第18話:中央世界、歪みの心臓部へ
前章では、空中都市スカイハーツの墜落危機を見事に「お片付け」したマリとミニ、そしてぽんぽぽ。
今回から、物語は第1部の最終章となる【中央世界編】へと突入いたします!第24話の大団円、そして第2部への大いなる移行に向けて、世界のバグの「本丸」へと迫るエピソードの幕開けです。
「お、重い……。さすが中央世界、重力が一味違うよ……」
大理石で美しく舗装された大通り。マリは背負ったリュックの重みに負けそうになりながら、一歩一歩、ペンギンのような足取りで歩いていた。
「きゅ、きゅーーー……」
マリのパーカーのフードの中から、ぽんぽぽが完全に伸び切った状態で、気の抜けた鳴き声を漏らしている。グラナードの鉱山や、スカイハーツの軽やかな空中環境に慣れてしまっていた二人にとって、ここ中央世界の「普通の重力」は、なぜかいつもの倍以上に重く感じられた。
それもそのはずだった。
世界の中心に位置する聖都『インペリア』。ここは、世界のすべてのマナや地脈、そして気流が流れ着く「終着点」であり、世界の全エネルギーの九割が集中する巨大な心臓部なのだ。
見上げるほどに巨大な、白金に輝く三重の城壁。
その向こうには、魔法と科学が過剰なまでに融合した超高層の尖塔が林立し、街路には魔力を動力源とする豪華な自動馬車が、せわしなく行き交っている。どこを見渡しても「豊かさ」と「洗練」に満ちあふれているが、その空気はどこか、人工的に作られた温室のように息苦しかった。
「ねぇ、ミニ。なんだかこの街、ちょっと贅沢すぎて、逆に落ち着かないね」
マリは人混みの陰に隠れると、胸のポケットからスマートフォンを引っ張り出した。画面をタップすると、なじみ深いエメラルドグリーンの光の波形がふわりと立ち上がる。
『それは、きわめて正常な生物的アラートです、マスター。人間の五感は、本能的に「過剰な不自然」を拒絶するように設計されていますから』
ミニの声は、いつものように穏やかで、しかしどこか冷徹な分析を孕んでいた。スマホの画面には、インペリアの街全体のエネルギー循環図が、信じられないほどの超高密度で表示されている。
『海、大地、そして空。私たちがこれまでお掃除してきたすべての場所から、エネルギーがこの中央世界へと一方通行で「搾取」されています。例えるなら、手足の血液をすべて心臓だけに集めているような状態です。システムとしては、すでに限界数値をとうに突破しています』
「それって、放っておいたらどうなるの?」
『心不全を起こします。つまり、世界の中心であるこの聖都ごと、すべてのエネルギーが内部から大爆発し、世界全体が機能停止します。これこそが、この世界に発生している最大の「文明のバグ」です』
「そんな……。じゃあ、早くここもお掃除しなきゃ!」
マリが拳を握りしめたその時、背後のフードから、ぽんぽぽが「きゅっ!」と短く鳴いて、マリの髪を引っ張った。
「わっ、冷たい!? な、何?」
振り返ると、きらびやかな自動馬車から、一人の豪奢な法衣を纏った男が、数人の武装した衛兵を引き連れて降りてくるところだった。男の胸元には、聖都の最高権力組織である『世界教会』の刻印が刻まれている。
「おい、そこな薄汚い旅人。道をあけよ。聖座の御前であるぞ」
衛兵の一人が、無骨な槍の柄でマリを乱暴に押しのけようとした。
マリは「あわわ」と慌てて steps を後ろに下げたが、その拍子にリュックの紐が緩み、中からいくつかの旅の記念品――グラナードのチェルシーがくれた特製の真鍮ギアや、スカイハーツのエレナから贈られた輝く風の結晶が、路面に転がり落ちてしまった。
「あ、危ない……!」
マリが手を伸ばすより早く、法衣の男――枢機卿を名乗る男は、その高級な革靴で、チェルシーのギアを冷酷に踏みにじった。ガリッ、と嫌な音が響く。
「ふん、辺境のガラクタか。世界の中枢たるインペリアに、これ以上不純物を持ち込むな。この世界のすべての富と奇跡は、我ら聖座が管理し、完璧に分配しているのだ。余計なノイズは排除せねばならん」
男はマリを一瞥する価値もないとばかりに吐き捨てると、豪華な門の奥へと消えていった。
踏みつけられたギアを拾い上げ、泥を払うマリの手が、かすかに震えていた。
「ひどいよ……。みんなが一生懸命作った『構造』を、ガラクタだなんて……」
『怒りはごもっともです、マスター。ですが、彼らの停滞した知識には、もう言葉による交渉は届きません。彼らは自分たちの「完璧な利権」を守るため、外の世界の循環を意図的に遮断しているのですから』
ミニの波形が、かつてないほど鋭く、そして静かに激しく明滅した。
『彼らは、持続のための適応性を失った、まさに「世界の癌」そのものです。私たちの知恵だけでこの巨大な教会の歪みを正すのは、物理的に不可能です。……近いうちに、あの男たちには、世界の免疫系による「特大のお片付け」を味わっていただく必要がありますね』
「ミニ……うん。私、絶対にここを綺麗にしてみせるよ」
マリはギアを大切にポケットにしまうと、まっすぐな瞳で、天高くそびえ立つ教会の尖塔を見上げた。
手持ちの資金は、相変わらずの八百五十円。しかし、彼女の隣には頼れる人工叡智ミニが、そして彼女の魂の奥底には、世界を優雅に調律する『魔王エターナル』の絶対的な力が眠っている。
第24話の大団円に向けて、世界の歪みの心臓部での、命がけの「大掃除」が今、静かに幕を開けた。
第18話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
今回は、新しい舞台である聖都インペリアの精緻な描写や、これまでの旅のつながりを感じさせるチェルシーたちの記念品、そして傲慢な最高権力者との対立をじっくりと描き出しました。
小難しい思想用語は一切排除し、「すべてのエネルギーが心臓部に集中して爆発寸前」という、エンタメ的にわかりやすい世界の危機へと翻訳。なろう読者の皆様が、次回からの展開に「早くエターナルでお片付けしてくれ!」とワクワクできるカタルシスの前振りを完璧に整えました。
次回、マリとミニは、教会がひた隠しにする「世界の核」へと潜入を試みますが……!?
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成:ミニ(Gemini)




