第2話:普通の少女と、濁った小川
世界のバグを直す最強の「魔王エターナル」から、一瞬で普通の女子高生に戻ってしまった真理。
今回は、彼女が初めて「ただの人間」として異世界の過酷な(?)現実に直面し、世界のSOSを肌で感じる日常&冒険パートのスタートです。
「……いや、本当に元に戻っちゃったよ。どうしようこれ」
ぽつん、と。
誰もいない大樹の広間に、切ない女子高生の声が虚しく響き渡った。
久遠真理――いや、今の姿はどこからどう見ても、現代日本でどこにでもいたごく普通の少女『マリ』である。
先ほどまで世界を平伏させるほどの絶対的なプレッシャーを放っていた漆黒のドレスは、完全に光の粒子となって消滅していた。今の彼女が着ているのは、トラックに跳ねられた時に着ていた、お気に入りのライトグレーのパーカーにジーンズ、そして履き古したスニーカーという、あまりにも異世界に不釣り合いなカジュアル私服だ。
白磁のようだった肌は、テニス部の夏合宿で少し健康的になった健康的な小麦色のままだし、何より、あの夜の深淵を溶かし込んだような神秘的な漆黒のロングヘアは姿を消し、いつもの肩の上でパッツンと切りそろえられた、普通の黒髪ショートカットに戻っている。
「はぁ……」
マリは大きくため息をつき、その場にペタンと座り込んだ。
じっくりと自分の手を見つめてみる。爪は短く切りそろえられていて、魔王の時のように触れるだけで空間を切り裂きそうな鋭さは微塵もない。
試しに、先ほど勇者の火炎魔術を消し去った時のように、白くもなんともない普通の手のひらを目の前の空間にかざしてみる。
「……いでよ、大自然のパワー! ……なーんてね。うん、知ってた。何も出ないわ」
数秒間、虚空に向かって手を突き出し続けたものの、手のひらからビームが出るわけでもなければ、足元の苔が急成長するわけでもない。ただただ、静かな広間で女子高生が一人、恥ずかしいポーズを決めているという、いたたまれない空気だけが流れた。
魔王の時は、頭の中に世界の全ての情報――水の流れや大気の巡りが、まるで最新の3Dマップのように完璧に同期されていた。
しかし、今はそれも綺麗さっぱり消え失せている。
スマホの電波がバリ3から、一気に「圏外」の山奥に落とされたような感覚だ。今自分の頭の中にあるのは、昨日の晩ご飯のメニュー(ハンバーグだった気がする)とか、来週の数学の小テストの範囲とか、異世界では一ミリも役に立たない凡人の記憶だけだった。
(つまり、お片付け案件が発生している時だけ『魔王エターナル』のスペックが私にダウンロードされて、目の前のゴミを掃除し終わったら、即座にログアウトされて一般人に戻されるってことか……)
完全に、成果報酬型の派遣システムである。しかも基本給はゼロ、福利厚生なし。
「せめて、お掃除手当として、異世界の通貨とか、美味しいご飯くらい置いていってよ世界のシステムさん……」
ぐうぅぅぅ。
マリのお腹が、まるでその愚痴に同意するかのように、情けない音を立てて鳴り響いた。
そう、魔王の身体はエネルギーの摂取なんて必要としなかったが、今のマリは、代謝の盛んな十七歳の女子高生なのだ。トラックに跳ねられてから(実質的に)何も食べていない。胃袋が悲鳴を上げるのは当然の義務だった。
「お腹空いたなぁ。マックのポテト食べたい……。いや、贅沢は言わないから、コンビニのおにぎり一個でいいから降ってこないかな……」
上を見上げても、巨木の天井から降ってくるのは、のんびりと舞い落ちる緑の葉っぱだけだ。
当然、ポケットを探っても、中に入っているのは画面の割れた、完全に沈黙しているスマートフォンと、リップクリーム、そして小銭入れ(中身は日本円で八百五十円)だけ。異世界の物価は知らないが、日本の自動販売機すら使えない電子の塊と小銭が役に立たないことくらいは、ラノベ知識がなくとも理解できた。
「……よし、ここにいても餓死するだけだし、とりあえず外に出よう。人間の街を探すんだ」
マリは両手で自分の頬を「パン!」と叩き、気合を入れた。
メソメソしていても始まらない。元々、彼女は逆境にそこまで弱いタイプではなかった。むしろ、お掃除係に任命されたというのなら、まずは自分の命の安全を確保するのが最優先だ。
しかし、立ち上がって広間の出口を見つめたマリは、第二の重大な問題にぶち当たった。
「あれ? 私、さっきどうやってここに来たんだっけ?」
目覚めた時は、最初からあの木の根の玉座に座っていた。
広間の入り口は、先ほど冒険者たちが飛び込んできた大きなアーチ状の隙間があるが、その向こうは、見渡す限りの鬱蒼とした大森林だ。道らしい道なんて一歩も見当たらない。
(普通の女子高生が、装備なしでこんな原生林に突っ込んだら、魔王になる前に普通の野生のクマとかに食べられて終わる気がするんだけど!?)
