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見えない影を追い求めて  作者: 陽花紫


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3/4

影となる

 冬が近づくころ、イサムさんは少しずつ俺と距離を取るようになっていく。


 メッセージの返事が遅くなって、仕事を理由に会わない日が続いていたんだ。

 不安になった俺は、いつも部屋の隅で枕を抱いていた。

 まるで、何かを奪われた子どものように。


「どうして……会ってくれないんですか?」


 電話越しに耳に入ったその声は、思いのほか低かった。


「君といると、全てが壊れてしまいそうになる」

「壊れても、いいじゃないですか」

「君は、まだ若い。俺みたいな人間といては、いけないよ」


 その言葉が、胸に刺さる。


「そんなこと、言わないでください。俺は、イサムさんがいなかったら……何も残らない」


 沈黙が、続いた。


「アキト」

 イサムさんが初めて、俺の名前を呼んでくれた。

 その響きだけで、涙がこぼれた。


「俺も、君のことを想っているよ。だからこそ、俺たちは距離を置くべきだ」

 その言葉は、確かに耳に入っていた。

 けれど俺は、信じたくはなかったんだ。


 次の瞬間、電話は切れた。


 呆気なく、俺たちは終わったんだ。


***


 それから、三ヶ月が過ぎた。

 俺は、仕事に没頭していた。

 日々の中で、イサムさんのことを思い出すたびに心に強く蓋をした。


 春が来るころ、ふと、街でイサムさんに似た背中を見かけていた。

 それだけで、息が詰まるほどに懐かしくなる。

 追いかけようとしたけれど、この足は動かなかった。


 ——会いたい。でも、もし、もう俺を必要としていなかったら。


 そんな臆病な思いが、俺をその場に留まらせていたんだ。


 ある夜、久しぶりにドラマを見た。

 かつて俺を惹きつけた、あの、父親役の俳優が出ていた。

 けれど、もう何も感じることはなかった。


 画面の中の笑顔は、作り物だとわかっていた。

 本当の温もりは、あの人の腕の中にしかなかった。


 ——イサムさん。


 その名前を口の中で転がした瞬間、涙が頬を伝っていた。


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