あの日
「なんだよ・・・これ・・・!?」
ヘル・イン・ザ・ダークネスの第三区画である住宅街へ辿り着いたインフェルノカイザーは目を見開き動揺していた。
外壁には巨大な穴が開き、家々には火が放たれており黒煙がもくもくと立ち昇っていた。
そして住宅街のいたる所に不気味な緑色の煙が辺りに立ち込めており、住民達が倒れているのが目視できた。
「クッ!よく分かんねぇが住民を助けねぇと!!それにウルフのヤツは・・・!」
インフェルノカイザーはそう決意と共に自然と駆け出す。
だがそれを止める者がいた。
「お待ちください!!」
「あ!?なんだよテメェは!!」
「私はこの区画を警備している者です。あの緑色の煙は毒のようです!近づいてはなりません!!」
「ど、毒だと!?」
インフェルノカイザーは驚愕。その一言でしか感情を現せなかった。
そう、無理もない。住宅地と言う事は庶民が集まる場所。そこに毒を放つなど正気の沙汰ではないのだ。そう、無理もない・・・。
だがしかし、ここで一つの疑問がインフェルノカイザーの脳内に湧き上がる。
「どういう事だよ!?いったい何があったんだ!?なんで毒なんて・・・」
「私も確認中ですが・・・どうやら光の連邦軍の仕業ではないかとの情報が・・・」
「光の連邦軍が!?!?」
インフェルノカイザーは動揺。その一言でしか表せなかった。
そう、無理もない。ご存知の通り、光の世界と闇の世界は和平協定を結び、共存の道を歩んでいた。
だが光の領域を支配する連邦軍が闇の世界の中央都市にテロまがいな事を行うなどあり得ない。いや、あってはならない。
この警備員が言っている事が本当であれば重大な国際問題であり、それは宣戦布告を意味するのだ。そう、無理もない・・・。
「今は情報が錯綜しています。それに私の同僚も被害にあった為事の全容を把握できていません」
「くっ・・・!俺に何かできる事はあるか?」
「そう・・・ですね・・・。では宮殿にこの件を報告して頂けませんか?そして応援を求めているとお伝えして頂ければ助かります。何分、我々は動けないもので・・・」
「分かった!行ってくるぜ!アンタも無理はするなよ!」
そう言うとインフェルノカイザーは踵を返し、闇の宮殿へと全力で駆ける。
ヘル・イン・ザ・ダークネスを襲う前代未聞の大事件。当たり前の平穏は突如として音を立てて崩れた。
「あの区画にはウルフの家もある・・・!無事でいてくれよ・・・!!」
友を想い、全力で駆けるインフェルノカイザー。
道中、すれ違う人々の不安の声が嫌でもインフェルノカイザーの耳に入って来た。
「おいおい!何が起こってんだ!?」
「テロだ!!みんな逃げろ!」
「ヤバイ!ヤバイって!!本当にヤバイよコレはヤバイ!!」
「離してくれ!!あそこには俺のダチがいるんだ!!」
突然の事態に人々は驚き、恐怖し、慈悲を求める。
光の連邦軍による突然の襲撃は瞬く間に知れ渡り、ヘル・イン・ザ・ダークネスは大混乱に陥っていた。
(クソッ!なんでこんな事に・・・!光の連邦軍は何がしてぇんだ!?)
