残された者達
そんな回想を一摘みした所でダーク・ウルフはインフェルノカイザーが入院している個室のテーブルに麻袋を置き、空き椅子に腰を下ろした。
「・・・」
正面のベッドに深く目を瞑ったまま横たわるインフェルノカイザーは時間が止まったかのように微動だにせず、眠り続ける。
そんなインフェルノカイザーを見守るダーク・ウルフの目には憂いと焦燥があった。
この個室に入院するようになってからというもの、ほぼ毎日顔を出しているが依然としてインフェルノカイザーは目を覚まさずにいた。
「そっちは随分と忙しいみてぇだなァ、ウルフ」
静まり返っていた室内の静寂を破るかのようにエルリークがダーク・ウルフに話題を振る。
ハッとしたダーク・ウルフは顔を上げると少し間を置き、口を開いた。
「まぁな。今日は午前中から辺境の村に行ってポラリス派の残党シバいてたわ」
「そいつァはご苦労なこった。にしてもポラリス派の奴等はいつまで続けるんだか・・・」
エルリークは今もなお各地で暴れまわるポラリス派に対しお気持ちを述べる。
此度のトアルー村襲撃の様な出来事が各地で起こっており、世間的にも問題視されていた。
「ポラリス派の奴と少し喋ったんだが、アイツ等はポラリスがまだ生きてると信じ込んでやがる。そしてそれを吹聴する奴が背後にいるみてぇだ」
ダーク・ウルフは今日インターセクト本部で報告した内容を簡潔に伝える。
「ほーん?って事は最近ポラリス派の動きが活発になってんのも背後にいる奴の仕業って事やろなぁ」
「おそらくな。まだ確証は無いがその正体はタケシだと俺は思ってる・・・!」
ダーク・ウルフは目つきを鋭くし、その名を口にする。
「ほう?何かあのクソ野郎につながる情報でも出てきたんか?」
「確定情報じゃないが兵士にシャインの見た目の事話したらいきなり口の中から木が生えて死んだんだよ。そんな口封じするなんてあのクソ野郎しか思い浮かばねぇだろ?」
「ケッ、悪趣味な事しやがる・・・」
ダーク・ウルフの証言にエルリークはぶっきらぼうに吐き捨てる。
エルリークもまた、タケシと戦った戦士だ。
故に性格が悪いタケシがやりそうな事であると十分理解できた。
「で、今日の件が片付いたから俺は早上がり出来たってワケだ。あ、テーブルに置いてる袋は村助けた時に貰った果物だから食って良いぞ」
「マジか!食う食う!」
途端に元気になったエルリークはテーブル上の袋に手を掛け、中の果物を物色し始めた。
「エルリークの方はどうだ?確か・・・連邦軍に破壊された町の再建だったよな?」
そんなエルリークに対し、今度はダーク・ウルフが近況を尋ねる。
インターセクトに所属した事で二人は日々忙しく過ごしていた。
故に今のようにゆっくりと雑談する機会がなかったのだ。
「おう。こっちは順調だぜ。瓦礫の処理と整地が終わって今は土台作ってる所やな。最近は木材が必要だってんで俺は木切ってるわ」
袋の中から一つのリンゴを取り出しながらエルリークはそう語ると一口齧る。
ダーク・ウルフは主に作戦の立案や実行に関する部門に対し、エルリークはインフラの復興や被災地の支援を行う部門に配属されている。
それぞれの得意分野を活かせるように人員を配置することで効率を高め、働きやすい環境を提供しているのだ。
そんなエルリークはかつて住んでいた小さな町であるブーメランパークの再建に携わっていた。
「しかし整地作業がこんなに早く終わると思ってなかったぜ。さすがはこのバカデカイ都市を築いただけの事あるってもんだぜ」
「建築に関してはよく分かんねぇけど順調そうでよかったよ」
エルリークに軽い口調で返すとダーク・ウルフは視線をインフェルノカイザーへ戻した。
釣られるようにエルリークもインフェルノカイザーに目を移すと沈黙が訪れた。
そんな沈黙の中、インフェルノカイザーは眉一つ動かすことなく眠り続ける。
「・・・そういえば・・・アージョは元気してっかな?」
ダーク・ウルフは思い出したかのように話題を出し、沈黙を破る。
「あ?誰だっけソイツ?」
「お前まだアージョの事嫌ってんのか?タワーで一緒に戦った仲だろ?」
「だってアイツ俺の事ハゲって言うし!!」
エルリークは憤りながら地団駄を踏む。
ダークネス・ダーク・タワーで死線を共にしたアージョだったが、あれからダーク・ウルフ達とは別れていた。
