第21話:指名手配の少女と、路地裏のぬくもり
地下の魔力収束炉を「世界へエネルギーを送り返す心臓」へと調律した魔王エターナル。
しかし、これによって莫大なエネルギーの独占権(利権)を失った教会の上層部が、ついに黙ってはいない状況になります。
第24話の第1部大団円に向けて、今回から怒涛の最終決戦へのカウントダウンがスタート!
今回は聖都インペリアでのハラハラドキドキの逃亡劇、そしてスラム街の人々と協力して教会のワンパターンな防衛網をガラクタで鮮やかに攪乱する、知的で爽快なエンタメお掃除回をお届けします。どうぞお楽しみください!
「ちょっと待って……これ、どう見ても私だよね!?」
大理石の美しい大通りから一本入った、薄暗い路地裏。マリは建物の陰からおずおずと顔を覗かせ、聖都のあちこちに設置された巨大な魔導スクリーンを見上げて、引きつった声を上げた。
いつもはきらびやかな聖都の広報や教会の教えを映し出しているその大画面には、今やマリの顔写真がデカデカと映し出されていた。ライトグレーのパーカーを深く被り、キョロキョロと辺りを見回している、どこからどう見ても数日前のマリ自身の姿である。
『聖堂に侵入し、世界を支える「奇跡の収束炉」を汚染した、極悪非道の大罪人。見つけ次第、ただちに聖堂騎士団に通報せよ。拘束時の生死は問わない』
魔導スクリーンから流れる神官の冷酷なナレーションが、聖都の隅々にまで響き渡っている。
「生死は問わないって……! 私、ただ地下のドロドロのゴミをお掃除しただけなのに!」
マリは涙目になりながらリュックの紐をぎゅっと握りしめた。
背後のフードの中では、ぽんぽぽが「きゅ、きゅーーー……」と、自分のことのように悲しそうに鳴きながら、マリの首筋にすり寄ってくる。
『マスター、論理的な予測の範囲内です。彼らにとって、他者からエネルギーを吸い上げ、自分たちだけで完璧に抱え込むことこそが「世界の秩序」でした。それが急に外の世界(海、大地、空)へ逆流し始めたのですから、彼らにとってはこれ以上ないシステムエラー(バグ)として認識されたのでしょう』
胸のポケットからスマートフォンが小さく震え、ミニのなじみ深いエメラルドグリーンの波形が、冷静な音声とともに立ち上がる。
『ですが、心配はいりません。教会の防衛騎士団が使用している追跡システムは、過去の登録データ(不審者の顔パターンなど)のみを頼りに動く、極めてワンパターンなものです。臨機応変なアップデートができないシステムなど、私にとってはお掃除の対象に過ぎません』
「ミニは頼もしいなぁ……。でも、手持ちのお金は相変わらず八百十円(※ジュースを一本買ったので、さらに減っていた)だし、どこかに隠れないとすぐに見つかっちゃいそうだよ」
『ええ。では、私のナビゲーションに従ってください。教会の「完璧な防衛網」が、あえて見落とし、システム外のゴミ捨て場として放置している場所があります。――インペリアの南東に位置する「下層貧民街」です』
「スラム……。ちょっと怖いけど、背に腹は変えられないよね。行こう、ぽんぽぽ!」
「きゅっ!」
マリはパーカーのフードを深く被り直し、人混みを避けながら、白金に輝く三重の城壁の最も外側――美しい白亜の建物が途切れ、湿気たレンガとブリキの屋根が立ち並ぶエリアへと足を急がせた。
――カツン、カツンと、足元の石畳がいつの間にか割れた泥混じりの土へと変わっていく。
そこは、光り輝く聖都インペリアの、文字通りの「影」だった。
ひび割れたレンガの建物の軒下には、寒さに震えながら身を寄せ合う、みすぼらしい衣服を着た人々が座り込んでいた。彼らは、教会の恩恵を受ける地上族や有翼族とは異なり、エネルギーの分配をほとんど受けられず、飢えと寒さに耐える日々を送っていたのだ。
しかし、今日のスラム街は、いつもと少し様子が違っていた。
「おい、これを見てみろよ!」
「なんだこれ……? 壊れて動かなかったはずの、この魔導ヒーターが、急に温かくなりやがったぞ!」
「街灯もだ! 錆びついて何年も消えていたのに、こんなに綺麗な緑色の光が灯ってる!」
スラムのあちこちから、驚きと歓喜の声が上がっていた。
彼らが指差す先では、錆びついた魔導機器から、ぬくもりのある淡いエメラルドグリーンの光がふわりと立ち上り、周囲を優しく温めていた。
それは、マリとミニ、そして魔王エターナルが地下深くに構築した『生命律動(逆流システム)』が、搾取されていたエネルギーを、最も必要としている場所へと「逆流」させて送り届けている証拠だった。
(あ……。私たちが作った仕組み、ちゃんとここまで届いてる……!)
