奪われた真実(アンサー)
「は・・・?え・・・?」
インフェルノカイザーは目の前に広がる光景に言葉を失う。
太さ20㎝程の竹やりに貫かれたストリームカイザーは見るも無残な姿へと変貌していた。
「父上・・・?父上ッ!!?」
ようやく状況を理解したインフェルノカイザーは震える脚に力を籠め、覚束ない足取りで父の下へ駆け寄る。
「よォ・・・無事みてぇ・・・だな・・・」
対するストリームカイザーは落ち着いた口調でインフェルノカイザーに語り掛けた。
胴体は血液により真っ赤に染まり、足元の絨毯には血溜まりがジワリと染み込み広がっていく。
「い、今・・・!今すぐ医者を呼びます!!」
「いや・・・大丈夫だ・・・。ヘヘッ・・・コイツぁキツいの食らっちまったなァ・・・」
「父上・・・!!」
声の覇気が少なくなっていくストリームカイザーを前にインフェルノカイザーの顔が青ざめる。
「最後にみっともねぇ所見せちまったな・・・。まぁ、お前が無事で・・・よかった・・・ゴホッ!!」
咳と共に血を吐き出すストリームカイザー。
生気が薄れ行く父を前に、インフェルノカイザーは何もできず動揺する事しかできなかった。
「最後だなんて・・・冗談はやめてください・・・父さん・・・!!」
「ヘヘッ・・・」
ストリームカイザーは今にも泣きだしそうなインフェルノカイザーの顔を見ると優しく笑った。
「今日は約束守れなくて・・・すまなかったな・・・。不甲斐ない親父ですま・・・ねぇ・・・」
その言葉を最後に、ストリームカイザーは顔を伏せた。
「・・・え?父上・・・?」
目を見開き、震える声と共にインフェルノカイザーは父を呼ぶ。
しかし、返事が返ってくることは無かった。
「おっ!死んだ?」
と、そこに半笑いの不快な声がインフェルノカイザーの耳に入る。
身体を震わせ、声の方に顔を向ける。その声の主はもちろん・・・
「タケシ・・・ッ!!」
握り拳を激しく震わせ、奥歯を強く噛み締め、インフェルノカイザーはその名前を捻り出した。
「いや~!ラッキーラッキー!正面対決は避けたかったからワンチャンガキの方狙ったけど、まさか上手くいくとはねェ~~!」
手を叩きながらタケシは言う。いや、そう語る。
それはまるでインフェルノカイザーを煽るかのように・・・。
「大戦を終わらせた無敵の英雄も、唯一の息子を狙われたんじゃァただの人です、か。いや~、泣けるンゴねぇ・・・」
タケシは今度は手で顔を覆い、まるで泣いてるかのように振る舞う。
だがそれはふざけているだけに過ぎず、インフェルノカイザーの怒りのボルテージは着実に上昇していた。
「・・・お前・・・ふざけるなよ・・・?」
「ん?」
「お前が・・・!お前が殺したんだ!!父上をっ!!!」
インフェルノカイザーは倒置法を用い、タケシを怒鳴りつける。
その怒りに満ちた表情は今にもタケシに飛び掛かろうとしていた。
「ハァ。インフェルノカイザー君さぁ~・・・」
タケシは失笑と共にため息を漏らす。
「君の父親が死んだ原因は君だろう?」
次の瞬間、タケシは糸目を開眼させ、今までとは全く違う冷たい口調で言い捨てた。
「・・・っ!!?」
その瞬間、インフェルノカイザーの背筋が凍り付く。
光すらも飲み込んでしまいそうな真っ黒な瞳は言い表せない恐怖心を煽り、タケシが纏う独特の圧力はその場の空気を支配した。
そして何より、タケシが言い放った言葉はインフェルノカイザーの心を深く抉った。
「お、俺の・・・せい・・・」
「キヒヒヒヒ!君が出しゃばらなければお父さんは死ななかっただろうね~。パパの言う事聞かなきゃダメでしょw」
一転して先ほどまでのふざけたテンションに戻ったタケシは追い打ちをかけるようにインフェルノカイザーを小馬鹿にし、笑う。
事実を突きつけられたインフェルノカイザーは思わず膝を付き、震える両手を焦点の合わない目で見つめていた。
「君みたいな人を世の中では”無能な働き者”って言うんだヨ!またの名を戦犯、トロール、noob、サマー○ォーズの氷どかす奴・・・」
「黙れ!」
ドン!
