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「さて、本来ならば散歩の時間だけど、今日は生憎の雨なので、色について学ぶ時間に充てたいと思います」
「色、ですか?」
セレンティーヌがコテンと不思議そうな顔で小首を傾げる。
「色といってもたくさんの色があるのだけど、私が今から話すのは『似合う色』と『似合わない色』についてなの」
「似合う色と似合わない色……」
「そう。その人の持つ肌の色や瞳の色、髪の色、様々な要素によって似合う色と似合わない色があるわ。私を例にすると、ワインレッドやロイヤルブルーなんかのハッキリした色は合うけれど、黄みの強いくすみ系や淡い色、マットな質感は合わないの」
「確かに、この前の夜会でマリ様が着用されていた赤いドレスはとてもお似合いでしたわ」
思いがけないセレンティーヌの褒め言葉に、マリは嬉しそうに「うふふ」と笑った。
「ありがとう。それでね、何が言いたいかというと、自分に似合う色を理解して身につけることで、より魅力を引き出せるということなの。てことで早速だけど、手首を見せてくれる?」
「手首、ですか?」
「ええ。手首の内側、この血管の色が何色に見えるかで、イエベかブルベを知ることが出来るの」
「その、イエベとブルベというのは?」
「イエローベースとブルーベースの略なんだけど、イエベの人はイエロー、オレンジ、ベージュ、ブラウンなんかの色が似合うと言われていて、ブルベの人はブルー、パープル、ピンク、ラベンダーが似合う色だと言われているの。手首の血管の色が緑っぽく見えたらイエベ、青や紫に見えたらブルベって言われているわ。他にも掌の色とか瞳の色とか髪色とか、日焼けのタイプだったりゴールドとシルバーのどちらが肌なじみがいいかとか、色々な見分け方があるんだけどね」
セレンティーヌは感心したように頷きながら、麻里の話を聞いている。
「本格的なものだと細かく十六種類に分類しているものもあったりするんだけど、私もそこまで詳しいわけじゃないから、四種の中からセレンのタイプを選んでいこうと思うの」
「はい、よろしくお願いします」
セレンティーヌが興味に瞳をキラキラさせて差し出した手首の血管は緑色に見え、掌は黄色味を帯びているように見えた。
「瞳の色と髪の色からいっても、セレンはイエベ春ね」
「イエベ春、ですか? イエベは先ほど説明頂きましたが、春にはどのような意味があるのですか?」
「さっき私は四種からタイプを選ぶと言ったでしょう? まず大きく分けるとタイプにはイエベとブルベの二つがあって、それを更に分けたものが『イエベ春』『イエベ秋』『ブルベ夏』『ブルベ冬』になるの。で、その四種の中ではセレンはイエベ春、私はブルベ冬ってわけ」
セレンティーヌが楽しそうに何度も頷いている。
「高位貴族ともなれば、夜会の度にドレスを新調すると聞いたわ。婚約者がいればその相手の色を纏うらしいわね。残念ながらその色が合わないとか、好きな色がイコール似合う色にならない場合もあるわけだけど。どうしてもその色を使いたいなら、イエベの人は少し黄み寄りにしてツヤ感のある生地を選ぶとか、ブルベの人は少し青みを足して光沢を抑えたマットな質感の生地を選べばいいの」
「奥深いですね」
「ええ。今からセレンには自身のタイプであるイエベ春をしっかりと学んでもらって、明日、三カ月後の夜会用ドレスを選んでもらいます」
麻里の言葉に笑顔のままセレンティーヌが固まった。
実はあの夜会から帰ってすぐ、セレンティーヌには内緒でデザイナーに来てもらえるよう、サイラスに手配をお願いしていたのだ。
「とはいえ、今の体型に合わせても意味がないから、ドレスの型はエンパイアで決まりね。セレンには生地を選んでもらうわ。余ほどのことがない限り口出しはしないけど、その場には私もいるから安心してね」
安心なのか安心でないのか、そのよく分からない言い回しに、困ったように眉尻を下げて麻里を見つめるしかないセレンティーヌだった。
11月14日にビーズログ文庫様より『小動物系令嬢は氷の王子に溺愛される10』が発売されます。
こちらの作品はこれにて完結となり、これまで応援してくださった皆様に感謝の気持ちを込めて番外編をアップいたしました。
https://ncode.syosetu.com/n6655ff/
お手隙の時にでもお読み頂けると嬉しいです。




