間違えた?
「……気をつけるってどういうこと?」
イマイチ運転手の言葉の意味がわからん。
そんなことを思いながら目的地であろう目の前の異常なオーラを放つ和風な大きい建物を眺める。
「ほわわあぁ……デッカイッ!」
スマホ画面と照らし合わせればここで間違いないようだ。鞄を抱え建物の敷地に足を踏み入れようとした瞬間、目の前を大きな物体が横切り思わず足を止める。
「おいっ高瀬ぇ!あの店のみかじめ料をキッチリ持ってこねぇって事はどういう事だゴラァ!」
「て、テメェだって借金の集金日サボってキャバで飲んだくれてたじゃねぇか!」
「ンだとっ!?」
「……」
ガタイの良い男2人が組み合って一歌の前で何か言いあってる。
「こうなりゃ…ステゴロで勝負じゃ!」
「上等だッ!!」
急に殴り合いを始めた。
急展開過ぎてよく分からない状態に出くわしてしまったため、ただただその場に立ち尽くしていると激しい殴り合いで誰のか分からない生々しい赤色の液体が飛び散ると一歌の足元に落ちた。
「ひっ!」
「んあ?」
「……んー?」
それが血だとわかった時には空気になりきっていた一歌の口から小さな悲鳴が上がる。普段の生活では見ない血の存在に怯えていると、殴り合いをしていた男2人が一歌の存在に気づき近づいてきた。
「おやおや、こんな所で何してるのお姉ちゃん?」
「こんなところにいちゃ危ないよぉ」
いかにも下心丸出しの笑顔を浮かべた高瀬と呼ばれた男が一歌の肩を掴む。反抗しようにも突然訪れた恐怖のせいで体が言うことを聞いてくれない、鞄を抱きしめながらガタガタ震える。
「そうだよな怖いなぁ、高瀬のせいで」
「おいぃ!それはどういう事だァ!?」
また口論が始まる。
仕事より早くここから立ち去りたい気持ちが強くなり目頭が熱くなる。
「ど、どうして……ッ、私がこんな目に……ヒック」
鞄に顔を寄せ肩を震わせていると、口論している男達とは違う別の声が聞こえた……ような気がしたが誰か確認したくても恐怖のせいで顔を上げることも出来ない。その場でヒクヒクと泣いてると突如頭から感じる温もり。
「ほら、泣かないで」
頭上から聞こえる優しい声に思わず顔を上げると、あの男達とは違う男が一歌の頭に手を添えながら立っていた。
前髪をあげるように掛けたサングラス、その前髪に青色のメッシュを入れた短髪、顎に少し髭を生やした……その男は一歌の目線と同じようにしゃがむと軽く肩を掴みながらにこやかに笑った。
「ここに来たって事は君が朝神一歌さん、だね?」
「……えっ?」
"なんで、この人は私の名前を知ってるのだろうか。"
涙でぼやける視線を男性に向けながら疑問を抱いてるとすぐに返事が来ない事で頭を傾げた男性が一瞬悩む仕草を見せたかと思えば、突然ズボンの両ポケットに手を突っ込んでは右ポケットからスマホを取り出すと一歌の前にスマホを突き出し電源の入ってない真っ黒の画面を指さした。
「この電話じゃないけど君昨日電話くれたでしょ?その相手したの俺なのよん」
「…き、昨日受付して下さった?」
「そうなのよー、昨日はお電話ありがとうございましたー!」
「こ、こちらこそ!わざわざ私の為に時間を割って頂いて……」
「いやいやー!かわい子ちゃんからの電話ならいくらでも時間かけちゃうから気にしない気にしない!……さて」
スマホを持ってない片方の手で笑いながら一歌に向けてピースするとゆっくり立ち上がる。そして大きく手を広げると
「朝神一歌さん、ようこそ東義組へ!」
そう爽やかに男性は言い放った。