その時、インフェルノカイザーは床を左拳で殴りつけた。
「ふざけんなよ・・・!お前さえ・・・お前さえいなければ父上はァ!!!!!!」
ゴォォォオオオオ!!
溢れだす怒りの感情と共に立ち上がったインフェルノカイザー。
その身体からは夥しい程の闇のオーラを放出。タケシに対する明確な殺意は言うまでもなかった。
「へぇ・・・。この年でこれ程のオーラを・・・。ポラリスのオッサンが気に入ってるワケだねぇ」
そんなインフェルノカイザーを見るや否やボソリと独り言を呟くタケシ。
その所作はインフェルノカイザーの溢れだす感情を気にも留めていなかった。
「テメェだけは絶対にぶっ殺すッ!!!」
ギュォォ!
インフェルノカイザーは感情に任せて強い言葉で殺害予告を叫ぶと右腕に闇のオーラを集中させる。
「ヤミノマァアア!!!!」
ボゴォォォオオ!!!!
掛け声と共にインフェルノカイザーの右手から放たれる高密度の闇のオーラ。
瞬く間にタケシは轟音と共に闇に飲み込まれる。それは先ほど扉を打ち破った時の比ではなかった。
「・・・ハァ・・・ハァ・・・」
考え無しに全力で技を放ったインフェルノカイザーは激しく息を切らしガクンと膝を付く。
「くっ・・・!父上・・・!!」
インフェルノカイザーは無念の言葉を漏らす。
そして同時に、自分が行った行動を理解する。
地面から竹やりが生えてきた瞬間、インフェルノカイザーはまったく反応できていなかった。
そしてストリームカイザーは瞬時に対応し、インフェルノカイザーの身代わりになるように動いた。
すなわち、インフェルノカイザーがこの場に居なければ父が殺される事はなかったという事を意味していた。
だが、その事実はタケシを倒したところで決して覆る事は無い・・・。
「クソ・・・!俺は・・・どこで間違ったんだ・・・!」
インフェルノカイザーは自責の念に駆られ、後悔に苛まれる。
あの時、謁見の間に乱入しなければ・・・。
玄関ホールで話した兵士に従い避難していれば・・・。
襲撃された第三区画に残り、救助活動を手伝っていれば・・・。
自分の判断ではなく王宮の人間にタケシを任せていれば・・・。
そもそもあの時、タケシと会わなければ・・・。
自分の気持ちから逃げず、家に残っていれば・・・!
「俺は・・・俺は・・・」
「まぁそう気を落とすなって!」
「ッ!?」
後悔に呻くインフェルノカイザーはその瞬間、頭が真っ白になった。
恐る恐る顔を上げ、瞳孔を見開き、息をのむ。
「タケ・・・シ・・・」
視線の先には巨大な綿が闇のオーラの残滓の中に存在していた。
そしてそこからヒョコと出てくる糸目でボウズ頭のソイツは相変わらず不気味な笑顔を絶やさない。
「そんなコトよりさぁ!すげぇ闇のオーラじゃん!さすがにビビったわ!!」
「ぁ・・・あぁ・・・」
完全に闇に飲み込んだはず。インフェルノカイザーはそう思っていた。
だがタケシは飄々と軽口を叩き、インフェルノカイザーに賛辞を贈る。
そして同時に理解する。タケシという男はインフェルノカイザーよりも数段上の次元にいるという事を。
そんな存在に対し、初めから勝てるハズが無かったのだ・・・。
その事実を嫌でも理解らされたインフェルノカイザーは言葉を失ってしまった。
「キヒヒッ!心配しないで!君の事は殺すなってクライアントから釘刺されてるから手荒な真似はしないヨ!」
タケシは相変わらずの口調でそう言うとインフェルノカイザーの前へと歩を進める。
「とは言え・・・君は色々と知りすぎちゃったからねェ。悪いけど、今日の記憶は奪っちゃうね~」
スワッ・・・
タケシはそう言うとインフェルノカイザーの頭部に掴むように右手を置く。
そして右手に緑色のオーラをジンワリと纏う。
「あ・・・っ・・・あぁ・・・」
全身の力が抜けるような感覚がインフェルノカイザーを襲う。
「そうだね~、君は今日は家から一歩も出ずにゲームしてたって事にしようか」
スン・・・
そう言うとタケシはインフェルノカイザーの頭から手を放す。
その瞬間、インフェルノカイザーは意識が遠のくような感覚に襲われた。
「さて、ボチボチ撤退しないと面倒に巻き込まれそうやね。帰って昼飯食べよっと!」
上機嫌で撤退の支度をするタケシ。
ストリームカイザーを貫いていた竹は消え去り、他にもタケシが残したであろう痕跡を奇麗に抹消する。
「あ・・・あぅ・・・」
「ほな!また会える時を楽しみにしてるよインフェルノカイザー君!チャオ♪」
「ま・・・て・・・」
薄れゆく意識の中インフェルノカイザーはタケシに手を伸ばす。
だがそれも虚しく、インフェルノカイザーの意識はブツんと途切れた。
ジリリリリリリリリリリ!!!!
