受け継がれる意志
「う、うわあああ!!」
ここは闇の領域、ヴァリアヘイム大陸北西部に存在する「トアルー村」。
これと言った特徴もない小さな村だが村民達は贅沢することなく日々自給自足に励み、ささやかに生活していた。
しかし、現在この村は戦禍の悪意に巻き込まれていた・・・。
「さっさと貴様達が隠している”例の一族”の情報を吐きなァ!?さもなくば怪我じゃ済まねぇぞ!?」
白を基調とした鎧を身に着けた大柄な男は一人の村人に剣を突きつけ恐喝する。
「で、ですからオラ達はそんな事知らないですって!」
恐喝に対し、声と脚を震わせながら身の潔白を表明する村人。
”例の一族の情報”とやらを探してるという白い鎧の男だがその真意は一体・・・!?
「フン!闇の領域に住んでる奴の言葉など信用できるか!」
ドガッ!
「あぅ・・・」
声を荒げ、村人の顔面を殴りつける鎧の男。
一方で村人は左頬に痛々しい痣を浮かべ、力なく倒れこむ。
「リーダー、この村の奴ら口を割る気はないみてぇで埒が飽きませんぜ?」
大柄な男は後方に向かってそう言う。そこには少し装備が豪華な別の男が腕を組み仁王立ちしていた。
そう・・・。この村は現在、正体不明の白い鎧を身に着けた集団に襲撃されているのだ。
「みたいだなぁ・・・!では仕方がない・・・これは聖なる粛清だ。我々に協力しないのならば・・・滅ぼすしかない・・・!」
リーダーと呼ばれる男はそのように号令を出す。
それを聞いた大柄な男はニヤリと口元に笑みを浮かべる。そして光のオーラを身体に纏わせた。
「と、父ちゃんを・・・父ちゃんをイジメるなー!!」
その時、大柄な男と殴られた村人の間に子供が割り込んできた。
歳は6歳くらいだろうか。大きな目には涙を浮かべ、華奢な身体を小刻みに震わせながら両腕を広げ、大柄な男に対峙した。
「たっちゃん!?いけない!早く逃げなさい!!」
村人は驚いた様子で子供に言う。
だがたっちゃんと呼ばれる子供は一歩も引かず、大柄な男を睨みつけていた。
「まだ我々に逆らうヤツがいたのか!?我々の邪魔をするのならばガキだろうが消えてもらう・・・!!」
「うぅ!」
大柄な男が怒号と共に剣を振りかざす。
たっちゃんは反射的に強く目を瞑った。
ゴォォオオオオオ!!
「なんだ!?」
刹那、上空から轟音が鳴り響いた。
突然の事に動揺した大柄な男は思わず手を止め、上空を見上げる。
同じようにリーダーを始めとした他の襲撃者達、迫害される村人達も空を見る。
見上げた先には何かが通った後のような飛行機雲が一筋の軌跡のように残っていた。
そして、上空から一人の人間が降ってきているのが目視できた。
「何だアイツ!?」
ドギャッ!!
「ぐわー!!!」
上空から落ちてきた謎の男は大柄の男を踏みつけ一撃で無力化すると、華麗に着地した。
唐突に上空から現れた謎の男の派手な登場に周囲の者達は呆気に取られていた。
「ふぅ。なんとか間に合ったみてぇだな」
謎の男は一言そう言うとゆっくりと立ち上がる。
深緑の短いローブを纏うやや小柄な体躯。使い古した紺色のジーンズの両腰には二対のダガー。
紫色の髪に被せるように頭部に三角巾を巻き、左目には特徴的な一筋の傷痕。
勘の良いガキである読者なら既にお気付きであろう。
上空から突如落下してきたこの男の正体は・・・ダーク・ウルフだ!