インフェルノカイザーは走りながら歯を食いしばり、連邦軍の行動の意図を考える。
だが答えは出ない。戦争を仕掛けたにしても、もっと旨いやり方はあるはずだ。
宣戦布告もなく突如として襲撃するなど前代未聞であり愚策だ。こんなものをこの世界の人々は許さないだろう。
それとも余程自信があるのだろうか?光の連邦軍がこの世界を支配出来るほどに・・・。
考えても答えは出ない。今インフェルノカイザーにできる事はただ宮殿に向かって走るのみなのだ・・・。
-ヘル・イン・ザ・ダークネス城壁外部-
「首尾は上々のようね。ガ・ウ・ス♡」
ヘル・イン・ザ・ダークネス内が混乱に陥る中、その外側では光の連邦軍による魔手が蠢いていた。
ガウスと呼ばれる白衣の男に対し、背後から大柄な女性が声を掛ける。
「その不快な声・・・ザルコヴィッチか」
手にしていた資料から目を離し、ガウスは睨むように振り向くと冷たく応対する。
その瞬間、左耳に装着されているサソリを模したピアスがキラリと光を反射する。
そして、ザルコヴィッチ。そう呼ばれる女性も連邦軍に属す者の一人だ。
一見、ガタイの良い大柄な女性に見えるが生物学的には男性であり、所謂LGBTQ+のTに該当する。センシティブなヤツだぜ。
濃いめ化粧、黒い鞭を握りしめる右手の甲には乙女座を象ったタトゥーがデカデカと刻まれていた。そしてその背後には100名程の兵士達・・・。
蠍座の称号を持つガウス、乙女座の称号を持つザルコヴィッチ。
そう、この二人こそ後にインフェルノカイザー達と死闘を繰り広げる事になる集団・・・十二幹部だ。
「貴様は確かブーメランパークの制圧が任務だったハズだが・・・」
「イヤねぇ!あんな辺境の村の占拠だなんてタイクツすぎて部下に任せてきたわぁん。コッチの方がオモシロイでしょ~ん?」
「そうか。であれば好都合。この場は貴様に譲るとしよう」
ねっとりしたオネェ口調のザルコヴィッチに対し、ガウスは淡々とした口調でそう返した。
「あらァん?どういうつもりかしらァ?」
「私の任務である城壁への破壊工作は既に完了している。この後時間差で西側と東側の外壁に仕掛けた装置が起動し、クリス隊とバラン隊が突入するだろう」
「ふぅ~ん?休む暇のない波状攻撃でメチャクチャにしてやろうってコトね?嫌いじゃないわ!じゃあお言葉に甘えて暴れようかしら!で、アナタはどうするつもり?」
身体をクネらせ、恍惚した様子でガウスのタスクを引き継いだザルコヴィッチは興味本位でそう尋ねる。
「私はアジトへ戻らせてもらう。ポラリス様に課せられた研究があるのでな」
「アジトって・・・あの辺鄙な村のコトォ?たしかキャスバンビレッジだったかしら?」
「あの廃村は身を隠すのに丁度いい。ポラリス様へは私から報告しておこう」
ガウスはそう言うとザルコヴィッチに背を向け、その場を去ろうとする。
だが何かを思い出したかのように振り向いた。
「一つ忠告だが城壁内に新開発の毒を放った。侵された者を長期的に苦しめる特別製のヤツだ。せいぜい巻き添えを食わないよう気を付けるんだな。用件はそれだけだ。じゃあな」
そう言い残すとガウスはその場を後にした。
「毒だなんて・・・相変わらず姑息で陰キャな男ネ~。でも、なかなか楽しめそうじゃな~い・・・?」
ザルコヴィッチはニヤリと不気味な笑みを浮かべると後方に待機している兵士達の方を向き、右腕を掲げ、勝鬨を上げる。
「アンタ達!!派手にヤるわよォ!!!!」
「イエッサー!!!!」
兵士達の怒号と共にザルコヴィッチは堂々とヘル・イン・ザ・ダークネス内部へ侵攻し始めた。
「ハァ!ハァ・・・!」
一方そのころ。全速力走って来たインフェルノカイザーは闇の宮殿に辿り着いていた。
宮殿の前で一旦息を整えると、速足で入り口に足を踏み入れた。
ザワザワ・・・
玄関ホール内には多数の衛兵や文官が忙しそうにやり取りしていた。
「クッ・・・ここも混乱してるみてぇだな・・・」
インフェルノカイザーはそう呟くと辺りを見渡す。
人ごみの中、インフェルノカイザー適当に目についた衛兵に近づくと話しかけた。
「おい!大丈夫か!?」
「イ、インフェルノカイザー様!?申し訳ありません。今は取り込んでいまして・・・」
「第三区画の事だろ?俺はそこの警備員から応援を呼んでくるよう頼まれて来たんだ。その様子だとこっちも把握はしてるみてぇだな?」
インフェルノカイザーはやや食い気味に第三区画での出来事を伝える。
