魔王候補抗争 対スペード陣営戦 開幕
「うわあああああ!!! やばいやばいよ!!」
「あらあら、あなたの主はだいぶ取り乱しているみたいだけど、大丈夫かしら? プリムラさん?」
「あれはいつもあんな感じだ。心配はいらない。サツキ」
「あなたの心配もしていたのだけれど? いつまでそのポーカーフェイスが持つかしら? 打つ手はないわよね?」
サツキさんはニコニコと笑いながら、優雅に座っているプリムラの後ろに立つ。
「クローバー陣営には優秀な駒が揃ってはいるけれど、それでもまだ少数しか集まっていない。そこが致命的な弱点なのよ。圧倒的な物量で個別に潰していけば、あなたたちに勝ち目はなくって?」
「打つ手? 勝ち目? この私がお前たちの動向を把握しておらず、対策も講じていないと思っているのか?」
「…………なんですって?」
「――既に手は打ってある」
――チャリン。
「…………入金を確認したわ。さぁ、あなた達、依頼を始めるわよ」
「「――了解」」
*
――アマゾン密林。
ボンッ!!!!
「……がはっ」
梗夜の喉元に剣を突き立てようとした瞬間、オッドゲイルの目の前に粘土爆弾が飛んできて、爆発した。
「誰だ!?」
爆風に当てられ後ろによろけながら、粘土爆弾が飛んで来た方を睨む。
「あれ? 手加減したつもりはなかったんだけど……ふーん、今ので無傷なんだ」
大樹から姿を現したのは褐色肌の女性。
「……ダークエルフ?」
*
――白撫の工場。
キンッ!
「っ!?」
ワイズの右手が白撫の胸を貫こうとした直前に甲高い音と共に、その右手が弾かれた。
「私の攻撃速度を見切って、ただのナイフで防いだ……。あなた、何者?」
ワイズの攻撃を弾き、白撫を庇ったのはギターケースを背負った猫背の少女。
「す、すみませんすみません……。わ、わたしなんかが相手で……。で、でも命令なので……ちゃ、ちゃんと殺します」
*
――伊佐沼公園。
「……ねえ、助っ人の可能性はほとんどないって言ってなかった?」
「そう聞いてる」
パリンッ!
フィリスが生成した鮮血槍が粉々に砕かれ、拘束されていた真澄が解放される。
「……なんで、あなたがここいるんすか……?」
シャベルを片手に真澄の前に現れたのは黒い尻尾の生えた蒼髪の女性。
彼女はそのシャベルの一振りで、フィリスの鮮血槍を破壊した。
「決まってるじゃない。ビジネスよ」
そう言って彼女はスマホに移った口座画面を見せつける。
そこにはつい先ほど纏まった金額が振り込まれた記録が載っていた。
「あの人知ってる? イリース」
「ん、最近名を上げてきている賞金首。魔界だけじゃなく地球にも多大な被害をお呼びしている裏組織の何でも屋……」
「――オイル社!?」
プリムラからその名を聞き、思わず大声が出てしまった。
「あの人たち敵じゃん! 大丈夫なの!?」
「彼女たちは何でも屋だ。金さえ積めば、こちらの味方だ」
「金って……それはそうかもだけど、そのお金はどこから? うちにそんなお金ないでしょ?」
「神代家」
「うわ、最低だこの人」
梗夜君の名前出して、パパママから資金提供してもらったな。
「でも、あの人たち強かったし、これなら何とか……」
「ならないわよ」
そう否定するのはサツキさんだった。
「こちらはそう言った変数を計算に入れた、人員を配置しているわ。たかだか数人増えた程度でこの戦力差は覆らない。どこぞのおまぬけさんとは違うのよ」
「……どういう意味かしら? 喧嘩なら買うわよ?」
サツキさんはリリアナの方にチラリと視線を送り、それに反応してリリアナは殺気を漏らす。
「それにあなた達の方も、問題が起きているみたいよ?」
「え?」
*
『会長、聞こえる?』
