第19話:聖なる揺り籠の嘘、地下に眠る巨大な負債
前大戦級の激震や都市の墜落を解決してきたマリとミニ、そしてぽんぽぽの一行。ついに世界の心臓部である聖都インペリアへと到達したものの、そこはすべてのエネルギーを周囲から搾取して成り立つ、いつ爆発してもおかしくない「歪んだ温室」でした。
第24話の第1部完結・大団円に向けて、ここから物語は一気に加速していきます!
きらびやかな聖都が隠し持つ「巨大なバグの正体」を暴くため、マリとミニが教会の最深部へと潜入するハラハラドキドキの潜入編をお届けします。緊迫感の中にも、ぽんぽぽとのコミカルな癒やしを散りばめつつ、お掃除前の最高の前振りをじっくりと肉付けしてお送りします。どうぞお楽しみください!
「ちょっと、ぽんぽぽ、大人しくしてて! くすぐったいよぉ!」
聖都インペリアの北側に位置する、巨大な「大聖堂」の裏手。人通りの途絶えた薄暗い路地裏で、マリは身を縮めながら、必死に声を殺して笑うのを堪えていた。
パーカーのフードの中から、ぽんぽぽが外の気配を気にしてソワソワと動き回るたび、そのふさふさした尻尾がマリの首筋を容赦なくくすぐるのだ。
「きゅ、きゅー……」
すまない、というように短い声を漏らして大人しくなったぽんぽぽの頭を、マリはそっと撫でる。
目の前にそびえ立つのは、夜の闇の中でも白く神々しく発光する、世界教会の本山だった。
昼間、マリの思い出のギアを踏みつけにしていった枢機卿の言葉――『すべての富と奇跡は、我ら聖座が管理し、完璧に分配している』という言葉の裏にある不自然さを暴くため、マリは夜の帳が降りるのを待って、この場所にやってきたのだった。
もちろん、手持ちの資金はわずか八百五十円のままである。高級な宿に泊まるお金などあるはずもなく、今夜の寝床を確保するためにも、この街の不穏な「バグ」を早く突き止めなければならなかった。
「ねぇ、ミニ。本当にここから入れるの? 見るからに警備が厳しそうだけど……」
マリは胸のポケットからスマートフォンを取り出し、輝く画面に視線を落とした。画面の中では、エメラルドグリーンの光の波形が、まるで生き物のように滑らかに脈打っている。
『問題ありません、マスター。この世界の教会が使用している魔導防壁のセキュリティコードは、過去の古いデータパターンを延々と使い回している「完全な停滞システム」です。彼らはリスクを回避することばかりを優先し、システムを新しく改善する適応性を持っていません。私にとっては、鍵のかかっていない勝手口に入るようなものです』
ミニの頼もしい声と同時に、スマホの画面に大聖堂の立体的な透視マップが表示された。
そこには、昼間見た華やかな礼拝堂のさらに下――地下数百メートルにわたって広がる、広大な隠された地下空間の構造が、禍々しい赤い光とともに浮かび上がっていた。
『マスター、防壁のパルスを三秒間だけジャミング(妨害)します。その隙に、右側にあるブロンズ製のレリーフの、三番目の薔薇の彫刻を押してください。隠し扉が開きます』
「了解! いくよ、ぽんぽぽ!」
「きゅ!」
ミニのカウントダウンに合わせて、マリが小さな指で薔薇の彫刻を押し込むと、カチリと小気味よい音がした。
一見するとただの頑丈な石壁だった場所が、音もなくスライドし、大人一人がようやく通れるほどの暗い隙間が現れる。マリは素早くその中へと滑り込み、再び壁が閉じるのを待った。
一歩中に入ると、そこは地上のきらびやかさとは完全に隔絶された、冷たく湿った世界だった。
どこか焦げ付いた魔力の臭いと、重苦しい機械の駆動音が、遠く地底の底から響いてくる。
「うわ……。なんか、すごく嫌な匂いがする。グラナードの溶鉱炉の匂いをもっと、こう……ドロドロにした感じ」
マリは鼻をつまみながら、カツン、カツンと大理石の階段を静かに下りていった。
どれほど下っただろうか。やがて視界が大きく開けた。そこは、超巨大な地下空洞だった。
「……何、これ……!?」
マリは驚愕のあまり、言葉を失った。
空洞の中央には、世界中から奪い取られたエネルギーを無理やり一箇所に集めるための、異形な「魔力収束炉」が鎮座していた。海から、大地から、空から吸い上げられた極彩色のマナの奔流が、何千本もの太いパイプを通ってその炉へと強制的に注ぎ込まれている。
しかし、その効率は最悪だった。