「エルリーク・・・残念だけどお前は誰がどう見てもハゲだよ」
「は!?そういう髪型なだけだし!!」
「まぁそんな事はどうでもよくて。アイツもインターセクトに入ればよかったのにな」
「どうでも良い!?」
エルリークの戯言をスルーし、ダーク・ウルフはかつての戦友を思い出す。
マーベリクにインターセクトに誘われた際、実はアージョも誘われていたのだ。
「フンッ・・・。まぁアイツはやる事があるとか言って速攻で水の次元に帰ったからな。どちらにしても入らなかっただろ」
気を取り直したエルリークは落ち着いた口調で述べる。
「たしかにそうだな。それにアイツ合流したはいいものの、最後の方では全く出番なかったしな・・・。思う所があったんだろう」
ダークネス・ダーク・タワーでの戦いでは周囲のインフレに着いていくのがやっとであったアージョ。
そんなアージョは己の弱さを実感し、再度修行に励む為ラルガルズ水の次元の故郷へと帰った。
今後の登場が危ぶまれるがダーク・ウルフは少し残念そうな様子だ。
そんな雑談に花を咲かせたのも束の間。再度沈黙が訪れた。
「・・・それにしても、いつまで起きないんだろうな・・・」
ダーク・ウルフは意を決して呟く。
その声色はまるで今にも消え行ってしまいそうなほど弱々しかった。
「・・・さァな・・・。カイザーを信じるしかねぇだろ」
「でもよぉ・・・!あれからもう3週間だぞ!?」
「んな事言ったってよォ、先生も分かんねぇって言ってたからどうしようもねぇだろうよ・・・」
エルリークに食って掛かるダーク・ウルフ。
そんなダーク・ウルフに対しエルリークは後頭部をポリポリと掻きながら答える。
「インターセクトに入って、やる事やってればその内起きるって・・・。いつもみてぇに目を覚ますって思ってた・・・」
「・・・」
「毎日足を運んでも何も変わらねぇ・・・。今日だってそうだ・・・」
「ウルフ・・・」
「なぁ、エルリーク・・・」
ダーク・ウルフは続けて何かを言おうとするが言葉が出ないのか沈黙してしまう。
「その・・・最近思うんだ・・・」
言葉が出てきたかと思ったらまたしても言い淀む。
顔を俯かせ、深呼吸をすると恐る恐る口を開いた。
「・・・このまま目を覚まさないんじゃないかって・・・」
まるでダムが決壊し方のように自身の思いを吐露するダーク・ウルフ。
そう、無理もない。ダーク・ウルフにとって初めて出来た親友であり、共に背中を任せ合う戦友。
インフェルノカイザーの存在はダーク・ウルフにとってかけがえのない大きな存在なのだ。
故に、その懸念は人一倍である事は言うまでもないだろう。
ダーク・ウルフはここまで強がってきただけにすぎないのだ。そう、無理もない・・・。
「落ち着けウルフ。お前はよくやってるよ」
「カイザーだけじゃねぇ。タケシの行方すら掴めない・・・。もうすぐヤツが復活するかもしれねぇってのに・・・!」
「ウルフ・・・お前・・・」
ネガティブ思考に苛まれるダーク・ウルフをエルリークは肩に手を掛け宥める。
だがエルリークとて今の現状を良しとはしていなかった。
ダーク・ウルフの言うようにこのままタケシの行方が分からなければいずれ世界に厄災が降りかかるだろう。
そうなった場合今の世界の状況や戦力的にどこまで対抗できるか分からない。
頼みの綱のインフェルノカイザーも目を覚まさず、同等の力を持つシャイニングカイザーもタケシの手に墜ちている。
しかしできる事が無いという事も重々理解していた。
「・・・悪ぃエルリーク。ガラにも無い事言っちまった」
「気にすんなよ。お前の考えは俺も分かるからなァ・・・」
謝罪するダーク・ウルフと慰めるエルリーク。そして再度室内に訪れる静寂。
時計の針は一秒一秒時を刻み、インフェルノカイザーに繋がっている心電図の機械音が室内を支配する。
そう、ダーク・ウルフのメンタルは危険な状態にあった。
親友が目覚めない事への心労。タケシを取り逃がした事による責任。
状況が悪化していく様を指をくわえて見ている事しか出来ない無力さ。
インフェルノカイザー不在の今、二人は精神的に窮地に立たされていた。
ガラッ!
「まったく辛気臭いガキ共じゃのう」
その時、突如静寂を粉砕するかの如く爆音で病室の扉が開き、一人の老人が入室してきた!
「あ、あんたは!!」
「永久の闇 (トワノヤミ)のジジイ!!!?」
「見てられんわい!」
ドン!




