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闇空  作者: 闇の使徒インフェルノカイザー
第十八章 ~終焉へのカウントダウン。毀す者と護る者~
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魔人の眠り

「先生!何でカイザーは目覚めないんスか!?」


ダーク・ウルフは思い出していた。インフェルノカイザーが入院した時の事を。

それは今から約2週間ほど前。その日、ダーク・ウルフは病院の診察室にて医師に対し詰め寄っていた。

傍らの簡易ベッドには昏睡状態のインフェルノカイザーが安置されている・・・。


「おい落ち着けってウルフ!ここ病院やぞ・・・」


そんなダーク・ウルフの左肩を引っ張り、宥めるハゲの大男ことエルリーク。

しかしその表情はどこか影があった。肌が黒いとかそういう意味では無い。念のため。


「コホン・・・。落ち着きたまえウルフ君・・・」


落ち着いた口調で咳払いする医師は冷静に言う。

それを聞いたダーク・ウルフは息を整える。


「今の所インフェルノカイザー様はいたって健康な状態だ。この前の戦いで負ったであろう傷も既に完治している」


「だったらなんでカイザーは・・・!」


「結果的に言うと、インフェルノカイザー様が目を覚まさない原因は精神的な要因が大きいようだ」


「精神的な・・・!?」


ダーク・ウルフとエルリークは動揺しながら聞き返す。

そんな二人に対し医師は机の上に置いてあったファイルから一枚の写真のような物を取り出す。


ペラッ・・・


「これはインフェルノカイザー様の頭部のMRI画像だ。順を追って説明しよう」


机に備え付けられてるボードに慣れた手つきで張り出されたのは一枚のMRI写真だった。

因みにレントゲンとかMRIの写真を張り付けるあの白いボードの名前はシャウカステンって言うらしいぞ。


「注目してもらいたいのはココ・・・」


医師は解説しながら画像の一部分に指を指す。


「ここは人の記憶を司っている部位だ。医学の世界では”記憶神経”と呼ばれている。で、この周辺に多数の信号が送られた形跡が残っている」


「はぁ・・・」


いきなり始まった医師の解説にダーク・ウルフとエルリークは眉を顰めながら聞く。

医療の知識が無い二人にとって医師が話す事はあまり理解が出来ていなかった。


「分かりやすく言うと、外部から何らかの形で脳にショックが加わった。それがきっかけでインフェルノカイザー様の脳にダメージが入り、意識を失ってしまったと言った所だね」


そんな二人に対し、医師は噛み砕いた言い方で解説し直した。


「・・・そうか!あの時の”記憶の葉”・・・!それのせいでカイザーは記憶障害を起こして気を失ったってことか・・・!」


ダーク・ウルフは心当たりがあった。

それはタケシが撤退の際に交渉に用いた”記憶の葉”という物だ。


「あの時、タケシは言っていた・・・。記憶の葉にはカイザーが忘れていた記憶が内包されてるって。それが原因って事ですか?先生!」


「ふむ。その記憶の葉なる物がどういった物かは分からないが・・・君の証言通り記憶が内包されていたとなると、それが脳に逆流した事になるだろうね。そして脳にショックを与えたと・・・」


勘の良いガキのダーク・ウルフの憶測に対し、医師は顎に左手を当て考察すると同時に答える。


「オイオイ・・・!先生よォ、じゃあカイザーはこのまま寝たきりってコトかい?」


エルリークも思わず不安の声を漏らす。

同時に、この質問はダーク・ウルフも考えていた事であった。


「いや、この画像の脳へのダメージは意識を失った原因に過ぎない。それよりももっと厄介な事が一点・・・」


「厄介な事?」


「インフェルノカイザー様が思い出した記憶の内容だよ」


医師は深刻な表情で続ける。


「記憶の内容によってはインフェルノカイザーの精神に悪影響を及ぼすだろう。そうなってくると今度は医学的な原因ではなく、初めに伝えた通り精神的な原因でインフェルノカイザー様の容態が回復しない可能性が出てくるんだ」


「なん・・・だと・・・」


ダーク・ウルフとエルリークは思わず言葉を失う。

インフェルノカイザーが取り戻した記憶の内容・・・それについては大まかな見当が付いていたからだ。


「ウルフよォ・・・タケシの野郎が言ってた事が本当なら・・・」


「ああ。あの日の事だ・・・!」


かつて・・・光の連邦軍は宣戦布告無く突如としてヘル・イン・ザ・ダークネスを襲撃した。

その事件がきっかけで闇の勢力と光の勢力は戦争状態へと突入。

同時に、インフェルノカイザーの父親が殺害されるという未曽有の悲劇が起こった。


「カイザーの奴・・・あの日の事を思い出したってんなら親父さんの死の真相も思い出したんじゃねぇか?」


エルリークはダーク・ウルフに確認する様に言う。

ダーク・ウルフも同じ意見のようで静かに頷く。


「ああ・・・。もしそうなら思い出した内容次第じゃ相当なショックな筈だ・・・」


父の死の謎を解き明かす事はインフェルノカイザーが戦いに身を投じた原因の一つだ。

記憶の葉によってその出来事をインフェルノカイザーが思い出したとすれば父の死の謎を解き明かしたと言えるだろう。

しかし意識を取り戻さないという事は予想だにしなかったような事を思い出したのでは?

