のその言葉の意味をきちんと理解することはできなかった。それは夏がまだ本当に子供だったからなのかもしれない。

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