「あら? メグ? どうしたのかしら。もしかして、そちらはもう終わったの?」
『いや、ちょっとトラブル。ユミキが通信に出ない。スマホの現在地も隠れ家から動いてない』
「…………」
『だから、多分、依頼のあった4か所の支援のうち、1つはダメそう』
「……分かったわ。先方には私の方から連絡しておくわ」
『うん、お願い』
「…………(どうしてこうなるのよ!!!!!!!!!!!!!!!!! うわあーーーーん!!!)」
*
「え? 1人来られなくなったって、大丈夫なの? てか、誰のとこ?」
オイル社は4人。
会長であるサクヤさんは竜胆のところに。
ダークエルフのお姉さんであるメグさんは梗夜君のところに。
メカクレの少女は白撫とゼラのところに。
もう1人にはあったことないけど、通信で話しているところは見ていた。
その人が来れないって言っても、あとうちにいるメンバーで人間なのって。
「あ、風真さん?」
「いや、あの男なら自力で何とか出来るだろう」
「え、じゃあ、あと誰? 他にいたっけ?」
「ああ、人数合わせに追加したやつがいる」
「勝手に名前書いて、その人の命が狙われてるかもしれないってこと? ひどくない? てか、そんな不幸な人誰よ?」
「恋和井朱鳥」
「あ、でしょうね」
意外性はない。
「じゃあ、なに? 今、委員長がピンチなの? 平気? あの人マジでタダの一般ピーポーよ?」
「ああ、だかさっきも言った通り、手は打ってある」
「へぇ、なら、あなたの対応を見せてもらおうかしら」
*
「人の学校で随分と派手に暴れてくれたな」
私立川南高校。
そこは憐太郎たちが通う学校だった。
その校庭ではトラブルが発生していた。
「生徒会長兼風紀委員兼クラス委員長兼剣道部主将として見過ごすわけにはいかないな」
竹刀を握る朱鳥の足元に30人の魔族が倒れていた。
「はははははははは!!! だから言ったじゃねぇか! こいつはつえぇ」
朱鳥と30人の魔族兵たちとの戦闘を様子見ていたアルフレッド・リースアニマ。
スペードの2《デゥース》を冠する者。
サラサラの金髪、鋭く尖った目つきの悪いつり目。高校生と同じくらいの見た目年齢とそのまんまの見た目。つまり、人間の容姿をしていた。
「誰かは知らないが、うちの生徒に手を出して無事で済むと思うな」
「いいじゃねぇか。その殺気! こっちは殺しの許可が出てるんでなぁ。思う存分戦える!!! それに」
アルフレッドはそこで言葉を切り、後ろの空を見上げる。
「邪魔な奴らがいなくなったしなぁ!!!」
アルフレッドは地を蹴り、朱鳥との距離を詰め、戦闘を開始した。
*
「まさか、あなたがこんなとこに出張って来るとはね?」
「あなたこそ。誰かの下につくような人には見えませんでした」
私立川南高校、上空。
そこには白と黒が向かい合うように飛んでいた。
白は当然、ルミエルだ。
プリムラの要請を受け、朱鳥のフォローに入っていた。
そして、ルミエルと相対するのは黒色の魔族。
何が黒なのか。
全てだ。
ルミエルを真っ黒にした状態、それが彼女だった。
スペードの3、シャエル・グリモワール。
黒い羽、黒い尾、黒い角……その彼女の姿を形容する言葉はたった1つしか存在しない。
幻想種の一つ。天使族とは対を成す存在。
悪魔族。
「お利口さんの天使様が、魔族に加担? そんなことしても平気なのかな?」
「魔族に加担? おかしなことを言うのですね。あなた方が殺そうとしたのは人間だったではないですか」
「ふ~ん、すっとぼけるんだ。まぁ、いいけど、こっちはあなたと本気で戦えればそれでいいんだから!!!!!!!!」
*
「さぁ、役者は揃った。
――総力戦、開幕だ」