「そうでしたか!つい先ほど四蜃のファド様とマター様が向かわれました」
「そうか!さすがに判断が早いな。マーベリクとガリルはどうした?」
「マーベリク様は現在別件でヘル・イン・ザ・ダークネスを留守にされています。ガリル様は念のために宮殿に残り、魔皇帝様と会議室にて状況の収集と整理に努めるとの事!我々も編成の指示が下り次第現場に急行する予定となっております!」
「そうか・・・。とりあえずは大丈夫そうだな・・・」
兵士からの状況説明を聞きインフェルノカイザーは少しだけ安心する。
だが油断は許されない状況だ。何せ今回の事件は前代未聞の出来事。
今後の光の連邦軍の行動次第では更なる危機が訪れる可能性も視野だ。
「俺に何かできる事はあるか?」
「インフェルノカイザー様、お気持ちはありがたいですしその実力は私共も把握しております。ですがあなたはまだ一般人の立場です。ここは我々に任せ避難してください」
「だ、だが・・・!」
「オイ!指示が下りたぞ!西側の城壁もヤベェらしいからさっさと出発するぞ!」
インフェルノカイザーと衛兵の間にまた別の大柄な体躯の衛兵が大声と共に割り込んできた。
それを受けた衛兵は話を切り上げるようにインフェルノカイザーに会釈すると駆け足で宮殿を後にした。
「クッ・・・避難しろって言われてもジっとしてられっかよ・・・!」
インフェルノカイザーは思わず拳を握る。
己自信の無力さもさることながら、第三区画の出来事を目の当たりにした以上落ち着いてはいられない。
それはインフェルノカイザーが持つ善性と王たる器の表れ。だがそれが開花するのはまだもう少し先の事。
そう、今のインフェルノカイザーは生まれはエリートだが軍に所属しているワケでもなく所詮はただの一般人のガキなのだ。
「そうだ・・・父上は・・・!?」
ハッとした様子でインフェルノカイザーは顔を上げる。
「大丈夫だとは思うが・・・謁見の最中だったらまだ騒動に気づいてないんじゃねぇか・・・?それにタケシの奴も・・・」
そう呟くとインフェルノカイザーは玄関ホールを後にし、謁見の間へと続く廊下へ駆け出した。
「・・・この騒動は・・・」
そんなインフェルノカイザーと行き違うようなタイミングで玄関ホールに現れた男。
白いローブを纏いし光からの使者、シャイニングカイザーだ。
「連邦軍の闇の領域への侵攻作戦は一週間後だった筈・・・。まさか予定を早めた・・・?いや、私が虚偽の情報を掴まされていた・・・!?」
シャイニングカイザーは複雑な心境と表情で状況を整理する。
もともと、シャイニングカイザーは光の連邦軍の情報を提供するためにヘル・イン・ザ・ダークネスへやってきた。
その内容は「光の連邦軍がヘル・イン・ザ・ダークネスへの侵攻作戦を企てている」というモノ。
だが情報とは裏腹に連邦軍は既に侵攻作戦を実行しているという事は周囲の兵士達の様子から察する事ができる。
つまり、自分が持ってきた情報は間違っていたという事を意味していた。
「・・・情報の洗い直しが必要ですね。それに光側の私がこの場に居るのは無用な混乱を招くだけでしょう。ここは撤収するしかありませんね・・・」
そう結論付けたシャイニングカイザーはローブを深くかぶり直す。
最悪の展開を防ぐことが出来なかった無念を胸に、宮殿を後にするのであった・・・。
「・・・父上・・・!」
一方、謁見の間の扉の元へ駆けつけたインフェルノカイザーは焦燥した様子で呟く。
謁見中に乱入するなど本来は罰則対象だ。だが今は非常時であり下手すると人命にかかわる。
決意を固めたインフェルノカイザーは息を整えるとドアノブに手を掛けた。
ガッ・・・
「なんだ!?開かねぇ!!鍵がかかってんのか!?」
そう、無理もない。今は謁見中である以上内部から鍵を掛けられているのは当たり前なのだから。そう、無理もない。
「父上!!いますか!?」
ドンドンッ!!
インフェルノカイザーは強めにノックし、内部との接触を図る。
しかし内部からの反応は皆無。インフェルノカイザーの身に不安がよぎる。
「クソッ!ええい、ままよ!!」
インフェルノカイザーはおもむろに右手に闇のオーラをチャージ!
「暗黒式対獣砲・・・ヤミノマァ!!」
ブボラァァアッ!!!
その瞬間、インフェルノカイザーの右手から散弾銃のように圧縮された闇のオーラが解き放たれた!
それを受けた扉は派手な音と共に弾け飛んだ!!
「イ、インフィー!?」
「父上!!」
どうなる!?