「て、てめぇ!!いきなり何だてめぇ!」
「チクショウ!横山の野郎がヤられちまった!」
「ガキが・・・ぶっ56されてぇのかゴラァ!!!!」
白い鎧の集団はワラワラと集まってくると各々お気持ちを述べる。
だがダーク・ウルフは気にも留めない様子で背を向けると膝を折り、子供に目線を合わせた。
「ヘヘッ!お前勇気あるな!俺が来たからにはもう大丈夫だ。そこのオッサンと早く逃げろ」
「う、うん!」
ダーク・ウルフの言葉に強く頷いた子供は村人と共にそそくさと走り去った。
それを見送ったダーク・ウルフは立ち上がると周囲に広がる荒らされた村の惨状を見渡した。
「こいつはひでェ・・・」
「オイ貴様ァ!我々に対し邪魔立てする気か?許さんぞ・・・!」
そんなダーク・ウルフに対し、リーダーの男が詰め寄る。
「見た所、アンタがコイツ等の頭か。率直に言うがこんな下らねぇ事はやめろ。続けるってんなら容赦しねぇぞ」
「ガキの分際で我々に指図だと?随分と舐められたモノだ。さては貴様・・・闇の世界の人間だな?」
「だったら?」
「フン!やはり闇の者は愚か!我々に歯向かうという事は偉大なるポラリス様に歯向かうも同義!!」
リーダーの男は声高らかにダーク・ウルフを侮辱する。
一方でダーク・ウルフは軽く鼻で笑うと口を開いた。
「”あの戦い”の後、光の連邦軍は公式に解体されたってのに・・・まだそんな事言ってんのか?恥ずかしいぜ?オッサン」
「貴様・・・!認めんぞ・・・!我々は光と闇の共存など認めん!ポラリス様が示した世界こそが・・・世界の本当の在り方!!」
あの戦い・・・それは光の連邦軍が行ったヘル・イン・ザ・ダークネスの侵略戦争の事だ。
戦いの後、光の連邦軍は解体されたが現状、「ポラリス派」と呼ばれる一部の過激派達がこのように各地で小競り合いを起こしていた。
「ったく、ポラリスのオッサンの思想は曲解して伝わってるみてぇだな。面倒な奴らを野放しにして逝きやがって」
「ふざけるなァッ!!!」
ゴウッ!!
ダーク・ウルフの言葉にリーダーは憤怒の表情と共に光のオーラを解き放つ。
そのオーラ量は一介の兵士を軽く凌駕していた。流石はリーダーと呼ばれてるだけの事はあるぜ。
「ポラリス様は生きている・・・!あの方さえ・・・あの方さえ我々の下に戻って下されば光の連邦軍は再興できる!!その邪魔をするのならばガキでも容赦はせん!!!」
「やれやれ。余程心酔してんだな。それ以上の主張は取調室で語ってくれ」
ズゥ・・・!
「お前らを拘束する・・・!」
対話の余地はないと判断したダーク・ウルフは闇のオーラを静かに身体に纏う。
静かながらも深く、濃密な闇のオーラは脈々と迸っていた。
「我々を拘束するだと?笑止!お前等、この世間知らずのガキに大人の怖さを教えてやれ!」
「へっへっへ・・・!」
そんなダーク・ウルフを取り囲む様に周囲にはポラリス派である”元”光の連邦軍の兵士達が集まって来た。
「1、2、3・・・7人か。この程度なら余裕だな」
<オイ!お前ばっかいい恰好してんじゃねぇ!オレ様にもヤらせろ!!>
村を襲撃するポラリス派の人数を数え、戦略を練るダーク・ウルフ。その時、脳内に荒々しい声が響いた。
「お?ダルクお前やる気満々じゃん。いいぜ!お前に任せるわ!でも殺すなよ」
<わァってるよ!!オレ様に命令すんじゃねぇクソガキ!!>
ポンッ!
そう言うと弾ける様な音と共にダーク・ウルフの左目から子犬サイズの黒い狼が飛び出した。
その正体はダーク・ウルフの左目の魔眼に封印されし獣、ダルクだ!
