穢された輝き
「・・・ハッ!?」
インフェルノカイザーが気が付くと仰向けで倒れていた。
眼前に広がるは一面真っ青な一枚絵。そして眩しく輝く黒き太陽。すなわち空。
ザラザラしたベージュ色の絨毯は不快な粒子が肌にくっつき、衣類の隙間に入り込む。すなわち砂漠・・・。
「ここは・・・デス・デザートか・・・!」
同じように気が付いたダーク・ウルフがそう言いながらゆっくり上半身を起こす。
そう、この場は闇の領域、ヴァリアヘイム大陸に存在する大砂漠、デス・デザート。
不毛の大地に照り付ける灼熱の熱線は生きとし生ける生命の命を刈り取る(熱中症)
だがインフェルノカイザー達はそのような事を考えてる場合ではなかった。
「そうだ・・・!ポラリス・・・!」
インフェルノカイザーも上体を起こすと周りを見る。
気を失ったままうつ伏せで倒れているアージョ、意識はあるようだが混乱した様子のエルリーク、座り込み、俯くシャイニングカイザー。
仲間達の無事を確認するがその場にポラリスの姿は無かった。
「・・・あの男・・・」
「オイ!み、見ろ!!」
インフェルノカイザーが感傷に浸る間もなくダーク・ウルフが大声と共に明後日の方向に指を指す。
一同は釣られるように刺された方向に顔を向けた。
ズゴゴゴゴゴゴ・・・!!
「ダークネス・ダーク・タワーが・・・!!」
「沈んでいく・・・」
漆黒の巨塔が轟音と地響きを不毛なる砂漠に轟かせ、砂埃を巻き上げる。
塔はまるで長いネジが地面へ撃ち込まれていくように回転しながら沈んでいく。
インフェルノカイザー達はその圧巻の様子を只々唖然と見ている事しか出来なかった。
ズズズゥ・・・グ・・・
デス・デザートのシンボルとも言える存在であったダークネス・ダーク・タワーは完全に地中へ沈み、その存在は消え失せた。
塔が存在した場所はまるでクレーターのように陥没しているが、これもやがて時間と共に痕跡一つなくなってしまうのだろう。
地響きと轟音が止むと訪れるは静寂。塔が消えたこと以外はいつもと変わらないデス・デザートの景色がそこにあった。
「・・・終わったんか・・・?」
一同が唖然とする中、エルリークが口を開き、その静寂に一石を投じた。
「あぁ・・・。アイツのおかげでな・・・」
エルリークの言葉に答えるようにインフェルノカイザーは呟いた。
ポラリスの自己犠牲のおかげでインフェルノカイザー達は生きて塔から脱出し、災厄の存在であったタケシは封じられた。
激動の連続であったダークネス・ダーク・タワー編もついに完結と言った所だろう。長かったな・・・。
「はぁ・・・。なんか急に力が抜けちまったぜ・・・」
ダーク・ウルフはそう言うとバタりと砂の上に倒れこむ。
無理もないだろう。ここまでずっと気を張っていた為その緊張はピークに達していた。
おまけにタケシとの戦いで受けた雷によるダメージはまだ完治していない。ある程度動けるようになったとは言えこれ以上の戦いは困難だろう。
正に満身創痍だ。今夜のご飯は最高に美味しくなること請け合いだ。
「とりあえずヘル・イン・ザ・ダークネスに戻ろう。アンドレイ様達にお伝えする事が山ほどあるからな・・・」
インフェルノカイザーはゆっくりと立ち上がるとそう提案する。
戦いが終わった今、このクソ暑い砂漠に長居する理由はない。
「だな。それに大戦がどうなったかも気になるしな・・・。てかアージョはいつまで寝てんだ・・・?」
ダーク・ウルフもインフェルノカイザーに賛同。
同時に倒れたままのアージョにお気持ちを表明する。
「まァそう言ってやんなや。コイツもまぁまぁ頑張ってたしな・・・」
ダーク・ウルフの言葉に反しエルリークは身体中傷だらけのアージョを労うように言う。
「ヘヘッ!あんなに仲悪かったってのに随分優しいじゃん。いい加減アージョの事認めてやればいいのに」