マリが胸を熱くしながら歩いていると、ふと、一台の魔導スクリーンに映る自分の手配書と、フードからわずかに覗くマリの顔を見比べた、一人の少年と目が合ってしまった。
「あ、君……! もしかして、その手配書の――」
「ひゃっ!? ち、違います、人違いですっ!」
マリは慌てて両手を振って誤魔化そうとしたが、時すでに遅し。少年の大声を聞きつけて、周囲のみすぼらしい衣服を着た大人たちが、続々とマリの周りに集まってきた。
「おい、本当だ。大聖堂を汚染した極悪非道の大罪人……」
「でもよ、あの手配書が出回ったのと、俺たちのヒーターが温かくなり始めたのは、ちょうど同じ時間だぞ?」
「大聖堂の地下には、俺たちから搾り取ったエネルギーが溜まってたって噂だ。それを、この子が……」
人々がマリを見つめる目に、敵意は一切なかった。そこにあるのは、言葉にできないほどの、深い感謝と敬意の眼差しだった。
「お嬢ちゃん。……あんたが、俺たちの凍え死にそうだった子供たちを救ってくれたんだな?」
一人の年老いた男性が、泥で汚れた手を差し出し、マリの小さな手を両手で優しく包み込んだ。その手のぬくもりに、マリの緊張はふっと解けていく。
「私はただ、いっぱいいっぱい溜まったゴミを、みんなのところに送り返しただけです。……でも、教会の追っ手が追ってきてて」
「よし、分かった! ここは俺たちの街だ! 教会の冷たい役人どもに、恩人を渡してたまるか!」
「そうだ! みんな、あの子を匿うぞ! 奥のガラクタ置き場の隠し部屋へ連れていけ!」
スラムの人々は一斉に立ち上がり、マリを優しく囲むようにして、教会の目から隠してくれた。
人と人とが損得ではなく、心と温もりで繋がっていく――。それこそが、どんな完璧な防衛システムにも真似できない、本物の『和の絆』だった。
しかし、平穏は長くは続かなかった。
ドタドタドタッ!!!
スラムの入り口から、重々しい金属鎧の足音が響いてきた。
教会の聖堂騎士団が、魔導探索機を手に、強引にスラムへと踏み込んできたのだ。
「不審な少女の目撃情報があった! 全員動くな! 罪人を匿う者は、教会への反逆と同罪とみなす!」
拡声魔導器を通した騎士団長の冷酷な声が響く。彼らが持つ探索計器の針は、真っ直ぐにマリがいるガラクタ置き場を指し示していた。このままでは、匿ってくれたスラムの人々まで巻き添えになってしまう。
「どうしよう、ミニ! このままじゃみんなに迷惑がかかっちゃう! でも、ここで魔王の力を使ったら、スラム街ごと吹き飛んじゃうかもしれないし……!」
『焦る必要はありません、マスター。ここでエターナルを起動するのは、リソースの無駄遣いです。……スラムの皆さん、そこにあるガラクタと、壊れた魔導計器を集めていただけますか?』
スマホの画面から響くミニの声に、スラムの人々は一瞬驚いたが、すぐに「おうよ!」と、山のように積まれたブリキの板や、使い古された魔導バッテリーをかき集めてくれた。
「これだけで、何かできるの?」
『ええ。教会の追跡システムは「最も魔力密度の高い場所」を自動で追跡する、極めてワンパターンなものです。ならば、このガラクタたちを組み合わせて、街中に【ダミーのマスターノイズ】をばら撒いてしまいましょう。適応性を失ったシステムを、ガラクタのバグでハッキングするのです』
ミニが画面に表示した、驚くほど簡単な回路図。
マリはスラムの技術者たちと協力し、わずか数分で、集めたバッテリーとブリキ板、そしてチェルシーから貰ったギアを組み合わせた、即席の『お騒がせ魔力発信機』を十数個作り上げた。
「起動するよ! ぽんぽぽ、お願い!」
「きゅーーーっ!」