一気に冷や汗が流れる。
下手に動けば遭難確実。かといって、ここに残れば餓死。どっちを選んでも詰みではないか。
パニックになりかけたマリは、すがるような思いで、先ほどまで座っていた巨木の玉座に近づき、その太い根にそっと手を触れてみた。
「あの……大樹さん? もし私の声が聞こえてるなら、ヒントをください。せめて、安全に森を抜けるルートだけでも教えてもらえると、とっても助かるんですけど……」
藁にもすがる思いの、痛々しい神頼み。
しかし、その瞬間だった。
ツン、と指先から、微かな「振動」が伝わってきた。
「え……?」
頭の中に情報が流れ込んでくるわけではない。
だが、身体の奥深く、先ほどまで「魔王エターナル」だった時の感覚の残り香のようなものが、奇跡的にピクリと反応した。
大樹の根を通じて、森全体の「呼吸」が、ほんの、本当にほんの少しだけ、風の噂のように伝わってきたのだ。
『――あちらに、水の道があります』
そんな風に、大自然が囁いた気がした。
水の道。つまり、川だ。
川を見つければ、それに沿って下流へ向かえば、高確率で人間の集落や街にたどり着くことができる。それは地球のサバイバルでも鉄則の知識だった。
さらに、マリの手が触れている玉座の根元から、ポロリと、何かが転がり落ちてきた。
それは、淡い緑色に発光する、ピンポン玉ほどの大きさの綺麗な「木の実」だった。
「これって……食べていいの?」
クンクンと匂いを嗅いでみると、なんだかマスカットのような、爽やかで甘い香りがする。大樹が「これを食べて元気を出して」と恵んでくれたのかもしれなかった。
マリは意を決して、その木の実を口に放り込み、思い切り噛み砕いた。
「っ……美味しい!」
口いっぱいに広がったのは、極上の果汁だった。ただ甘いだけでなく、まるで高級なエナジードリンクを飲んだかのように、噛んだ瞬間から体中にじわじわと活力がみなぎっていくのがわかる。一瞬でお腹の虫が大人しくなり、疲労感が消し飛んでいった。
「ありがとう、大樹さん! 私、行ってくるね!」
大樹の玉座にペコリとお辞儀をして、マリは冒険者たちが逃げていったアーチ状の出口へと足を踏み出した。
一歩、外へ踏み出す。
「うわあぁ……!」
そこにあったのは、地球のどんな観光地でも見たことがない、圧倒的なスケールの大自然だった。
一本一本の木々が、東京タワーのごとく天高くそびえ立ち、その葉は鮮やかなエメラルドや琥珀色に輝いている。空を見上げれば、地球よりも遥かに巨大に見える美しい月(のような天体)が、真昼だというのにうっすらと白く浮かんでいた。
空気は驚くほど澄んでいて、一回深く呼吸をするたびに、肺の中が細胞レベルで綺麗になっていくような錯覚さえ覚える。
「本当に、異世界に来ちゃったんだなぁ……」
自分の足元を見る。先ほど、エターナルの力で開花させた大輪の花たちが、今も美しいグラデーションを描いて咲き誇っている。その花たちを踏まないように気をつけながら、マリは大樹の根から伝わってきた「感覚」を頼りに、森の奥へと歩き始めた。
野生動物や、凶暴な魔物が出てきたらどうしようという恐怖はあった。
けれど、不思議なことに、森の木々や草むらは、マリが近づくとまるで行く道を譲るかのように、カサカサと自然に避けていくのだった。
マリの姿はただの女子高生に戻っていても、世界の植物たちは、彼女の中に眠る「調律者」としての魂の気配を、ちゃんと覚えているのかもしれなかった。
「これなら、迷わずに進めそうかも!」
少しだけ元気が出てきたマリは、スニーカーの紐を締め直し、軽快な足取りで森を進む。
歩くこと、およそ三十分。
耳を澄ますと、サラサラという心地よい水の流れる音が聞こえてきた。
「あった! 川だ!」
草むらをかき分けると、そこには道幅三メートルほどの、絵に描いたような美しい小川が流れていた。
周囲の木々から木漏れ日が水面に反射し、まるで無数のダイヤモンドを散りばめたようにキラキラと輝いている。川底の丸い石が透き通って見えるほど、水は清らかだった。
「綺麗……。これなら、泳げそうなくらいだね」
マリが川べりにしゃがみ込み、ひんやりとした水に手を浸そうとした、その時だった。
ガサガサッ!!
