第一印象大事
霜寺組の事務所から少し離れて、榎本が車を停めた倉庫内にて。
「マヌケ顔だからかよく伸びるよなぁ〜」
「……うげぇぇ」
強引に近い形でキャスケット野郎にこの場所に移動したかと思えば"ここで榎本の兄貴の帰りを待っとくか〜"とホコリで薄汚れた床の上にどっかり座り込むと、隣に座れと言わんばかりに自分の横を指差すキャスケット野郎。嫌々ながらその指示に従い渋々と隣に腰掛けると頬を思いっきり引っ張られ今に至る。
「い、いい……加減にして、くださぃ!!」
溜まりに溜まった一歌の怒りのボルテージはもう限界を超えていた。我慢の限界だと言わんばかりにキャスケット野郎の手を振り払うと、今度は私の番だと言わんばかりに相手の両頬を掴み思いっきり左右に伸ばす。
「い゛っだぁ!!おま、お前マジで何してんだよ!?」
「それはこっちのセリフです!霜寺組の事務所で助けてくれた事は感謝しますけど、人の顔をいきなり引っ張るなんてどういう神経しているんですか!」
「あー?だってしょうがないじゃん。引っ張りたくなるマヌケ顔だったんだし」
「理由になってないです!!それに私、これでも女の子なんですよ!?もう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか!」
「……フッ」
「笑うなっ!」
一歌の怒声などお構い無しといった様子で鼻で笑うキャスケット野郎。この人絶対性格悪いぞ、絶対そうだ。そんなこんなでギャイギャイ言い争っていると突然物音が聞こえてくる。咄嵯の出来事にお互い口を閉じ音のした方に視線を向けるとそこには。
「おー!お2人初対面なのに仲良くやってるようだね」
「榎本の兄貴お疲れ様です!!」
いつの間に帰ってきていたのか、1枚の紙切れを片手に持ちながらニヤリとした笑みを浮かべている榎本の姿があった。
「お、おかえりなさい榎本さん……」
「ただいま2人とも。ごめんね、遅くなって」
「いえ……あの、それより何かあったんですか?」
榎本は手に持っていた紙切れをヒラヒラさせながらこちらに見せつけてきた。
「コレだよコレ」
「……それって」
「土地の権利書。本来俺達、東義組の物になるようになってるんだけど……どうやら霜寺組が横取りしようとしてたみたいでね、それで親父から権利書奪ってこいとのご命令を受けてたわけ」
いつの間に榎本の隣に移動して待機していたキャスケット野郎に権利書を渡しつつ説明してくれた。
「そういう事だったんですね……」
「うん、俺1人じゃ権利書奪い取れなかったし一歌が霜寺組の人を引き付けてくれたり……あ!翔吾も連絡したらすぐ来てくれてありがとうね」
「榎本の兄貴の役に立てるなら全然大丈夫ですよ!」
先程までの態度とは一変し、満面の笑顔で返事をするキャスケット野郎(翔吾さんって言うらしい)。榎本にこんな態度をとるから、やっぱりこの人は猫を被ってるようだ。効果音をつけるならキャピキャピ?みたいな感じだろうか。なんかムカつく。キャピキャピしてるキャスケット野郎を睨みつけてると、不意に肩に手を乗せられる感覚を覚えた。その手の主である榎本を見ると
「そう言えば2人とも自己紹介まだだったよね?」
と呟いた。確かに、言われてみればキャスケット野郎の名前すら知らないまま今まで会話をしていた事になる。改めて挨拶するべきなのだろうけど……なんだろう、第一印象が最悪だったからか挨拶したくない気持ちが強い。しかしこのまま何も言わずにいる訳にもいかないので軽く咳払いをし、口を開く。
「えっと、私は朝神一歌と言います。今日は助けに来てくれて本当にありがとうございました」
いくら頭にくる相手でも助けてくれた恩人には変わりない為、ちゃんとお礼を言うべきだと思い素直に頭を下げる。
「……中谷翔吾」
一方、中谷翔吾と名乗ったキャスケット野郎はぶっきらぼうに名前だけ告げるとそっぽを向いてしまった。
「(いやいやいや!それだけ!?もうちょっと他に言うことあるんじゃないの!?)」
心の中でツッコミを入れていると榎本は苦笑いしながら口を開いた。
「ははは、ごめんね一歌。翔吾ったら人見知り激しいんだ」
「あー、そうなんですね……」
「あとね、翔吾は見た目あんなだけど中身は優しい奴だから安心していいよ」
「……はい」
榎本の言葉に小さく返事をしながらチラッと横目で見ると、キャスケット野郎改め中谷さんは無表情のままこちらを見たかと思えばベーと舌を出してきた。
「(あぁ、やっぱりコイツ嫌いだわ)」
そんなこんなでお互いの自己紹介が終わり、再び沈黙が訪れる。気まずい雰囲気に耐えかねていると突然榎本が手をパンッ!と叩いた。
「権利書も無事獲得したし報告しに行かなきゃね。ほらほら、2人とも車に乗りなさーい」
「了解です榎本の兄貴!」
「……はい」
榎本に続くように車に向かおうとすると中谷が一歌の足を踏んできた。
「痛っ!?何するんですか!」
「別にぃ?ただ、お前と仲良くするつもりはないって伝えたかっただーけー」
「……私だってあなたと仲良くしたいなんて思ってませんから」
「あっそ。じゃあ俺は先に車に乗っとくな」
足を踏んだ事に謝罪する事もなく、さも当然かのように車の助手席に乗り込みに行く中谷を見送りながら小さくため息をつくと心の中で叫ぶ。
「(いつか絶対っ、中谷をギャフンと言わせてやるっ!!)」
そんな事を考えながら、榎本と中谷の後を追うようにして車へと向かった。