「な、なんだ?コイツ・・・?」
「はっ!こんな子犬で何しようってんだ!?」
「ドッグランがお似合いだぜ!」
ダルクの姿を見た兵士達は口々に嘲笑する。
そう、無理もない。その見た目こそ漆黒の体毛を持つ狼だがそのサイズはまるでチワワ。
小型犬が出てきた所で兵士達にとって可愛いだけなのだ。そう、無理もない・・・。
「ダルクwお前馬鹿にされてっぞ!見せてやれよ、お前の真の姿をなァ!!」
ダーク・ウルフは半笑いでそう言うと左目に魔力を集めた。
ビキビキィ・・・!!
すると軋むような鈍い音と共にダルクの身体が膨張するように大きくなっていくではないか・・・!
「な、なんだ・・・コイツ・・・!!」
「あ・・・あぁ・・・」
その様子を目の当たりにする兵士達も思わず狼狽えてしまう。
<オオォォオォオオオオオオオオン!!!>
咆哮と共に全長3メートル程の巨体へと変貌したダルクはギロリと兵士達を睨みつけた。
先の戦いの後、ダーク・ウルフは新たなる技術を身に着けていた。
左目の魔眼を通じて魔力を送る事により、一定時間の間だけダルクを本来の姿で顕現させるというものだ。
それはダーク・ウルフとダルクの間にある絆の力。
お互いに悪口を言い合う仲ではあるがそれは友情の裏返しと言っても過言ではないだろう。
「う、狼狽えるな!!所詮は獣!食物連鎖の頂点に君臨する我々人間が負ける筈がない!!一斉にかかれッ!!!」
「イ、イエッサー!!」
ポラリス派のリーダーは大きな声と共に兵士達を鼓舞。
そして攻撃命令を下した!
<コイツで遊んでやるぜ!!>
ゴォッ!!
刹那、四方より一斉にダルクに襲い掛かった6人の兵士達はレジ袋の如く宙を舞っていた。
「がッ・・・!?」
「何が・・・?」
ドサドサッ!!
弾き飛ばされた兵士達は何が起こったのか理解できず地面へ叩きつけられる。
<フンッ!カスが!ストレス解消にもならねぇ!このオレ様に勝てると思ってたのかァ?>
今の一瞬、ダルクは闇色の風をその身に纏っただけにすぎない。
そうとも知らず凄まじい風圧に飛び込んだ兵士達は一瞬で切り刻まれると同時に弾き飛ばされ、戦闘不能に陥いってしまったのだ。
「ば、馬鹿な・・・一瞬で・・・全滅・・・だと・・・?」
配下の兵士達が紙クズの様に蹴散らされた光景を目の当たりにしたリーダーは目を見開き、声を震わせる。
「残るはお前一人だがどうする?生きたまま行くか、冷たくなって行くか・・・」
ダーク・ウルフは取り乱すリーダーに対し降参を促す。
力の差は歴然。その実力は歴戦。リーダーは苦虫を食い潰したような表情で臨戦。
「馬鹿に・・・するなあああああああ!!」
ズォア!!!
リーダーは大声と共に光のオーラを大放出!
「あの狼がいくら強かろうと!貴様さえ倒してしまえば!!」
ここで引くわけにはいかない。理由はリーダーだから。
覚悟を決め、歯を食いしばると剣を構え、ダーク・ウルフへ向け飛び掛かった!
ズンッ!
だが次の瞬間にはリーダーの腹部に鈍痛が走った。
「うぐゥ・・・」
「ビースト拳、弐ノ型・猪突・・・!」
腹部より込み上げてくる嘔吐感。飛びそうな意識の中、視線を落とす。
視線の先にはビーストオーラ滾る拳が腹部にめり込んでいた。その拳の主は言うまでもなくダーク・ウルフだ。
それを認識したリーダーは思わず剣を手放し、周囲に甲高い金属音が響いた。
「・・・貴様たちは一体・・・?」
「”インターセクト”だ!」
「そうだったのかぁ~~っ」
ドサッ・・・(HIT+10)
ダーク・ウルフの腹パンを受け、リーダーは気を失うと地に伏した。




