第22話:リセットの秒読み、結集する絆
世界教会の最高権力者たちが起動した禁忌の古代兵器「世界のデバッグプログラム」。
すべてを白い無へと還そうとする強制初期化の光が、美しき聖都インペリアを、そして世界を侵食し始めます。
今回はこれまでの旅でマリとミニが紡いできた「絆」が奇跡を起こす、胸熱な伏線回収回をお届けします!
海洋編のアルベルト、鉱山編のチェルシー、空中都市編のエレナ。マリが救ってきた人々が、それぞれの技術と知恵を携えて聖都へと集結!
圧倒的なピンチを「全員の技術の調和」で突破する王道の熱い展開を、どうぞお楽しみください!
「……何、これ。水が、消えていく……?」
聖都の地下水路。スラムの人々に導かれ、暗いレンガ造りの通路へと逃げ込んだマリは、足元を見てゾッとするような寒気を覚えた。
つい数十秒前まで、冷たく湿った水が流れていたはずの地下水路。
しかし今、その水は「乾いて消えた」のではなかった。水が流れていた場所から徐々に色が失われ、まるで絵の具のキャンバスを白く塗り潰していくかのように、無機質な、何一つ凹凸のない『白い立方体の虚無』へと変質していたのだ。
カチ、カチ、カチ……と、頭の奥に直接響くような、無機質なメトロノームの音が聞こえる。
世界のすべてを強制的に初期化し、多様な命を「お片付け」しようとする【世界のデバッグプログラム】の浸食が、すでにこの地下にまで及び始めていた。
「きゅ、きゅーーーっ!」
ぽんぽぽが、マリのパーカーのフードの中で、見たこともないほど激しく震えながら、マリの首筋に必死にしがみついている。豊かな自然の恵みそのものであるぽんぽぽにとって、万物の色と命を消し去るこの白い虚無は、本能的な恐怖そのものだった。
「大丈夫だよ、ぽんぽぽ……。私が、絶対に守るから」
マリは震える手でぽんぽぽを抱きしめ、胸のポケットからスマートフォンを取り出した。
画面からは、かつてないほど激しく赤と緑のノイズを走らせる、ミニの深刻な音声が立ち上がる。
『マスター、事態は一刻を争います。この初期化の光に触れた物質は、その存在の定義ごと、世界のシステムから完全に抹消されます。教会の連中は、世界の歪みを直す努力を怠り、自分たちの不都合なゴミごと、世界すべてを「最初から何もなかったこと」にしようとしているのです』
「そんなの、お掃除じゃないよ! ただの現実逃避だよ!」
マリは涙をこらえながら叫んだ。
自分がこれまで一生懸命にホコリを払い、磨き上げてきた世界の「循環」が、強欲なエリートたちの手勝手なリセットによって、すべて無にされようとしている。その理不尽さが、彼女の等身大の心を激しく突き動かしていた。
『その通りです、マスター。ですが、あのリセットの光を放つ「白金の大尖塔」の防衛バリアは、教会の全エネルギーを注ぎ込まれており、物理的にも魔導的にも、絶対に突破不可能なレベルに達しています。……私たちの演算だけでは、尖塔の麓に近寄ることすら不可能です』
ミニのホログラムが、大尖塔の周囲を何重にも取り囲む、教会の強力な「絶対拒絶結界」のシミュレーションを表示する。
近づけば、魔王エターナルを起動する前に、マリの存在そのものが白い光に分解されてしまう。
「じゃあ……もう、どうすることもできないの……?」
マリが絶望に沈みかけた、その瞬間だった。
ドゴォォォォン!!!