現時点でダーク・ウルフ達の考えは考察の域を出ない。

だが今の状況を鑑みると思いがけない真実を知った事が原因ではないかと思わざるを得ない。


「先生、カイザーが回復する見込みは・・・どのくらいありますか・・・?」


ダーク・ウルフは恐る恐る医師に聞く。


「・・・正直に言うと分からない。思い出した記憶をインフェルノカイザー様が受け止めて自分の中で処理できれば意識は回復すると思うが・・・」


「くっ・・・!カイザー次第って事か・・・!」


医師も曖昧な事しか言えなかった。

医学的には回復の見込みはあるが精神的な部分に関しては未知数。

そう。回復するかどうかはインフェルノカイザー次第なのだ。


「こうなった以上カイザーを信じるしかねぇなァ・・・」


「そう・・・だな・・・」


そう言うとダーク・ウルフは拳を強く握る。

インフェルノカイザーを助けてやれない自分に腹が立った。

同時に、何もできない今の自分の無力さにやるせなさを感じた。


「気休めかもしれないがインフェルノカイザー様の事は私が責任を持って看護しよう」


暗い雰囲気のダーク・ウルフとエルリークに対し、医師はそう伝えた。


「ちょうど良い個室が空いていてね。君達にも特別に開放するから好きな時に見舞いにくるといい」


「せ、先生・・・!」


「大事な友達の事が心配な気持ちはよく分かる。だが嘆いた所で何も始まらないだろう。君達も今やるべき事があるんじゃないのかい?」


「っ・・・!!」


医師の言葉を受け、ダーク・ウルフは目が覚めたような感覚を覚える。


(そうだ・・・!俺は何をやってんだ・・・!カイザーならこんな時でも前に進もうともがいてるハズだろ!!)


ダーク・ウルフはチラりと傍らで眠り続けるインフェルノカイザーを見る。

もし立場が逆であればインフェルノカイザーならこんな所で油など売っていないはずだ。

それを認識した途端、ダーク・ウルフは自分が恥ずかしくなった。

目を瞑り、深く息を吐き深呼吸すると静かに口を開いた。


「そう・・・ですね!ありがとうございます!カイザーの事、お願いします!」


医師の言葉に力強く答えたダーク・ウルフはすっくと立ち上がる。

そしてエルリークと共に診察室を後にした。


「・・・エルリーク、マーベリクから誘われてた件だけどさ・・・」


病院の廊下を歩みながらダーク・ウルフは改まった様子でエルリークに語り掛けた。


「おん?今度新しくできる組織の件か?たしか・・・インナーベストだっけ?」


「インターセクトな」


「そうそう。それそれ」


エルリークの下らない小ボケをダーク・ウルフは軽く流す。

そんなダーク・ウルフが話題に出した件に対しエルリークは心当たりがあった。

それは暫定政府が新たに立ち上げる予定である世界情勢安全保障機構「インターセクト」の一員になってほしいという誘いであった。


そう、この二人に声がかかるのは無理もない。

今は亡き光の連邦軍の十二幹部ゾディアックの大半を打ち倒したのは何を隠そうコイツ等なのだから。

同時に、先日の大戦が早い段階で終結したのもコイツ等の奇策による所が大きい。

更に、新たなる脅威となるタケシの事を知るヤツ等だ。政府側としても囲っておきたい所だろう。

そんな大人の事情もさることながら、そもそもマーベリク本人がこの二人を気に入っている事も大きい。

総じて、ダーク・ウルフとエルリークをインターセクトに加入させる事はメリットが多いという事なのだ。そう、無理もない・・・。

とは言え、インフェルノカイザーが寝たきりになってしまった事により、心に余裕が無かったダーク・ウルフは返事を保留にしていたがここに来て心境の変化があった。


「俺・・・誘いを受けるわ」


「・・・ヘッ!そうかい・・・」


インターセクトの一員になる事を決意するダーク・ウルフ。

エルリークも満更でもなさそうに笑みを浮かべ肯定した。


「ってかお前の方はどうすんだ?戦争も終わったし元々闇側でも光側でもないお前にとっては無理に受ける必要はないと思うが・・・」


「お?俺は受けるつもりだぜ?ぶっちゃけやる事ねぇしな!それに政府公認の組織ってんなら公務員って事だろ!?なら給料も待遇も良いだろ!」


「そ、そうか・・・」


エルリークは大人特有の安定思想と共にガハハと笑う。


「まぁ、カイザーの野郎が心配だったってのと、お前の様子がアレだったからまだ返事返してなかったがな・・・。だがもう吹っ切れたみてぇだな?」


「ヘッ!ウダウダ考えるのは止めだ。それにカイザーなら大丈夫だろ。これまでも数々の困難を乗り越えてきたんだ。思い出した記憶がどんなものであったとしても、アイツなら乗り越えるハズだ・・・!」


ダーク・ウルフはいつもと同じ様子で答える。その瞳には友情の炎が猛々しく灯っていた。

インフェルノカイザーが目覚めず、心配な気持ちに変わりはない。

だがこのまま手をこまねいていても何も解決しないという事もまた事実だ。

であるならば医師が言うように、自分がやるべき事をやるのみだ。


「それに、カイザーに追いつくチャンスでもあるだろ?アイツが起きた頃には今の数倍強くなってビビらせてやろうぜ!」


「へへ・・・その意気だぜ兄弟。アイツがまともに戦ったら俺達の出番無くなるからな。共に、壁越えと行こうや・・・」


ダーク・ウルフとエルリークは決意を改め、その日は行きつけのファミレス「雅棲斗」で今後の事を語り合いながら夕食を取った。

こうして二人はインターセクトに正式加入し、世界の平和の為に奔走する毎日を送り始めるのであった。

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