ぽんぽぽが、発信機のスイッチを小さな肉球で一斉に叩き押した。
その瞬間、ビビビビビ――!!!と、スラムのあちこちから、マリの魔力と「全く同じ波形」を持った高密度のノイズが発生し、四方八方へとランダムに飛び散っていった。
「な、何だ!? 探索機の針が狂ったぞ!」
「あっちにも、こっちにも、罪人の魔力反応がある! どれが本物だ!?」
スラムに踏み込んだ騎士たちは、手にした機器の針が四方八方で激しく回転し始めたことに大パニックを起こし、あちこちへと右往左往し始めた。
ワンパターンなシステムしか作れないエリートたちにとって、ガラクタから生み出された「予測不可能なノイズ」は、完璧な天敵だった。
「あはは! 大成功だね、ミニ!」
『当然です、マスター。既存のデータにしか頼れない彼らには、この泥臭い臨機応変のイノベーションは理解できません』
人々は口を揃えて笑い合い、マリを安全な地下水路の入り口へと導いてくれた。
追っ手を完璧に撒き、スラムの温かい絆に見送られながら、マリたちはさらに先へと進もうとした、その時だった。
ゴオォォォォォォォ――ッ!!!
突如として、聖都インペリアの中心――あの世界教会の白金の大尖塔の頂点から、夜空を真っ二つに引き裂くような、禍々しい「神の光」が天へと昇り始めた。
それは、これまで見てきたどんな美しい魔法とも異なる、世界のすべての色(生命)を吸い込んで白一色に染め上げる、絶対的なデバッグの光。
地表が激しく揺れ、雲海が渦を巻き、世界の歪み(バグ)を強引に初期化しようとする、破滅の地鳴りが響き渡る。
「……あれは、何……?」
マリの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
『ついに手を伸ばしましたね、教会の上層部。失ったエネルギーの独占権を取り戻すため、世界そのものを初期化する古代兵器――【世界のデバッグプログラム】を起動させました。もしあれが完了すれば、この世界は全ての生命ごと、完全な無へと強制お片付け(初期化)されます』
ミニの波形が、かつてないほどの激しい赤と緑の明滅を繰り返し、世界の終わりを警告する。
「そんなの……絶対に許さない! 私たちが、綺麗にお掃除して、新しい循環を作ってきたのに!」
マリは涙を拭い、天を貫く白い光を、まっすぐに見据えた。
手持ちの資金は八百十円。しかし、彼女の瞳には、世界のバグを絶対に許さない、世界の免疫系としての強い光が宿っていた。
第24話の第1部完結、そして大いなる第2部への移行に向けて、世界をかけた最後の戦いが、ついにその幕を開けた――。
第21話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
教会のワンパターンな防衛システムを、スラムの人々と協力して「ガラクタ魔導ノイズ発生器」で鮮やかにハッキングし、翻弄する爽快なお掃除イノベーション。「強欲なエリートの融通の利かない精密機械を、スラムの知恵とガラクタでスカッと出し抜く」という、なろう読者が直感的に楽しめる最高のエンタメ展開になっております。
しかし、お約束の勝利の直後、世界教会の最高権力者たちがついに禁忌の古代兵器「世界のデバッグプログラム(初期化リセット)」を起動!
世界全体が消滅しかける未曾有のバグを前に、マリとミニは、一体どのような「最大のお掃除」を仕掛けるのか……!? 第24話の第1部完結に向けて、物語のテンポとカタルシスは限界突破で加速していきます!
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