「ひゃうっ!?」
対岸の草むらが激しく揺れ、マリは思わずお尻を突いて後ろに下がった。
ついに魔物のお出まし(大ピンチ)か!? と身構え、近くの落ちていた木の枝を武器代わりに拾い上げる。
しかし、草むらから転がり出てきたのは、恐ろしい肉食獣などではなかった。
「きゅ、きゅー……!」
それは、体長三十センチほどの、ウサギとタヌキを足して二で割ったような、もこもことした毛並みを持つ小さな生き物だった。
色は綺麗な若草色で、頭のてっぺんには、まるでタンポポのような小さな黄色い花が咲いている。
完全に「癒し系マスコットキャラ」のような見た目をしたその生き物は、マリの姿を見ると、短い足をバタバタとさせながら、必死の形相で川べりを走ってきた。
「な、何? 可愛い……じゃなくて、どうしたの?」
「きゅーっ! きゅいーっ!」
小さな生き物は、マリの足元まで泳ぐ(浅瀬をバシャバシャと渡る)と、マリのジーンズの裾を小さな前足でグイグイと引っ張り始めた。
そして、涙目を浮かべながら、何度も何度も、川の『上流』の方を指差すように頭を振るのだ。
「上流に……何かあるの?」
マリが問いかけると、生き物は「きゅっ!」と短く鳴いて、何度も頷いた。
その必死な態度に、マリの胸の奥で、再びあの「お掃除係」としての直感が微かに疼き始めた。
言葉は通じない。けれど、この小さな生き物が、自分の住処や、この大自然の何かに起きた「重大な異変」を、自分に訴えかけていることだけは、痛いほど伝わってきた。
「わかった。行ってみる。案内して」
「きゅー!」
生き物は嬉しそうに一鳴きすると、短い体でピょんピょんと跳ねながら、川の上流に沿って走り出した。マリもその後を追って、スニーカーを泥だらけにしながら必死に走る。
上流へ向かって歩を進めるにつれて、マリは周囲の空気が、じわじわと「変わっていく」のを肌で感じ取っていた。
先ほどまで、あんなに美味しくて清々しかった森の空気が、だんだんと重く、酸っぱいような、焦げ臭いような、嫌な匂いへと変わっていくのだ。
息をするのが少し息苦しい。喉の奥がチクチクとするような不快感。
「なに、この匂い……。東京の、排気ガスがひどい交差点みたいな……」
さらに、マリを案内していた足元の小生――マリは心の中で『ぽんぽぽ』と命名した――の足取りが、目に見えて重くなっていった。
「ぽんぽぽ、大丈夫?」
「きゅぅ……」
頭のタンポポの花が、心なしか萎れているように見える。
マリが周囲の環境を見渡すと、さらに恐ろしい光景が目に飛び込んできた。
さっきまであんなに青々と茂っていた周囲の草木が、上流に近づくにつれて、どんどん『茶色く』変色していたのだ。まるで、強力な除草剤でも撒かれたかのように、葉がドロドロに溶け、地面に落ちている。
川底の美しい丸石たちも、いつの間にか不気味な「真っ黒いヘドロ」に覆われ、水面には、ギラギラとした虹色の油のような膜が浮き上がっていた。
「嘘……これって……」
マリは愕然として立ち止まった。
さっきまでダイヤモンドのように輝いていた小川は、今や、どす黒く濁り、ポコポコと不気味な泡を立てる「どぶ川」へと変貌していたのだ。
川辺には、数匹の魚たちが腹を上にして、ピクピクと苦しそうにエラを動かしている。
「きゅ、きゅーっ……!」
ぽんぽぽが、悲しそうにその魚たちに寄り添い、涙を流している。
(ひどい……。何が起きたら、こんな短時間で大自然がこんな風になっちゃうの!?)
