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AI探偵・上尾藍  作者: てこ/ひかり
第三幕
30/31

Case27. キャラクターが勝手に動いた事件

 藍の頭上に、重たく巨大な金棒が振り下ろされた。男がニヤリと目を細め、上唇を歪ませる。

 しかし……


「効かないねぇ」

「な……」


 巨大な金棒の下から、名探偵の明瞭な声が聞こえてきた。男は目を白黒させ、固まった。


「ゴムだから!」

「何……だと!?」

「ゴムゴムの銃!!」

「な……なにぃ〜っ!?」


 次の瞬間。大男が藍の弾丸のような拳を浴び、真後ろに吹き飛ばされた。


「な……なんだこれは……!?」

 思いがけず膝を付いた男が、訳が分からない、と言った顔で藍を見つめた。藍は黒渦の中からひょいと抜け出すと、ニカッと笑った。

「見たか! これが、()()()の力だ!」

「ぐ……一体!?」

「お前……お前ホンマに売れる気あるんか?」

 真実が思わず刀を取り落とし、心底呆れた顔で藍を見つめた。


『やった……やりました! 見ましたか真実さん!?』

 草むらから、スマホの中から和音が鼻息荒く、勝ち誇ったように胸を張った。

『これが、生成AIの力です!!』

「ダメだから! 悪の力だからそれ!」

「ドン!!!」

「ドンじゃなくて。話聞けよ!」

「か……め……は……め……」

「ま……まさか……!?」

「もう終わりだよこの物語(ハナシ)……」


 男の表情が凍り付き、真実は頭を抱えた。高濃度のエネルギー砲が、藍の突き出した両手から放たれ、男の全身を焼き尽くして行く。断末魔の叫びを上げた男は、黒渦の奥へと消えて行った。


 しばらくして裏路地が静寂と取り戻した。いつの間にか筋肉ムキムキになり、何故か上半身が裸になっている……どう見ても作画が変わったとしか思えない藍が、地面に落ちた御約束(シナリオ)の切れ端を拾い上げた。


「これで……」

 藍は御約束(シナリオ)を破りながら、清々しいほど爽やかにほほ笑んだ。

「未来は白紙ってわけだ」

『やりましたね先生! さすがです♪』

 和音が歓声を上げる中、真実がツカツカと藍に近づき、彼の頭を思いっきりしばいた。


「痛ぇっ!?」

「お前何やってんねん!?」

 目が飛び出さんばかりに怒り狂う真実に、再び作画が変化した藍がドヤ顔で宣言した。


「この戦争を……終わらせに来た!!!」

「このヤロー、本当に終わらせに来やがったな」

 真実が口元を引くつかせた。

「ジッチャンの名にかけて、真実はいつも一つ!」

「やめろ! これ以上罪を重ねるな!」

「もうこれで……終わってもいい……だから……ありったけを」

「終われ終われ! マジで頼むから!」

「もうちょっとだけ続くんじゃ?」

「終われって言ってんだろーが!」


 ゆっくりと黒渦が引いていき、中天に輝く星が戻ってきた。


「ごめん、ごめんって!」

 満天の星空の下、真実にボコボコにされながら、藍が謝った。

「作者は当然反対したんだけど……キャラクターが勝手に動いてしまって」

「どんな言い訳やねん!」

「痛っ! ごめん、僕、真実君のお父さんを……」

「あ?」

 真実が藍をぶん殴りながら、小さくため息を溢した。


「……平気だよ。あの世の存在だから、別にお前らと違って、死ぬとかないから」

「そうなんだ。なら良かった」

 馬乗りにされながら、藍が朗らかに笑った。


「最後にAIは勝つ。AIの勝利だね」

「……生成をつけろよ。美談みたいに言ってんじゃねーぞ!」

「痛いっ!」

「……ありがとよ」

「痛……え? 何か言った?」

「うるせぇ! もう終わりだ! 終わり終わり!」

『うふふ♪』


 やがて東の空が白み始め、ゆっくりと陽が昇る。新しい朝が来た。希望の朝だ。藍は立ち上がり、フラフラと朝陽に向かって……今回は、しかし走り出さなかった。もう無理してお約束を守らなくても良いのだ。この世には、それ以上に守らなくてはならないものがある。愛とか勇気とか、権利関係とか。


 暖かく、穏やかな南風が頬を撫でる。生成された著作物たちが、まるで壁画のように空で煌めいていた。三人はしばらくその場に留まり、消え行く星々を、陽が昇るのを見つめていた。


 〜終〜

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