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「さて、まずはダイエットを始めるわよ!」

「ダイエット、ですか?」

「ええ。期限のパーティーまでに二十キロ……と言いたいところだけど、とりあえず十五キロ痩せてもらいます」

 麻里の言葉をしっかりと聞きながらも、セレンティーヌは不安そうな表情を浮かべている。

 あの日(・・・)、麻里の素顔を見たサイラスとセレンティーヌの衝撃は大変なものだった。

 そこで二人は麻里に懇々と説得という名の説教をされ、最後には三カ月の間麻里の言う通りに努力を続けることをセレンティーヌに約束させ、サイラスにはそれに対して文句を一切言わないよう約束させたのだ。

「今まで運動という運動をしていなかったセレンにいきなり過激な運動をさせるつもりはないし、楽しく長く続けられるように私も色々考えているから、そんな不安そうな顔しないの!」

 ペチンと額を叩いてやると、両手で額を押さえて困ったようなシュンとしているような、何ともいえないその表情が可愛らしくて、思わずギュウッと抱きしめながら、頬擦りをする。

 満足いくまでセレンティーヌを堪能した後は、運動しやすいように二人揃ってドレスから運動着へと着替える。

 この世界にはTシャツやジャージなんてものはないので、とり急ぎセイロン公爵家御用達の商会に口頭で簡単に説明をして、なんちゃって運動着を作ってもらったのだ。

 少し大き目のシャツと、柔らかい生地でダボダボに作ってもらったパンツの裾には紐が通っていて、結べば裾が邪魔になることはない。

 本当はゴムを入れたかったのだが、この世界にはないようなので諦めて紐で作ってもらった。

「よし、じゃあまずはストレッチからね」

「すとれっち、ですか?」

「そう、ストレッチ。楽にして体を解していくわよ」

「はい!」


 ……何と言ったらいいのだろうか。

 目の前のセレンは両足を前に伸ばした状態で座り、つま先を掴もうと一生懸命手を伸ばしているのだが。

 上半身は床と直角のままであり、つま先に指先が触れるには程遠い。

 ちなみにふざけたり遊んでいるわけではなく、本人は至って真剣に、大真面目にやっているのだ。体が硬いにもほどがある。

「え〜っと、セレン? とりあえず少し足を広げてみようか?」

「は、はい!」

 恥ずかしそうに頬を染めながら、おずおずと足を広げるセレン。

 先ほどまでは全く前傾することがなかった上半身が少し前に倒れたことに、瞳をキラキラ輝かせて嬉しそうに申告してくる。

「マリ様! 少しですが前傾しましたわ!!」

(あ〜、うん。足開いたからね……)

 心の中でそうは思いつつ、やっぱりどこかセレンには甘くなってしまうのは、彼女が可愛いのだから仕方がないだろう。

「ええ、見ていたわ。この調子で少しずつ出来ることを増やしていきましょうね?」

 頭を撫で撫ですれば、細い目を更に細めて気持ちよさそうに微笑んでいる。

 今現在の彼女は容姿はとても残念ではあっても、人としてとても魅力ある女の子である。

 少しでも自信がもてるように、不当な扱いをされぬように、全力でセレンを磨き上げてみせようじゃないの! と麻里は心の中で拳を掲げた。

 小一時間ほど軽いストレッチをして、簡素なワンピースに着替えてからは庭の散歩に出掛ける。

 庭と一口で言ってもかなりの広さがあるため、セレンティーヌには丁度いいウォーキングになるだろう。

 そもそも今までのセレンティーヌの生活は、食事の時とサイラスとお茶をする時以外はほとんど部屋に篭って読書や刺繍の時間にあてていたのだ。

 運動といえば、たまにダンスの練習があるくらいである。

 いや、セレンティーヌだけでなく、貴族の令嬢といえば予定がなければ(・・・・・・・)大体がそんな生活をしている。

 セレンティーヌと違うのは、他の令嬢達はお茶会やパーティーへ出席するため、それなりに外出しているのだ。

 つまり、他の令嬢以上に運動をしていないセレンティーヌが運動を始めれば、ある程度は簡単に痩せるはず。とはいえ『ある程度は』である。

 それ以上に痩せようとするならば、努力や忍耐が必須となるのは当然のこと。

 セレンティーヌのやる気を出させ、『辛い』を『楽しい』に変換させて長く続けられるようにするために、頭の中でアレコレと計画を立てていく。

 計画と言っても、運動と食生活の見直しがほとんどだけれど。

 この世界の食事はそれなりに美味しくはあるが、肉中心のこってり系料理が多く、カロリー高めである。

 この食事ではダイエットにはならないし、公爵やサイラスや使用人に至るまで、セレンティーヌを甘やかしまくるあの環境下では短期間で結果を出すのは難しいと考え、敷地内にある別邸にて期間限定のダイエット合宿をすることにしたのだ。

 別邸は普段使われておらず、一年のうち使用されるのは数週間程度らしいが、きちんと清掃はされているとのこと。

 何とももったいない話ではあるが、今となっては都合がいい。

 キッチンもあるので、野菜と魚を中心とした食材を運んでもらい、一日三回、私の作ったダイエットメニューのみを口にしてもらう。

 規則正しい生活を心掛けるために、しばらくは以下のようなスケジュールを続けてもらうことになるだろう。


・起床

・朝食

・ストレッチ

・ウォーキング

・昼食

・自由時間

・ヨガ

・夕食

・入浴

・マッサージ


 慣れてきたら、両足に重りをつけて生活してもらうことにするつもりだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これから楽しみです早く更新してください
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