「バ、バカ野郎!勘違いすんじゃねぇ!!別にコイツの事認めたワケじゃねぇんだからなっ!」
「オッサンのツンデレきちーな・・・」
ダーク・ウルフとエルリークはいつもの調子でふざけ合う。
それを見ていたインフェルノカイザーは自然と笑みを浮かべる。
光と闇による大戦争は終結し、裏で糸を引いていたポラリスを止め、未曾有の危機に成りえたタケシの復活を防ぐことが出来た。
決して犠牲は少なくないが、こうしてふざけ合える日常と言う平和を手にする事が出来た。
「ポラリス・・・アンタは予言にあった”選ばれし者”だったよ」
「うっ・・・くッ・・・」
勝利の余韻に浸っていたインフェルノカイザーの後方より呻くような声が聞こえてきた。
「・・・シャイン?」
インフェルノカイザーが振り返るとそこには座り込み、嗚咽と共に体を震わせるシャイニングカイザーが居た。
「うッ・・・うぅ・・・!!」
「その・・・ポラリスの事は・・・残念だったな・・・」
様子がおかしい事に気づいたインフェルノカイザーは慰めの言葉と共に歩みる。
無理もないのかもしれない。もともとシャイニングカイザーはポラリスと光の連邦軍の中で交流もあったはずだ。
ポラリスが犯した罪は決して軽くはない。だがその業を清算するためにその身を犠牲にしたポラリスの事を思うと、シャイニングカイザーの心中を察するに余りある。
インフェルノカイザーがその様な事を思っているその時だった・・・!
「う・・・ぷぷっ・・・!!」
「え?」
「くくっ・・・!アハ!!アッハッハッハッハッハ!!!!」
「えぇ!?」
突如高笑いし、すっくと立ち上がるシャイニングカイザー。
その様子にインフェルノカイザーはドン引きしながら後退りしてしまった。
「ッシャァ!!!成功したァ!!!!ザマァ見ろあのクソジジイがよォーー!!トロピカルヤッホーゥ!!」
周囲の視線などお構いなしにシャイニングカイザーは喚きながら飛び跳ねる。
今までの丁寧な口調と所作が嘘のようなはしゃぎ様・・・一体どうしちまったってんだ・・・?
「ちょ、ちょっとシャイン!戦いが終わって嬉しいのは分かるけどお前何かキャラ違くね・・・?」
「・・・待て。何か様子がおかしい・・・」
ダーク・ウルフはシャイニングカイザーに対し困惑しながらもツッコミを入れる。
だがシャイニンカイザーの突然の奇行に違和感を覚えたインフェルノカイザーはダーク・ウルフを静止した。
「アッハ♪スマソスマソ。ついついテンションが上がっちゃってねェ・・・」
シャイニングカイザーは半笑いで言うとニヤリと白い歯を見せる。
掴み所のない飄々とした口調、まるで人を馬鹿にしたようなニヤついた表情。
奇麗な蒼色だった瞳は吸い込まれそうなほど不気味な漆黒に染まっている。
その様子に対し、インフェルノカイザー達は見覚えがあった。
「その口調・・・お前・・・!タケシ・・・!?」
「せ~いか~い!!」
その名を発したのはインフェルノカイザーだった。
そしてその名を肯定するシャイニングカイザーは拍手を送る。
「いや~・・・さっきはさすがのオレっちも焦ったねェ・・・。そんなキャラじゃないのに叫んじゃったよ。恥ずかしいネ!」
シャイニングカイザーのその口調は先ほどまで敵対していたタケシのソレであった。
いつものクールな表情は普段なら絶対しないであろうニヤニヤした表情になっており、その違和感には動揺せざるを得ない。
「どういう事だ・・・!説明しろ・・・!!」
超高校級のマブダチことダーク・ウルフは顔を引きつらせながら説明を求める。
そう、無理もない。タケシはポラリスの命がけの作戦により地中深くに封印された筈だ。
だのに、目の前のシャイニングカイザーは自身の事をタケシであると言う。そんな事がある訳が無い。否、あってはならない・・・。そう、無理もない・・・!