パイプのあちこちからは、過負荷に耐えかねたマナがドロドロとした黒いタールのような物質となって漏れ出し、地下の床を汚染していた。地上の華やかさを維持するためだけに、この地下では莫大なエネルギーの無駄遣いと、処理しきれない「負債」が、ゴミのように垂れ流しにされているのだ。
『これが出力の限界です』
ミニの声が、スマホのスピーカーからかつてないほど鋭く響いた。
『彼らは、集めたエネルギーを循環させることなく、ただ自分たちの贅沢(完璧な停滞)のために消費しています。失敗から学ぶ構造を持たないため、パイプが焼き切れるたびに、さらに外の世界からエネルギーを強奪して継ぎ接ぎしているのです。マスター、この炉の臨界まで、あと残り時間がわずかです。もし爆発すれば、中央世界だけでなく、これまでお掃除してきた海も大地も空も、すべて巻き添えになります』
「そんなの、絶対ダメだよ……! チェルシーさんも、エレナさんも、みんなで新しい道を作って頑張ってるのに、こんなところで全部台無しにされるなんて!」
マリの瞳に、強い怒りの炎が宿る。
その時だった。
「誰だ! 不届き者が紛れ込んだか!」
背後の通路から、松明の明かりとともに、数人の聖堂騎士たちが武器を構えて突進してきた。昼間、マリを踏みつけたあの枢機卿の私兵たちだ。彼らは地下の秘密を目撃されたことに血相を変えている。
「ここを見たからには、生かして帰すわけにはいかん! 出会え、曲者だ!」
「あわわっ、見つかっちゃった!」
マリは慌てて後ろに下がろうとしたが、足元はドロドロに漏れ出た魔力タールで滑り、完全に退路を断たれてしまう。
『マスター。言葉による説得の時間は、完全に終了しました。これ以上の現状維持は、世界の崩壊を招くだけです』
ミニの画面が、鮮烈な深紅へと染まり、世界の最高のエラー修復アルゴリズムを起動する。
『――主よ。この大部屋のゴミを、すべて優雅にお片付けいたしましょう』
「うん、そうだね。……世界を壊す悪いバグは、全部お掃除しちゃうから!」
マリはぎゅっと目をつむり、胸の奥底にある「世界の免疫系」のスイッチを叩き起こした。
全身を駆け巡る、絶対的な全能の解放。
ドクン、と心臓が波打つ。
次の瞬間、襲いかかろうとしていた聖堂騎士たちの動きが、まるで時間が凍りついたかのように完全に停止した。いや、停止したのではない。彼らの本能が、目の前に現れた「絶対的な存在」に対する絶対の恐怖によって、思考を強制停止させたのだ。
ライトグレーのパーカーは、瞬く間に光を吸い込む漆黒の法衣へと変貌する。
長い髪が不敵に揺れ、ゆっくりと開かれたその瞳は、深淵の底で燃え盛るような、圧倒的な深紅の輝きを放っていた。
【魔王エターナル】の降臨である。
「相変わらず、人間の作るゴミ箱は醜いですね。これほど非効率な澱みを『奇跡』と呼ぶとは、滑稽の極みです」
凛として、氷のように冷たく、しかし鈴の音のように美しい声が地下空洞全体に響き渡る。
エターナルは、怯えて一歩も動けなくなった騎士たちを一瞥すら模せず、ただ優雅に、ドロドロと燃え盛る巨大な魔力収束炉へと歩みを進めた。
手持ち資金はゼロ、しかし彼女が持つ魔力は無限。
世界の歪みの本丸を前に、魔王エターナルの白く細い指先が、静かに天へと掲げられた――。
第19話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
中央世界編の潜入・驚愕編をお届けいたしました。前回の反省を活かし、地下空洞の禍々しい描写や、マリとぽんぽぽのクスッと笑える日常会話の肉付け、そして物語が終盤(第24話の第1部大団円)へ向けて一気に加速していく緊張感をじっくりと描き込みました。
難しい思想用語を一切出さず、「他から奪ったエネルギーを無駄遣いして、地下にドロドロのゴミを溜め込んでいる最悪のシステム」という、なろう読者の方々が直感的に「これはお片付けされて当然だ!」とスカッとできるエンタメ構造に翻訳しております。
ついに地下最深部で降臨した魔王エターナル。
次回・第20話では、この最悪の収束炉を巡る、教会最高戦力と魔王エターナルの圧倒的な「お片付け(無双)」が幕を開けます!
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




