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1 12月24日 夕方 久しぶり。元気にしてた?

 大きなたまごの中で、大好きな夏と一緒に。


 瀬戸夏


 自由な空


 君が好きだよ。ずっと大好き。

 私の世界が終わっても、あなたが好き。

 ……大好き。


 木戸遥


 空の中へ


 空の中で手をつなぐ。

 あなたと。わたしと。

 笑顔で。一緒に。……泣きながら。


 雨森照子


 手の届かない、高い空


 もうすぐ、あなたがやってくる。

 ……私はあなたに恋をする。


 おーい。なにしているの?


「遥。いる?」

 そう声をかけると、「なに?」と言って、教室の中から返事が返ってきた。

 遥は窓際のところに立っていた。

 そこから窓を開けて、教室の外に広がる青色の空をじっと、一人で眺めていた。遥の目はいつもと同じように、孤独な色をしていた。

 遥の目には、ほんのりと空の青色が残っていた。

 そんな遥の目を見て、夏はどきっと、自分の心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。

「なんだ、夏か」

 ぼんやりとした表情で遥は言う。

「なんだ、じゃないでしょ? そんなところでなにしているのよ。みんなもう先に帰っちゃったよ」

 そう言いながら、夏は遥のいるところまで移動をする。

 遥は紺色の学園の中等部の制服を着ている。

 夏も紺色の学園の制服を着ている。(夏は、スカートの下に青色のジャージを履いていた)

「なに見てたの?」

 にっこりと笑って夏は言う。

「空」

 いつものように、遥は言う。

「遥は相変わらず空ばっかり見ているんだね。そんなに好きなの? 空」夏は言う。

「別に好きじゃないよ」遥は言う。

「じゃあ、なんで空ばっかり見ているのよ?」遥を見て、夏は言う。(夏のポニーテールの髪型が、その顔の動きで、まるで猫のしっぽのように左右に揺れている)

「……本当は、空を見てたんじゃないよ」そう言って、また青色の空を見て、遥は言う。

「嘘。空見てたじゃん」口を尖らせて、夏は言う。

「私が見ていたのは、もっと遠い場所の風景だよ」遥は言う。

「もっと遠い場所の風景?」

 遥を見て、夏は言う。

「……それって、どこのこと?」

 夏の言葉に遥はなにも答えない。ただ、視線を空の風景から動かして、夏を見ると、にっこりと(なんだか寂しそうな笑顔で)笑っただけだった。

 そんな遥の表情を見て、夏は少し不安になった。

 なんだか『このまま遥が本当にどこか遠い場所に(遥の言う、空の向こうにある風景の場所に)行ってしまうような気がしたからだ』。

「じゃあ、帰ろうか」遥はそう言って、開いている教室の窓を閉めると、(真っ白なカーテンもきちんと閉めた)それから窓のところから移動をして、自分の机に置いてあるカバンを手に取った。

「ねえ、遥」

 まだ窓のところにいる夏は、そこから遥に言う。

「なに?」遥は夏に言う。

「……遥はさ、どこにもいかないよね。私から、ずっと、ずっと遠い場所なんかに、私に黙って行ったりしないよね?」夏は言う。

 夏はなんだか泣きそうだった。(なんだか悲しくて仕方がなかった。理由は自分でもよくわからなかったけど……)

 そんな、泣きそうな夏の顔を見て、遥は、ずっと昔の思い出を思い出した。ずっと昔のこと。学園の初等部のころのこと。

 遥の横で、夏はいつも、今みたいに泣きそうな顔をして、ずっと遥のことを見つめていた。

 ……どこにもいかないで。遥。ずっと私のそばにいて。

 夏は、目に涙をためて、ずっと遥にそんなことを言っていた。

 今はもう、夏はすごく明るくなって、昔みたいに泣いたりしないんだろうなって、思っていたけど、そんなことはなかったみたいだ。

 そんなことを思って、遥はくすっと、小さく笑った。

「なに笑っているのよ」夏は言う。

「ごめん」遥は言う。

「夏。私はどこにもいかないよ。ずっと、夏のそばにいる」にっこりと笑って遥は言った。

「え?」そんな遥の言葉を聞いて、夏はその顔を赤く染めた。

「……それってどういう意味?」夏は言う。

「そのままの意味だよ。ほら、行こう。みんなが待ってるんでしょ?」遥はそう言って、わざと夏を置いてけぼりにするような感じで、自分の机の前から(急足で)歩き出して教室から出て行こうとする。

「え、あ、ちょっと待ってよ! 遥!」

 夏は慌てて、そんな遥を追いかける。

 遥と夏がいなくなると、教室の中は無人になった。

「遥、大好き!!」

 そんな夏の大きな声が、廊下から、教室の中にまで聞こえてきた。


 お願い。どこにも行かないで。

 ずっと私のそばにいて。


 12月24日 夕方 久しぶり。元気にしてた?


 空は厚い灰色の雲に覆われている。予報では今夜は雪が降るようだ。こんなどんよりとした暗い空を眺めていると、なぜ自分がこんな場所にいるのか、よくわからなくなってくる。

 瀬戸夏は鮮やかな青色をした上着のジャージのポケットの中から、もうぼろぼろになってしまった手書きの地図を取り出して、自分の位置を確認した。目的地までは、あともう少しだ。

 冷たい風が大地の上を吹き抜ける。その風が少し癖のある、夏の腰の辺りまで伸びた自慢の美しい黒髪を柔らかく揺らした。夏の足元には舗装もされていない土色の道があり、夏の周囲には緑色の草原と澄み切った空気がある。そんな風景を、夏は道の上に立ち止まって、ぼんやりと眺めている。

 ……まあ、いいところかな。うん、悪くはない。これから会うことになる私の友達は、こんな世界の中で暮らしているのか、……少し意外だ。

 いや、そもそも環境なんて気にしないのかも? 仕事ができればどこだっていい。遥はきっと森にも空にも興味はないだろう。そして、たぶん、私にも……。

 だから私はこうして遥を追いかけているんだ。誰かと出会うことは偶然かもしれない。でも別れは絶対に偶然ではない。勝手にいなくなるなんて許せない。

 夏はその場で、うーんと大きく背伸びをしてから、思いきり深呼吸をした。澄み切った透明な空気が夏の小柄な体の中の隅々にまで吸収されて、数秒後に白い息となって吐き出された。

 そして笑顔になった夏は、それからまた元気に歩き始める。突然自分の前からいなくなってしまった夏の友達(そう。私たちは友達だった)であり、世界でも有数のとびっきりの変わり者でもある、天才美少女(そういろんなところに書かれていた)、木戸遥に一言文句を言うためだ。

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