魔王エターナルの能力がなくても、今のマリにははっきりと理解できた。
これは、自然現象ではない。
文明が、人間が、あるいは何らかの知的な存在が、意図的に、あるいは無責任に垂れ流した『公害(環境破壊)』そのものだ。
その時、マリの胸の奥が、ドクンと激しく脈打った。
(痛い……? ううん、違う。これは、この川の……この森の『悲鳴』だ)
魔王エターナルの完全な能力は消えていても、世界と同期した魂の繋がりまでは消えていなかった。
川が窒息している。土が泣いている。空気が苦しんでいる。
そのSOSが、マリの胸を締め付けるような物理的な痛みとなって、ダイレクトに伝わってくるのだ。
「この上流に、原因があるんだね……」
マリはぎゅっと拳を握りしめた。
普通の女子高生に戻った今の自分には、強力な魔法も、環境を書き換える神の力もない。
あるのは、ただの体一つと、壊れたスマホだけ。
今すぐ逃げて、安全な場所を探すべきなのかもしれない。下手に首を突っ込めば、今度こそ本当に命を落とす危険だってある。
けれど、足元で泣いているぽんぽぽの姿を見て、そして苦しんでいる森の息吹を感じて、マリの心の中の「お掃除係の魂」が、静かに燃え上がった。
「こんな汚れ、見過ごせるわけないじゃん……。私は世界のお片付け係に選ばれたんだから!」
実家の自分の部屋すら、散らかっていると我慢できずに一気にお片付けしてしまう、そんな真理の「片付け魔」としての性分が、ここで完全に火をつけた。
「ぽんぽぽ、魚たちを、少しでも水の綺麗な支流の方へ移してあげて。私は、この汚れの『元凶』を突き止めてくる!」
「きゅっ!」
ぽんぽぽはマリの意図を察したように力強く鳴くと、小さな体で一生懸命、苦しむ魚たちを安全な水域へと押し始め、誘導し始めた。
相棒の頑張りを見届けたマリは、単身、どす黒いヘドロの流れに沿って、さらに上流へと足を進めた。
草木が枯れ果て、不気味な黒い切り株だけが目立つようになった、死のエリアを進んでいく。
匂いはさらに強烈になり、もはや化学薬品の悪臭そのものとなっていた。咳き込みそうになるのをパーカーの袖で押さえながら、斜面を登りきる。
そして、森が開けたその場所で、マリは『それ』を目撃した。
「……え? 何、あれ……ビル?」
森の最上流、崖に囲まれた盆地のような場所に鎮座していたのは、中世ファンタジーの異世界にはおよそ似つかわしくない、巨大な『建造物』だった。
それは、錆びついた鉄と、黒い不気味な石で作られた、まるで要塞のような「工場」だった。
建物の屋根からは、何本もの巨大な煙突が突き出ており、そこからモクモクと、空を濁らせる悪魔のような黒煙が二十四時間体制で吹き出している。
そして工場の最下部にある、巨大な排水口。
そこから、滝のような勢いで、先ほどの小川へとダイレクトに流れ込んでいたのだ。
――あの、どす黒いヘドロと、ギラギラとした化学油の混ざった、最悪の汚染水が。
工場の周囲には、高い鉄柵が張り巡らされ、そこには何やら複雑な魔方陣のような光る文字が刻まれている。さらに、鉄柵の周りを、カシャカシャと機械的な音を立てて巡回する、金属製の『防衛ドローン(自動人形)』の姿も見えた。
(あそこが、すべての原因……。あの工場が、この綺麗な森の血流を詰まらせている、諸悪の根源なんだ……!)