地下水路の頑丈なレンガの壁が、突如として大爆発を起こして吹き飛んだ。
「きゃっ!? なに!?」
マリが顔を覆ってしゃがみ込むと、もうもうと立ち込める煙の向こうから、聞き覚えのある、豪快で、けれど頼もしすぎる笑い声が響いてきた。
「ハッハー! 間に合ったぜ、お嬢ちゃん! 随分と湿気たところに隠れてやがったな!」
「え……? アルベルトさん!?」
煙を払って現れたのは、ゼフィリアの海で共に【深海空気送気システム(OBS)】を作り上げた、あの男泣きの技師アルベルトだった! 彼の後ろには、数人の屈強な海の男たちが、なにやら見たこともない巨大な金属製のパイプラインを担いで立っている。
「アルベルトさん! どうしてここに……!?」
「どうしてもこうしてもあるかい! 海の調律が終わったと思ったら、聖都の奴らが大暴れして世界を白紙に戻そうとしてるって、チェルシーの姉ちゃんから連絡があってな! オレの船を限界まで改造して、この聖都の港までぶっ飛んできたんだよ!」
「チェルシーさんまで……!?」
「おうよ! 噂をすれば、だ!」
レンガの割れ目の奥から、赤茶けた髪を振り乱し、煤まみれの顔をしたチェルシーが、巨大なスパナを肩に担いで姿を現した。
「よお、マリ。久しぶりじゃないか。グラナードの溶鉱炉の熱源バイパスを使って、ギルドの特製魔導装甲車をぶっ飛ばしてきたよ。聖都の防衛網なんて、オレたちの作った『大地の呼吸』の前には、ただの錆びついたおもちゃさ!」
チェルシーが親指を立ててニヤリと笑う。
さらに、彼女たちの後ろの空間から、ふわりと澄んだ美しい風が吹き抜け、大理石のように白い、有翼族の美しい翼を持った女性が舞い降りた。空中都市スカイハーツの調停官、エレナだった。
「マリ、ミニ。空の風も、あなたたちの絆に応えるために駆けつけました。有翼族の魔力と、地上族の技術を融合させた、最新の【風気還流バリア】を携えて」
エレナが優しく微笑み、その手に握られた、エメラルドグリーンに輝く美しい結晶を掲げた。
「みんな……。どうして、こんな危険な場所に……」
マリの目から、今度は嬉しさと感動の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
彼女たちがこれまで必死に各地でお掃除し、残してきた「持続の形(循環)」。それが今、それぞれの街の技術者たちの手を経て、世界の危機を救うための「巨大な絆のネットワーク」として、この聖都に結集したのだ。
『信じられない現象です……』
スマホの中から、ミニの波形が驚きに震える。
『私のデータベースには、これほど異なる地域の技術者が、利害関係なしに、ただ一人の少女のために一堂に会するなんていう予測モデルは存在しませんでした。……これこそが、マスターの示す【和(調和と結束)】の、予測不可能なイノベーションですね』
「へへ、ミニ。これが、人と人との繋がりなんだよ!」
マリは涙を拭い、力強く立ち上がった。
「みんな! 教会のデバッグプログラムを止めたいの。でも、白金の大尖塔の周りには、絶対に近づけない白い光の結界があって……」
「そんなもん、オレたちの『合体システム』でぶち破るまでさ!」
チェルシーが頼もしく胸を叩いた。
「いいかい、マリ。アルベルトのナノバブル水流で結界のエネルギー密度を希釈(薄める)して、オレのバイパス技術で大地の地熱を直接ぶち込んで結界の回路をオーバーヒートさせる。仕上げにエレナの風で、そのデバッグの光を宇宙の彼方へ吹き飛ばす! これが、オレたちが数日間寝ないで考えた、最高の【三位一体・大掃除システム】だ!」
「すごい……! 海と大地と空の技術が、全部繋がってる……!」
『これなら勝てます、マスター!』
ミニの画面が、歓喜のエメラルドグリーン一色に染まり、驚異的な流体・地熱・大気シミュレーションを瞬時に展開する。
『かつては対立し、分断されていた世界の要素が、今、一つの「大きな循環」として完成しました。教会の融通の利かないワンパターンな結界など、この完璧なハイブリッドシステムの前には、ただの古い壁に過ぎません!』
「よし! 作戦開始だ! 野郎ども、大尖塔の麓まで、お嬢ちゃんを安全に送り届けるぞ!」
「おおぉぉぉぉぉ――ッ!!!」
アルベルトの号令とともに、海の男たち、鉱山の技術者たち、そして空中都市の戦士たちが一斉に動き出した。
地下水路を飛び出し、白光に侵食されつつある聖都の大通りへと躍り出る。
天を衝く白金の大尖塔からは、世界を消し去るデバッグの光が絶え間なく降り注ぎ、教会の自律防衛兵器がマリたちを排除しようと襲いかかってくる。
しかし、その全てを、アルベルトの水流、チェルシーの地熱、エレナの風が、完璧な調和をもって防ぎ、弾き返し、道を切り開いていく。
「マリ! 行け!!」
チェルシーの叫び声に背中を押され、マリは、大尖塔の目の前へとたどり着いた。
そこにあるのは、世界のすべてのエネルギーを独占し、世界を初期化しようとする、世界教会の最高権力者たちが潜む、最後の扉。
「ありがとう、みんな。……あとは、私に任せて!」
マリはぎゅっと拳を握りしめ、白金の大扉をまっすぐに見据えた。
第24話の第1部完結、そして世界を美しく蘇らせる最大のお掃除に向けて、すべての絆を結んだ少女の、最後の戦いが幕を開けようとしていた――。
第22話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
これまでの章(海洋編、鉱山編、空中都市編)のすべての仲間たちが大集結する、激熱の伏線回収回をお届けいたしました!
これまではマリとミニ、そしてエターナルの力だけでお掃除してきましたが、マリが残した「持続の形」が人々を繋ぎ、彼ら自身が自発的に世界を救うために立ち上がるという、エンタメ展開として具現化いたしました。
「みんなの技術を全部合体させて、教会の絶対結界をぶち破る!」という、なろう読者が直感的に最も興奮できる王道の熱い展開に翻訳しております。
次回・第23話では、いよいよ大尖塔内部へ突入! 世界をリセットしようとする教会の最高権力者たちと、マリたちの最終決戦。そして、満を持して「魔王エターナル」の、世界を賭けた最大規模のお掃除が始まります!
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




