冗談にしては怖いです
榎本が運転する車の後部座席に座り一歌は胸元に銀色に小さく光るハートを摘み眺める。
店から出る時に仕事着を買った時に付いてきたレシートに記入されてるネックレスの値段をこっそり見た時、某ゲームの"こうかはばつぐんだ!"のテロップが出てきてもおかしくない程の精神ダメージを食らってしまい、しばらく放心状態だったがズボンの左ポケットに入れていたスマホの通知音(迷惑メール)のお陰でなんとか戻ってこれた。
意識を取り戻すきっかけってことで感謝しておいたが目を伏せたくなるばかりのいかにも下心丸出しだと分かる文章をつらつら並べた内容の物だったので感情を無にしゴミ箱に転送したりして今に至る。
「一歌一歌〜、あれ見てあれ」
「……ふぁい?」
榎本に声をかけられ視線をハートから運転席の榎本に向けると直射日光で黒く光る彼の黒革手袋の右手が左方向を指さす。それを辿るように一歌の視線も左へと向けると"短時間で高収入!"とデカデカとピンク文字で書かれたいかにもヤバそうなトラックを見つけ顔が引き攣る。
「短時間で高収入ってありえな〜い話だから、お金に困ってもあんなところに電話掛けちゃダメだから、ね!」
冗談で言ったのであろう、ハハッと笑う榎本とバックミラー越しに目が合った。
一瞬背筋に悪寒のようなものが走ったがすぐに気を取り直して榎本に"そ、そうですねぇ"と返事をして何事も無かったかのように窓の外を見つめる。
そんな一歌の様子を見て榎本は再び口角を上げアクセルを踏み込んだ。
〜〜〜〜
榎本の運転する車が東義組の事務所がある場所からかなり離れた廃墟となった倉庫の前に停車し榎本が降りた。その動きに合わせるように後部座席に座っていた一歌もシートベルトを外すと車を降りる。降りてすぐ隣の榎本を見ると何やら大きなリュックサックのような物を背負っていた。
「え、榎本さんこれは……?」
困惑気味な表情を浮かべながら一歌は尋ねると榎本は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。そして背負っていたリュックサックを一歌に差し出す。
「背負ってみて!」
「せ、背負う?私が??」
訳が分からず一歌は差し出されたリュックサックを手に取りまじまじと見つめる。特に変わった所はない普通のリュックサックにしか見えないが……?
いや待てよ。
嫌な事が脳裏によぎる。
「え、榎本さん……」
「ん〜??」
呑気に返事する榎本に震える声で一歌が質問する。
「も、もしかして……このリュックに爆弾が入っている、……とかじゃないです、よねぇ……??」
語尾がだんだん小さくなる声量で言い切った後恐る恐る一歌が顔を上げると、目の前には腹を抱えて爆笑している榎本の姿があった。あまりにも予想外の光景過ぎて一歌の思考が停止する。
「あーはっはっはっ!!あは、あはっ……はー……ごめんごめん。一歌の反応が面白くてついつい〜」
涙目になりながら笑いすぎたのか息切れを起こしていた榎本が呼吸を整えつつ一歌に手招きする。まだ混乱中の一歌は何も考えずにフラフラとした足取りで榎本の方へ歩み寄るとリュックサックを手に取り開けると中から謎の湯気と共にデリバリーピザの箱が出てきた。
「リュックサックの中の正体はピザでしたー!」
「……ピザ?今から何処かに配達でも、するんですか?」
「ま、そういうことよー!」
ピザで良かった。
ほっと胸を撫で下ろした後、ピザを崩さぬようリュックサックに入れ直すと"さて行きますかー!"と掛け声とともに一歌の前を歩く榎本に"どこに!?"と心の中でツッコミを入れながらも再びリュックサックを肩にかけ榎本に続くように歩き始めた。




