7
「クラリス様……」
やだ、クラリス様ったら優しい……!!
ま、あんな下品な女を選ぶような見る目のない中身スカスカ男と結婚なんてしたら、きっと相当な苦労をしたはずだもの。これは結果オーライってことにしておこう、うん。
……とはいえ。
「慰謝料ガッポリ取るためとはいえ、騒ぎを大きくしちゃったから……。きっと今後の夜会とかお茶会なんかに行きにくくなっちゃったよね?」
「まあ、確かにしばらくは好奇の視線に晒されることになるでしょうけれど、新しい話題が出てくればそのうち忘れ去られていきますから」
苦笑するクラリスを前に、麻里が何かを思いついたように「あ!」と声を上げた。
「ねえ、クラリス様の『どうしても断れない夜会』って、次はいつかしら?」
クラリスが少し考えてから答える。
「どうしてもお断り出来ない夜会、ではないのですが。二カ月後のセレンティーヌ様のお家主催の夜会には、出席したいと思っておりますわ」
「二カ月後、ね。……うんうん、ちょうど良いタイミングじゃない」
麻里がニヤリと悪い笑みを浮かべるのを見たセレンティーヌが、困ったように眉を下げて聞いてくる。
「マリ様、少し怖いお顔をなさってますが、一体何をなさるおつもりですの?」
「え? どうせ注目されるのだったら、良い方に注目させちゃえばいいと思って」
「「良い方に注目、ですか?」」
セレンティーヌとクラリスが、同じようにキョトンとした顔でパチパチ瞬きしている。
「そう、良い方に注目! このままだと慰謝料ガッポリもらっただけで、クラリス様は傷モノ扱いされたままじゃない?」
「そうですね」
クラリスが頷く。
「だからね、つけられた傷を覆い隠すほどインパクトのあるモノを見せればいいと思って」
「つけられた傷を覆い隠すほど?」
「インパクトのあるもの?」
セレンティーヌとクラリスが揃って首を傾げた。
「婚約破棄されたクラリス様が次に姿を現した時、とびきり垢抜けて美しく変身していたら、皆はどう思うかしら?」
「とびきり垢抜けて、美しく……?」
困惑顔で呟くクラリスに代わり、セレンティーヌが麻里の問いに答える。
「苦痛であった婚約を破棄したことにより、本来のクラリス様の姿を取り戻すことが出来た、或いは婚約破棄して正解だった、など婚約破棄に対する肯定的な意見が飛び交いそうですね」
「それよ。事前に元婚約者達のマヌケなお花畑ぶりを見聞きしている人達が、美しく変身したクラリス様を見て、傷モノなんて言えないと思わない?」
「どちらかと言えば、クラリス様よりゲオルク様の傷が深くなりそうですね。……美しい才女を手放した愚かな令息として」
セレンティーヌの言葉に少々棘が含まれているように感じるのは、大切な友人を傷付けられたことに対して静かな怒りを燃やしているからなのだろう。
「あの、私がとびきり垢抜けて美しくというのには、無理があるかと……」
クラリスが自信なさげに眉尻を下げたヘニョッとした顔で答えた。
「大丈夫! 絶対にとびきり美しくなれるから、私を信じて夜会までの二カ月間、セイロン公爵邸で私が言う通りの生活をしてほしいの!」
「セイロン公爵邸で、二カ月間……?」
淑女らしくないポカンと口を開けて呆けるクラリスは見なかったことにする。
「セレン、せっかくだからあなたも一緒にやろう!」
「わ、私もですか? 何をなさるおつもりで……?」
「特に難しいことはしないから、安心して」
「え、ええ」
返事をしながらも若干不安そうなセレンティーヌとクラリスを前に、
「あ、公爵様にも許可もらわないといけないよね。あと、クラリス様のお家にも許可をもらわないと。忙しくなるわ〜!!」
と、何とも楽しそうな麻里であった。