生活感のあるレンガ造りの部屋に甲高い金属音がけたたましく鳴り響く。
その音はまるで夢の世界から呼び戻す悪魔の汽笛。そう、アラームだ。
「うぅ・・・」
ガチャンッ
布団の奥から腕を伸ばし、鳴り響く時計に手を掛けアラームを止める。
時刻は朝7時を指しており、これは新たなる一日が始まって既に約25,200秒が経過しているという事を意味していた。
「朝か・・・」
そう呟くとかぶさっていた布団を押しのけ、上半身をよろりと起き上がらせる。
ボサボサの赤と黒が入り混じった髪の毛。左目が紅色、右目が蒼色のオッドアイ。全身に金色で「闇」の刺繍が施してある漆黒のパジャマ。
「うぅ・・・頭痛ェ・・・昨日ゲームしすぎたな・・・」
最悪の目覚めの中インフェルノカイザーは肩を回し、ベッドから降りる。
そしてカーテンを開け、日光を浴び、体内時計をがっつり調整。
窓の外には早朝だと言うのに慌ただしく行き来する闇の兵士達が見える。
「なんだ?今日は朝から騒々しいな・・・」
そんな事を思いつつインフェルノカイザーはパジャマから普段着に着替え、自室を後にする。
階段を降りると、執事の暗人が気難しい顔を浮かべながらリビングにて朝食の準備をしていた。
「爺、おはよう」
「おはようございます・・・。インフェルノカイザー様・・・」
「どうしたんだ?今日はやけに暗いじゃねぇか。それに外が騒がしいみたいだが何かあったのか?」
暗人の様子がいつもと違う事に気づいたインフェルノカイザーは気さくに会話する。
「インフェルノカイザー様・・・。旦那様が・・・ストリームカイザー様が・・・お亡くなりになりました・・・」
「・・・は?」
インフェルノカイザーの話を遮るように暗人は口を開いた。
突如伝えられる父の死。インフェルノカイザーはその発言の意味が解らなかった。
「爺・・・?お前何言って・・・」
「つい先ほど、王宮の方が来られまして・・・。昨日の光の連邦軍の襲撃・・・その騒動の中で旦那様のご遺体が・・・発見されたと・・・」
「・・・父上が・・・死んだ・・・?」
父の遺体が見つかった。その言葉を理解した瞬間、インフェルノカイザーの頭は真っ白になった。
幼少の頃から慕っていた父の死。状況的に殺害されたという事だろう。
その報告は下手な目覚まし時計よりも目が覚める事実であった。
「光の連邦軍が・・・父上を・・・?」
「そう・・・聞き及んでおります・・・」
「・・・ッ!!」
その瞬間、インフェルノカイザーの瞳に憎しみの炎が宿る。
歯を食いしばり、踵を返すと、インフェルノカイザーは自室に向って階段を上り始めた。
「インフェルノカイザー様!?いったい何を・・・?」
「光の連邦軍を・・・ぶっ壊す・・・!!!」
ドンッ!
インフェルノカイザーはここに決意した。
光の連邦軍をこの手で壊滅させ、亡き父、ストリームカイザーの仇を討つと。
憎悪と悲憤、殺意と情意。こうして、目覚めし炎は戦いに身を投じる道を選んだ。
そしてこれは始まりの物語でありインフェルノカイザーが失っていた記憶の物語。
真実を思い出したインフェルノカイザーの瞳には何が映る?
『第一章~闇、それは早すぎた力 (チカラ)~』へ続く




