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「ねえ遥。これからなにするの? お昼ごはんを食べてから、私たちはどうするの?」わくわくしながら夏は聞く。 

「とくになにもしない」

「え!?」夏は驚く。 

「なにもしないの? なんでよ? 今日はクリスマスだよ? お休みなんでしょ? さっきみたいに遊ばないの?」文句を言いながら、夏は甘えるように遥に後ろから抱きつく。

「お休みだからなにもしないんでしょ?」淡々とした口調で遥は言う。雰囲気から察すると冗談のようにも聞こえない。どうやら遥は本当に今日はもうなにもするつもりがないらしい。年に一度のお休みの日も、クリスマスという記念日も、ここに瀬戸夏という友達がいることも、天才木戸遥にはとくに関係がないようだった。午前のようなクリスマスの奇跡は一度だけということか。午後も遥と遊べると思い込んでいた夏は少し寂しい気持ちになる。

 遥はしゅんとしている夏を軽くあしらってから、白い湯気の出ている淹れたてのコーヒーを見慣れた二つのカップに注いでそれらを完成させた。

 それから遥は二人分のコーヒーと角砂糖とミルクの入った小瓶をおぼんの上に乗せると、それを夏の胸の前に差し出した。どうやら、私はサンドイッチのお皿を運ぶから夏はこれを運んで、という意味のようだ。夏は黙ったままおぼんを受け取る。両手の空いた遥は夏の予想通りにサンドイッチの盛り付けられたお皿を持った。

 それから二人は遥の部屋に移動する。料理をテーブルに置いてお昼ごはんの用意ができたころには夏の気持ちはある程度回復している。立ち直りが早いのが夏の長所だった。

 二人はそれぞれの椅子に座って、コーヒーを飲みながら遥の手作りサンドイッチを食べ始める。夏はいつも通りコーヒーに角砂糖を二つ入れる。遥はコーヒーになにも入れない。ブラックでコーヒーを飲んでいる。

「ここの食材はあっちの部屋に置いてるコンテナみたいなもので全部まかなってるの?」サンドイッチを小さな口にくわえている遥に夏が質問する。

「そうだよ」遥は頷く。遥はとてもリラックスした表情をしている。本当の本当にお休みするつもりなんだ。……珍しい。

「どのくらいの量の食材が保管されているの?」

「約千日分。だから二年と七ヶ月ちょっとくらいだね」

「もし事故が起きたりしたらどうするの?」夏もサンドイッチを一口頬張る。

「どうもしない。警報がなって隔離される」

「どうして隔離されるの?」

「うーん。まあ理由はいろいろあるけど研究内容を漏らさないことが一番の理由かな? これでも極秘研なんだよ。外には出せない技術とか資料とかここにはたくさんあるからね。……あとはテロの場合の時間稼ぎ」

「テロ!? テロリストに狙われたりするの!?」夏は目を丸くして驚く。

「確率は低いけどね。一応、狙われる可能性があるってこと。その代わりセキュリティーもしっかりしてるから心配しなくていいよ。核ミサイルを落とされたって平気なんだから」冗談ぽい口調で遥は言う。

 時間をかけて一つのサンドイッチを食べきった遥は、それからすぐにまた次のサンドイッチを口にくわえた。夏がじっとそんな遥の様子を見ていると、遥は夏の視線に気がついてにっこりと笑った。

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