訃報の日
家康が死んだのは、その三ヶ月後だった。
訃報が届いたのは、昼過ぎだった。
秀忠は書類を持ってきた土井利勝に、「今日はいい」とだけ言った。
それから縁側に出て、庭を見た。
何を見ていたのかは、わからない。庭はいつもと同じだった。松の形も、石の並びも、何も変わっていなかった。変わっていないのに、何かが変わっていた。それが何なのかを探すように、ただ庭を見ていた。
日が傾いてきた頃、お江が隣に座った。
何も言わなかった。
秀忠も何も言わなかった。
夕暮れが庭を染めた。赤から紫へと変わって、それからゆっくり暗くなった。二人は並んで座ったまま、日が落ちるのを見ていた。言葉は何もなかった。何も言わなくていい、とお江は思っていた。言わなくていい、とわかっているからこそ、隣に座っていた。
夜になって、侍女が灯りを持ってきた。
秀忠は「いい」と言った。
灯りはいらなかった。
暗い庭を、もう少し、二人で見ていた。
縁側の廊下の端で、ひさは息を殺して控えていた。奥方様のご用があればすぐ動けるよう、ただそれだけのために。しかし用はなかった。二人はただ、暗くなった庭を見ていた。
ひさは途中から、何を控えているのかわからなくなった。それでも動けなかった。動いてはいけない気がしたからだった。
秀忠が、ぽつりと言った。
「……お父さん、めんどくさいとこ多かったよな」
お江は何も言わなかった。
「関ヶ原の時も。将軍の時も。ずっと、なんかしろって。全部ひとのせいにしてたよな、あのひと」
「……そうね」
「なのになんで、いなくなると……」
秀忠は、そこで止まった。
最後まで言わなかった。
お江も、続きを聞かなかった。
ひさは廊下の端で、その「止まった場所」を聞いていた。生涯、誰にも話さなかった。お江がそうしたように。