「アンタ等がワープする瞬間・・・オレっちはイチかバチか精神を身体から切り離したんよ。んで気づいたらこの体に意識が移ってたってワケ!所謂憑依ってヤツよォ!」
「嘘・・・だろ?じゃあシャインの意識はどうなったんだよ・・・!?」
「そりゃアレだよ。意識の奥深く・・・深層心理の中で寝てるよん。スヤスヤとねェ・・・」
シャイニングカイザー改め、タケシは軽い感じのノリで語る。
だがインフェルノカイザーは信じられなかった。いや、信じたくなかったと言うべきだろうか・・・。
ポラリスが決死の覚悟でタケシを封印したと思っていたら最悪の形でタケシは生き残っていた。
そんな状況を簡単に飲み込めるハズが無かった。
「マジかよ・・・シャインの野郎・・・乗っ取られちまったってのか・・・!」
エルリークの言葉にハッとさせられるインフェルノカイザー。
そう。目の前のイケメンは見た目こそシャイニングカイザーだがその中身は紛れもなく”破壊を齎す存在”タケシなのだ。
「にしてもあそこまで追い詰められるとは予想外だったねェ。おかげでオレっちの計画が台無しだよ。やってくれたなァ?クソガキ共・・・」
いつものふざけた口調が嘘のような凄みを醸し出し睨みつけるタケシ。
その瞬間、周囲の空気がヒリつく。灼熱の砂漠を忘れさせるかのように背筋が凍り付く。
インフェルノカイザー達は否が応でもタケシの存在を認め、状況を飲み込む他なかった。
「ったくよォ~。咄嗟に精神を切り離したせいでせっかく吸い取った星の核のエネルギーは無くなっちゃったし、コツコツ鍛えてた能力のスキルツリーも全部リセットですにょ~・・・」
一転して、ため息混じりにいつもの軽い口調でそう言うと、タケシは精神を集中しネイチャーオーラを発動して見せる。
ジワァ・・・
「うわ~めっちゃネイチャーパワー弱くなってらァ。たしかこの体・・・もといシャイニングカイザー君って人工的に作り出されたんだっけ?そりゃネイチャーエネルギーと相性悪いわなァ!」
一方的に身体を乗っ取ったにも関わらずタケシはシャイニングカイザーの身体に文句を言う。
約200年同じ体を使ってきたタケシにとって精神を切り離し、別の身体に精神を憑依させるという事は苦渋の決断だったのだろう。
そんな様子をインフェルノカイザー達一同は動くことが出来ず、ただ見ている事しか出来ないでいた。
「とは言え、この”器”のスペック自体は大当たりだから・・・ま、イーブンってトコかナ~。オレっちの事は今後”シャイニング・タケシ”って呼んでね!」
ドゴッ!
刹那、鈍い打撃音が鳴る。
「カ、カイザー!?」
驚いたダーク・ウルフは振り返ると闇のオーラを沸々を纏うインフェルノカイザーが地面を蹴りつけていた。
「ふざけてんじゃねぇぞ人非人が・・・。シャインを返せよ・・・!」
「カイザー、お前・・・!」
静かな怒りを露にするインフェルノカイザー。ダーク・ウルフは思わず息を呑む。
この期に及んで好き放題のたまうタケシに対し、インフェルノカイザーの堪忍袋の緒は限界を迎えていた。
その身に宿る破壊本能は今にも爆発しそうだった。インフェルノカイザーは両手を強く握りこみ、辛うじて衝動に抗う。
「これ以上失いたくねぇんだ・・・!従わねぇならタケシ・・・!お前を壊す・・・!」
ズズッ・・・!
インフェルノカイザーは目を見開くと更に闇のオーラを増幅させ言い放つ。
両手からは強く手を握りすぎたが故に血が滴り落ちているではないか。
そんなインフェルノカイザーを見るや否やタケシはバツが悪そうな表情で口を開いた。
「・・・今日はもう止めない?」
「!?」
その言葉は予想に反する提案だった。




