Case27. キャラクターが勝手に動いた事件
藍の頭上に、重たく巨大な金棒が振り下ろされた。男がニヤリと目を細め、上唇を歪ませる。
しかし……
「効かないねぇ」
「な……」
巨大な金棒の下から、名探偵の明瞭な声が聞こえてきた。男は目を白黒させ、固まった。
「ゴムだから!」
「何……だと!?」
「ゴムゴムの銃!!」
「な……なにぃ〜っ!?」
次の瞬間。大男が藍の弾丸のような拳を浴び、真後ろに吹き飛ばされた。
「な……なんだこれは……!?」
思いがけず膝を付いた男が、訳が分からない、と言った顔で藍を見つめた。藍は黒渦の中からひょいと抜け出すと、ニカッと笑った。
「見たか! これが、この世の力だ!」
「ぐ……一体!?」
「お前……お前ホンマに売れる気あるんか?」
真実が思わず刀を取り落とし、心底呆れた顔で藍を見つめた。
『やった……やりました! 見ましたか真実さん!?』
草むらから、スマホの中から和音が鼻息荒く、勝ち誇ったように胸を張った。
『これが、生成AIの力です!!』
「ダメだから! 悪の力だからそれ!」
「ドン!!!」
「ドンじゃなくて。話聞けよ!」
「か……め……は……め……」
「ま……まさか……!?」
「もう終わりだよこの物語……」
男の表情が凍り付き、真実は頭を抱えた。高濃度のエネルギー砲が、藍の突き出した両手から放たれ、男の全身を焼き尽くして行く。断末魔の叫びを上げた男は、黒渦の奥へと消えて行った。
しばらくして裏路地が静寂と取り戻した。いつの間にか筋肉ムキムキになり、何故か上半身が裸になっている……どう見ても作画が変わったとしか思えない藍が、地面に落ちた御約束の切れ端を拾い上げた。
「これで……」
藍は御約束を破りながら、清々しいほど爽やかにほほ笑んだ。
「未来は白紙ってわけだ」
『やりましたね先生! さすがです♪』
和音が歓声を上げる中、真実がツカツカと藍に近づき、彼の頭を思いっきりしばいた。
「痛ぇっ!?」
「お前何やってんねん!?」
目が飛び出さんばかりに怒り狂う真実に、再び作画が変化した藍がドヤ顔で宣言した。
「この戦争を……終わらせに来た!!!」
「このヤロー、本当に終わらせに来やがったな」
真実が口元を引くつかせた。
「ジッチャンの名にかけて、真実はいつも一つ!」
「やめろ! これ以上罪を重ねるな!」
「もうこれで……終わってもいい……だから……ありったけを」
「終われ終われ! マジで頼むから!」
「もうちょっとだけ続くんじゃ?」
「終われって言ってんだろーが!」
ゆっくりと黒渦が引いていき、中天に輝く星が戻ってきた。
「ごめん、ごめんって!」
満天の星空の下、真実にボコボコにされながら、藍が謝った。
「作者は当然反対したんだけど……キャラクターが勝手に動いてしまって」
「どんな言い訳やねん!」
「痛っ! ごめん、僕、真実君のお父さんを……」
「あ?」
真実が藍をぶん殴りながら、小さくため息を溢した。
「……平気だよ。あの世の存在だから、別にお前らと違って、死ぬとかないから」
「そうなんだ。なら良かった」
馬乗りにされながら、藍が朗らかに笑った。
「最後にAIは勝つ。AIの勝利だね」
「……生成をつけろよ。美談みたいに言ってんじゃねーぞ!」
「痛いっ!」
「……ありがとよ」
「痛……え? 何か言った?」
「うるせぇ! もう終わりだ! 終わり終わり!」
『うふふ♪』
やがて東の空が白み始め、ゆっくりと陽が昇る。新しい朝が来た。希望の朝だ。藍は立ち上がり、フラフラと朝陽に向かって……今回は、しかし走り出さなかった。もう無理してお約束を守らなくても良いのだ。この世には、それ以上に守らなくてはならないものがある。愛とか勇気とか、権利関係とか。
暖かく、穏やかな南風が頬を撫でる。生成された著作物たちが、まるで壁画のように空で煌めいていた。三人はしばらくその場に留まり、消え行く星々を、陽が昇るのを見つめていた。
〜終〜