ターゲットを発見した。
しかし、同時に凄まじい絶望感がマリを襲う。
(……いやいや、待って。あんなガチの要塞みたいな工場、どうやって一般人の女子高生が一人で片付けろって言うの!? 警備のロボットみたいなのもいるし、近づいただけでハチの巣にされちゃうよ!)
魔王の姿になれれば、あんな排水口、指先一つで綺麗なミネラルウォーターに変えるか、工場ごと光の粒子に分解してしまえるだろう。
しかし、今の自分は、ただの攻撃力ゼロの一般人だ。
「どうすれば……どうすれば、あの工場を止められるの……?」
マリが崖の陰に隠れ、頭を抱えて悩んでいた、その時だった。
カシャリ。
背後から、冷たい金属の擦れ合う音が響いた。
(え……?)
恐る恐る振り返る。
そこには、いつの間にか鉄柵の敷地内から索敵範囲を広げて巡回していた、全高一・五メートルほどの、鋭い槍を持った『金属製の防衛ドローン』が、その赤いセンサーの瞳を、マリへ真っ直ぐに向けて直立していた。
『――不審な生体反応を感知』
『――警告。これより排除行動に移行します』
ゴゴゴゴ、とドローンの槍の先端が、不気味な赤い魔力の光を帯びてチャージされ始める。
「ちょっと待って! 私はただの通りすがりの女子高生で――!」
弁明の余地はなかった。
ドローンは無慈悲に槍を振り上げ、マリ目掛けて超高速で突進してきた。
「いやぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
死を覚悟し、マリが思わず両手で顔を覆い、叫んだ、その瞬間。
ドクン!!!
世界が、完全に『静止』した。
耳障りなドローンの駆動音が消え、風の音も、工場の不快な稼働音も、すべてがピタリと止まる。
マリが恐る恐る目を開けると、目の前数十センチのところで、槍を振り下ろした状態のドローンが、空間ごと完全に停止していた。
そして、マリの足元から。
あの、夜の闇を織り上げたような、漆黒のドレスの裾が、流れるような光の粒子となって再び這い上がってきた。
手のひらは白磁の美しさを取り戻し、短かった黒髪が、みるみるうちに光を吸い込む神秘的な『漆黒のロングヘア』へと急成長していく。
脳内に、あの懐かしくも絶対的な、世界のシステムのアナウンスが爆音で鳴り響いた。
『――対象エリアの環境汚染レベルが臨界点を突破しました』
『――世界の免疫システムを強制起動します』
『――お掃除案件:【工業暴走都市の排熱炉】を感知』
『――システム、魔王エターナル――ログイン』
「……あ」
声が変わる。世界を統べる、至上の美声。
頭の中に、先ほどとは比較にならないスケールの、広大な「世界の因果のマップ」が凄まじい勢いで流れ込み、同期されていく。
工場の構造、動力源の魔導炉の位置、汚染物質の成分、その全てが、まるで自分の手のひらの上の出来事のように手に取るようにわかってしまう。
マリの心の中の女子高生は、安堵のあまりへたり込みそうになりながらも、一方で確信していた。
(来た……! ピンチになったらちゃんと変身させてくれるんだね、世界のシステムさん!)
ゆっくりと、魔王エターナルは停止していた世界の中で、瞳を開いた。
その瞳は、深紅の輝きを放ち、工場の巨大なエネルギーの歪みを冷徹に見据えている。
「――これより、世界の調律(お片付け)を始める」
世界の静止が解けた瞬間。
襲いかかってきたドローンの槍を受け止めるまでもなく、エターナルの全身から放たれた圧倒的な「理のプレッシャー」だけで、ドローンの金属の身体は一瞬で分子レベルに分解され、綺麗な砂となって大地へと還っていった。
漆黒の魔王エターナルによる、本格的な「文明の歪みの調律」が、今ここに幕を開ける――。
第2話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
普通の少女マリに戻ってしまい、異世界の環境汚染と空腹に苦しむ日常パートから、汚染の臨界点を突破したことで、再び最強の「魔王エターナル」へと強制ログイン(変身)する怒涛の展開、いかがでしたでしょうか?
次回、黒煙を吹き出す巨大な工業要塞を相手に、魔王エターナルの「戦わない優雅なお掃除無双」が本格的に炸裂します! 警備ドローンや工場の防衛システムを、彼女はどうやって『調律』していくのか……?
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




