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徒花  作者: 似櫂 羽鳥
第二章
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12/27

幕間、持ち込み制限

 ぐらりぐらりと頭が回る。目の前には血に濡れた芸術作品が、オレを褒め称えるようにカンペキな姿で並んでいた。

 眼鏡の真面目そうな女は、目玉を両手に持ちながら血の涙を流し、メリケンを持った男の四肢は切り離され、開花前の朝顔のように身体へくるりと巻きつけてある。

 そして、刀を持った男、こいつは念入りだ。身体中を切り刻み、奴の血で描く美しい肉の模様が浮かび……

「ってーー!」

 吐きそうなぐらいの痛みの中、オレは今のが夢であったことを思い知る。

「くそ、なんだよあいつら。オレの獲物横取りしやがって」

 思わず本音を漏らしてしまったオレは、周囲を見やった。大丈夫だ。オレ一人だ。

 黒のレンブラント(通称、黒レン)となったオレこと、大和飛燕は、いつだってクールで、フテキで大胆だ。殴られて気絶したのは、わざとであって、楽しみは後にとってくのが信条だからだ。

 そうだ。昔から言うじゃないか。一人っ子は好物を最後に食べるって。

「ふん。あいつらは最後の獲物にしてやる」

 オレは気を取り直して、聖遺物であるバールを手に取り、その冷たさに心を落ち着かせる。大丈夫だ。オレはこれから神になる。

 正直な話、ツクヨミのギシキなんか興味なんて無い。ただ、オレはオレによる展覧会の会場が必要だった。作品は人体。一際美しい死こそが、オレの望む作品だ。

 開演を告げるアナウンスが流れた時、全てを理解した。これはオレにカンペキな作品を作れと神が用意した舞台だ。そして、このツクヨミのギシキで数多の作品を作り上げたオレは、ツクヨミの権限で日本中の、いや違うな。世界中の人間を美しく殺せる。

「さあ、ゲームの始まりだ」

 決まった。オレは世界に向けてとうとう宣言をした。

「あ、あの」

 誰だ?オレの覇道にさっそく飛び込んできた奴は。

「あの、俺、ゲームに参加してるんですよね」

 見るからにチビ。しかも弱そうだ。これが始めてのオレの獲物か?

「俺、一年五組の真部隼人って言います。転校してきたばっかで、俺、よくわからなくて。よかった。行事の事、俺に教えてください」

 転校生で、チビで、弱そう。そうか。こいつはスライムだ。OK神様。オレにレベル上げをさせるつもりだな。なら、必殺をお見舞いしよう。

「何も言うな」

「え、あ」

「お前は僕と言う運命に巻き込まれたんだ」

 カンペキだ!オレの言葉の魔力に何も言えなくなってる。

「悪く思うなよ。僕に選ばれたことを誇りに思い、その誉れを抱いて闇に堕ちろ」

 オレ、カッコイイ!最高だ。カンペキに決まった。さあ、これからオレの作品第一号が完成する。

 バールを真っ直ぐに相手に向ける。そして、そのまま息をするように心臓を貫く。

「あの、なに言ってるんですか?」

 ああ、これからカッコイイ見せ場だっていうのに、なんでアイツ怯えねえんだよ。しかも真顔で「なに言ってるんですか?」じゃねえよ。いいや、スライムはスライムらしく一撃で死ね。

「ふ、一瞬だ。僕がお前を殺す時間はな」

 よし。これでビビる。カンペキだ。死の危険を感じて、背中を向けたときに、ぐさりと!

「お父さん。ホントに、俺がやらなきゃいけないの」

 なんだ?やる気なのか?ならいい。オレだって容赦しない。

「構えろ。それぐらいの余裕は与えてやる。だがお前が立っていられるのは、一瞬だ」

 ふーん。どんな武器だよ。さっきの眼鏡は武器無し。男はメリケンと、ニセモノの刀。本物の血を吸ったオレの武器以上に殺しに向いた道具なんか、出てくるわけ。

「え?」

 いやいや、待てよ。ちょっと待てよ。あれって、いやそんなこと無いって。ニセモンだろ?なんでこの小僧、拳銃なんか持ってんだよ!

「お父さん、これって本物だよね」

 やべーって、目がやべーって。

「安全装置がかかっているぞ」

「え?」

 今が!今チャンスだ!ぶち殺せ!

 オレは勢いのままにバールを振り上げて、小僧に振り落とす。とっさに頭をかばった小僧が拳銃を落としたのをオレは見逃さなかった。

「ふん。お前など所詮はこの程度だ」

 オレは拳銃を拾い上げてその重さに驚愕する。ってか、セーフ。あぶねえ、まじで本物じゃねえの、これ……

「お父さんが、俺に貸してくれたもんだ。返せ! お父さんに返すんだ! お兄ちゃんみたいに返せなくなったらダメなんだ!」

 なんだよこいつ。こえー、超こえー!ってか、こいつの兄貴拳銃持ってんのかよ!ってか来んなよ!

「……!?」

 え、今、オレ、撃ったんだよな。すげーうるせー割に引き金ってこんな軽いの?

「え……なに? こいつ死んだの?」

 ぐるぐる頭が回る。小僧の腹から流れる赤色がバカみたいに廊下に流れていく。

「お父さん、拳銃取られちゃった。お兄ちゃん、ゲーム無くしちゃって、ごめんな、さ」

 嘘だろ。マジかよ。死んだの?オレ殺したの?当たったの?どういうこと?

「ま、間抜けな、奴、だ。この、黒の、レンブラントさ、まにかかれば、お前なんか」

 殺した。オレが殺した。初めての獲物。死体。ゲームだ。覇道だ。神になる。殺した。なんで?なんで死んだ?

「うわーーーー!」

 金属音。重い。命、死んだ。獲物。死体。殺人。ちがう。これはゲームだ。神になるゲームだ。オレは悪くない。いや、正しい。だってこれは殺し合いのゲーム。そうだ。大丈夫だ。作品を作らなきゃ。オレはあの神様になるんだから。

「ははは。無様だな。僕の前に出てくるからこうなるんだ。お前は僕の作品第一号だ。そうだ。この聖遺物は神が、僕の神である黒のレンブラントからもたらされた祝福だ! 死すべきお前に教えてやるよ! 黒のレンブラントは実在するんだ! 都市伝説なんかじゃない! オレはこの目で見たんだ! たしかに、たしかにあの人は人を殺し、芸術作品に仕上げたんだ!」

 オレはあの目を忘れない。あの衝撃を忘れない。オレはあの神を超えるカンペキな神になるんだ。だからこれはしょうがない。これはオレが殺したんじゃない。運命だ。運命によって決まったことだ。闇に堕ちるのはオレじゃない。こいつが勝手に飛び出してきたんだ。目がおかしかった。オレは運命を運命だ。間違いない。運命だ。運命だ。運命だ。

「ははは、今度はなんだよ。なんでキツネの妖怪がここにいるんだよ」

 わけがわからない。オレはどこにいるんだ。なんで、痛い。痛い。くる、し。


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