頭の処理追いつかんぞ
「え、榎本さぁん……あ、あとどれぐらい歩けば……」
「んー、多分5分……いや、10分くらいかなぁ?」
日が暮れ始め少しづつ暗くなってきた道先を榎本が先に進む。それをひたすら一歌が後を追う形でついて行くと、ようやく目的地に着いたのか榎本が立ち止まった。
「到着で〜す」
そう言って目の前にある建物を指差す榎本。その建物は周りに建物は無くぽつりと建っている一軒家だった。
「……この家は?」
「んーとね、霜寺組の事務所だよ」
「へぇぇ、霜寺組の事務所ですか…………え?」
おい待て、今この人さらっととんでもない事を言ったような……。き、聞き間違えかもしれないからもっかい聞いてみよう、うん、ソウシヨウ。
「え、榎本さん、し、霜寺組ってあれの?」
「うん、あれの」
自分で言っておいてあれのってどのだよ。
心で突っ込みながら頭をひねり考える。……この場合どう考えてもあっち系のものなのか、と考えながら言葉を絞り出す。
「あれのって、や、や、やく、やくざ……の??」
「うん、ヤクザだよ」
何食わぬ顔で言う榎本だが、正直そんなことを言われたら恐怖しか感じない。一歌は震える足を抑えながらなんとかその場に立っていた。
「な、なんでここに連れてきたんですか?」
「そりゃあ、お仕事のためですよお仕事の為」
そう言うと榎本はポケットからスマホを取り出し誰かに連絡し始めた。どうやら電話をしているらしい。しばらくして通話が終わったのかスマホをしまうとニコッと微笑みながら呆然とする一歌の肩を軽く叩き。
「よーし一歌、君に重要任務を与える。背中のピザを霜寺組に配達してきなさーい」
「はいぃ!?」
「ほれ、早く行った行った!」
戸惑う一歌に榎本は無理やり背中を押して霜寺組の中へと入れさせた。そしてそのまま勢いよくドアを開けると大きな声で叫ぶように言い放った。
「ちわーす!ピザをお届けに参りました!!」
「ちょ!榎本さ……あっ」
一歌の言葉も聞かず強引に一歌を事務所内に押し込むとバタンッと音を立ててドアを閉めた。
「後で助けに行くし助っ人も行かせるから少し待っててね」
ドア越しにそれだけ言うと榎本の足音が徐々に遠のく。……どうやらどこかへ行ってしまったようだ。
「(ど、どうしよう……)」
今の状況に困り果てオドオドしていると奥の方から声が聞こえ思わず声を上げてしまった。
「おい、誰だお前」
その言葉に反応し恐る恐る振り向くとそこにはスキンヘッドの大柄な男がこちらを見下ろしていた。男は眉間にシワを寄せ睨むような目つきで見てくる。その迫力に思わず後退り。
「あ、あの、私……」
一歌は必死に頭を回転させるがこの状況を打開できる方法が思いつかない。あまりの恐怖に泣き出しそうになるのを何とか堪えてると突然背後からガチャリ、音がした。反射的に振り返ると自分と同じ背丈の男性……だろうか?深々とキャスケットを被り表情が見えず体格的にも男なのか女なのか判断できない人物がそこにいた。
「(え、え、えぇぇぇ……急に変な人も来ちゃったよぉぉ……榎本さん、助けてぇ……。)」
心の中で榎本に助けを求めるも届くはずもない。霜寺組のスキンヘッド&突然乱入してきた謎のキャスケット野郎&朝神一歌(私)……、何だこの空間、もう訳わかんねぇ。そんなことを考えているとこの場に似合わない明るい声が響いた。
「すみませ〜ん、この子新人でしてぇ……ほらほら、リュックサックから注文の品出して」
突然の声を聞き慌てて背負っていたリュックサックを下すとそこから注文されたピザを取り出した。
「あ、あの、ご注文の品です……」
そう言って目の前にいた人物の前にピザを差し出そうとすると隣のキャスケット野郎が一歌の両手首を掴み強引にスキンヘッドの前にピザを突き出すと、そのまま一歌の腕を引っ張り自分の方へと引き寄せた。
「注文以上ですね!毎度ありがとうございました〜!!」
「え、え、え?」
状況が全く理解できず混乱する一歌を無視してキャスケット野郎はそのまま一歌の手を引き足早に事務所を出た瞬間、奥の方からガタガタと音がしたかと思えばパリーンとガラスが割れる音が聞こえ、ますます一歌は混乱する。
「へへっ、榎本の兄貴無事侵入できたみたいだな」
「え?」
聞きを覚えのあるワードが聞こえたのでゆっくりそのワードを口にしたであろう……キャスケット野郎の方を見ると右手で帽子のツバ部分をつまみ上げながらニヤリと口角を上げて笑みを浮かべ事務所の方を見ていた。
"貴方は榎本さんとどういう関係なんですか?"
とキャスケット野郎に質問した、はずなのだが緊張と恐怖のせいなのか上手く喋れず息が詰まる。
「おい!お前誰だ!!」
「俺?俺は……愛と平和を守る、プ○キュアでぇす☆」
「嘘つけ!!」
事務所から榎本と霜寺組の人達とのやり取りが聞こえる。バクバクと心臓が激しく鼓動する。一歌は無意識のうちに榎本から貰ったハートのネックレスを握りしめながら地面に膝をつく。
「(怖い、帰りたいよぉ……)」
そんなことを思いながら目を瞑っているとふと何か柔らかいものが頬に触れた気がしたのでゆっくりと目を開けるといつの間にか目の前には先程のキャスケット野郎の顔があった。
「ひっ!?」
「……何怯えてんのさ」
「だ、だって……!」
キャスケット野郎は呆れた様子でため息を吐くと一歌の頬に手を添える。
「いだだだだだだァァ!!!」
「おーおー!よく伸びんじゃん!!」
「痛い!!離してくだ、さいっ!!」
一歌の悲鳴も聞かず楽しそうに一歌の頬をつねり続けるキャスケット野郎。ようやく解放された時には一歌の目には涙が浮かんでいた。
「あーあ、泣かせちゃった」
泣き顔を見て両手を上げてながらケタケタ笑うキャスケット野郎に怒りを覚えるも怖くて何も言えない。当たりようのない怒りを必死に抑えていると突然キャスケット野郎が一歌に向かって手を伸ばしてきた。
「え……」
「え……じゃねえよ。早く立てって、こんなとこで座り込んでたら邪魔になるよ"朝神一歌"チャン」
キャスケット野郎の言葉を聞いた途端一歌の目が大きく見開く。どうしてこの人は私の本名を知っているのか。
「ど、どうし、て……」
「どうして、かって?……詳しいことは榎本の兄貴が帰ってきたら教えてやるから、さっさと手取れよ」
そう言い終わると同時に差し出された手に一歌は自分の手を重ねた。




