内容確認
鞄の中身よーし。
見た目……少し髪が跳ねてるけどよく見なければ気づかれないでしょうから、よーし。
スーツのズボンのベルトを締めながら鏡に写る自分を見つめて頬を叩く。
「よーし!朝神一歌、頑張ります!」
第一印象が大事だから、笑顔でガッツポーズをすると鏡向こうのもう1人の自分が笑いながらガッツポーズをしていた。
〜〜〜〜〜〜
家を出た一歌はスマホ画面を眺めながら、目的地へと足を進める。
「ん〜……航空写真だとこの場所分かりずらいな」
それもそうだ。
なんやかんや言って一歌がここに越してきたのは、1か月前の事。最近自分のアパートの位置をようやく覚えたのだというのに、アパートから離れた場所なんて一歌にとっては未開の地に近い。
「うーん、ここはタクシー使おう」
余裕を持って出たのはいいが迷子になっては早く出た意味が無くなる。
キョロキョロと周りを見渡せばタクシーが空席を知らせる電光掲示板をチカチカ光らせながら道路の端に停まっている。スマホを鞄に入れ急いでタクシーの元へ走り、乗り込めば運転手が一歌の方に視線を送りながら口を開く。
「お客さん、どちらまで?」
「どち!?え、えっとぉ……」
場所名が分からなきゃいつまで経っても出発出来ない。
鞄に手を突っ込み、スマホを取り出し運転手へと画面を向ける。
「こ、ここまでお願いします!」
「……分かりました」
ほっと胸を撫で下ろす。これで早々迷惑かけさないで仕事場に行ける!と喜んでいると遠心力で窓ガラスに頭をぶつけた。
「お客さん。シートベルトしめてね」
「……し、失礼しました」
スマホを横に置いた鞄にしまい、シートベルトをしめる。スマホの充電を保つ為に窓を眺めれば見たことの無い景色が走馬灯のように流れていく。
「あ、お客さん」
外の景色に一歌の意識を奪われかけてる内、運転手が沈黙を破った。
「お客さんが行く所、結構危ない所だから用心した方がいいよ」
「……」
「お客さーん?」
「へっ?今何か言いましたか?」
「……いえ、別に」
「?」
完全に上の空になっていた一歌の耳に運転手の言葉が惜しくも届かなかった。鼻歌を歌いながら再び窓を眺める一歌を室内のミラーで見ながら運転手はゆっくりブレーキを踏む。
「お客さん、着きましたよ」
「え、早っ!」
驚きつつも鞄から財布を出しメーカーに表示されている金額を取り出し運転手に渡す。"ありがとうございましたー!"と律儀にお礼を言いながら車から出ようとする一歌を見ながら帽子を深くかぶり直した運転手が言う。
「気を、つけてくださいね」
「え?」
その言葉の意味はどういうこと?と聞く前にタクシーのドアはパタンと閉められ一歌を置いて走り去ってしまった。




