世界最強の炎使い
「どどど、どうすればいいの!? プリムラ!」
「少し冷静になれ」
「いや、そっちはなんでそんな落ち着いて紅茶飲んでるのさ!」
このままじゃみんなが……!
「あ、でも、メイさんは? メイさんは魔族だから相手は手を出しづらいんじゃない? うまく立ち回って何とか出来たりしない?」
「ふふふ、残念ですけど、あの記憶力しか取り柄のない女は絶対に戦闘に参加しませんよ? 彼女がここにいる限りね」
「え、プリムラが? なんで?」
そう言えば、前にプリムラの弱点がメイさんって話を聞いたことがある。
どういう意味か分からなかったけど、もしかしてそれと関係が?
「まぁ、例え戦闘に参加できたとしても、こちらはクローバー陣営の人間を殺せますが、そちらはスペード陣営の魔族を殺すことが出来ませんからね。時間をかけてゆっくりと潰していけば問題ありません」
た、確かに。明らかにこっちが不利だ。
「どうすんのさ! これ!!!! プリムラ!!!!!!!」
*
――アマゾン密林。
「てめぇら。今すぐ、そこを退けば生かしてやってもいい。こっちは急いでご主人のとこに駆け付けねぇといけねぇんだ」
「君、この状況見えてる? 命の心配をすべきは主ではなく、君自身の方だ」
「雑魚が束になったとこで、雑魚に変わりねぇだろ」
「相手との戦力差を軽視するとは、神代家の人間とは思えないほど短絡的だ」
「あ? 家のことは関係ねぇだろ。燃やすぞ、おっさん」
「相手してあげてもいいよ。……彼らを全員倒せたらだけど」
梗夜の前に30人の魔族兵たちが立ちはだかる。
「じゃあ、とっとと終わらせて、てめぇを灰にしてやるよ!」
そして、梗夜と魔族兵が戦闘を開始する。
「のう、オッドゲイルよ」
「はい、なんでしょう。おばば」
「わしゃ、もう帰ってもいいかのう? 戦場は退屈じゃ」
「刺激が足りないから、ですか?」
「そうじゃ。80年もこの仕事をしておるからのう。戦闘なぞ、るーちーんわーく、のようなものじゃ。つまらなくてしょうがない。相手の力量も一目で見抜ける。あの小僧の魔力は人間であることを考慮しても、少なすぎる。属性もありふれた炎属性じゃ。わしゃがおらぬでも、お主だけで事足ろう?」
「で、あれば、もう少しだけお付き合いを。面白いものが見れますよ。そうですね……これはあなたのお孫さんからのプレゼントだと思ってもらえれば」
「ぷれぜんと? どういう意味じゃ……?」
オッドゲイルの言っている意味が分からず、梗夜から視線を逸らし、首を傾げた瞬間……。
「“高貴なる暁天”」
「!!!」
彼女の真横を梗夜の炎が通り過ぎて行った。
「今のは……!?」
その炎を見たおばばは咄嗟に梗夜の方を見る。
先ほどの魔法だけで一気に10人の魔族をなぎ倒していた。
「…………ほう。これは」
自然と笑みがこぼれた。
それは梗夜が一撃で魔族を倒したからではない。
「透き通るようなオレンジ色の炎。あそこまで純度の高い炎を作れるのは、魔界でもそうそう、いえ、いないでしょう。例え、Iの名を与えられたあなただとしても」
「分かっておる! じゃから、今、最高に血が騒いでいるんじゃないか!!!」
興奮した勢いで杖を握りつぶしてしまったおばばはそのまま梗夜の前に立つ。
「あんた達、下がってな。アタシが出るよ」
「は、はい!」
魔族兵たちに指示を出し、梗夜と1VS.1になる。
「ガチババァじゃねぇか。口調変わってんぞ」
「悪いねぇ。興奮するとどうしても若い頃に心が戻っちまってな」
おばばは黒いコートと共に上着を脱ぎ捨て、上半身は胸に巻いたサラシだけになる。
「興奮ってそう言う意味か!? ババァの裸体に興味なんかねぇぞ!!!」
「安心しろ。こっちだって小僧になど興味はない。ただ、こっちの方があんたの魔法を肌で感じられる」
「やっぱ変態じゃねぇか!!」
梗夜は軽蔑しながら右手に炎を灯しながら、詠唱を開始する。
「“絆を紡ぎ、想いを重ね、信頼はここに。炎を紡ぎ、炎を重ね、情熱はここに――”」
詠唱の途中ではあるが、その時点でもう既に梗夜の魔法の練度は最高クラスに達しており、その情景におばばは見惚れていた。
「“炎の踊りが奏でる戦慄を聞き、燃え盛る炎に心を託そう。繋ぎ、重ね、秘めて、共に燃え上がる絆の炎が未来を照らし、勇気を与える力となる――――”」
梗夜の発した魔法は段々と空に昇っていき、そして、竜の形へと変容していく。
「おお!!! 最高だ!!! ここまでとは! こい! あんたの全力をアタシに見せてみろ!」
「“炎龍の誓約!”」
天まで舞い上がった龍はおばばをめがけて急降下する。
「これで一発K.O.だぁ!!!!!!」
「いいね。受けてたとう!」
ドンッ!っと地面がめり込むほどの踏み込みと共に、おばばは炎龍に向かって飛び上がる。
「見せてあげる! 世界最強の炎使いの力を!!!」
「なん、だと……?」
炎を右手に宿した状態で、おばばは炎龍を殴り飛ばした。
「……なっ!」
魔法がぶつかった瞬間に激しい衝撃が遅い、アマゾン密林の木々がほとんどなぎ倒されてしまった。
そして、梗夜が出した龍もまた霧散してしまった。
「んだ、あいつ、ただのババァじゃねぇのか?」
「そう言えば、紹介がまだだったね?」
驚きを隠せなかった梗夜の前にオッドゲイルが現れる。
「彼女の名はルイズ・I・ヴァリエル・セレスティアナイト。スペードのAにして、先代の魔女王。君の身近なところで、説明するなら、メイって人の祖母に当たる方だ」
「ババァのババァってわけか」
「どうしたどうした! もう終わりか? 小僧!」
「やってやるよ! てめぇがどこの誰であってもババァなんかに負けっかよ!」
そして……。
「はぁ……はぁ……」
「惜しいのう。その力、磨けばまだ光っただろうに」
十分にも満たない戦闘が終了する。
敗北した梗夜はその場に倒れ、ルイズは元の喋り方に戻っていた。
「仕方ないですよ。これはボスの命令ですから」
オッドゲイルは腰の剣を抜き、梗夜の首筋に立てる。
「安らかに眠ると言い。天才よ」
そう言い残し、オッドゲイルは梗夜の首めがけて、切先を振り下ろした。
――伊佐沼公園。
そこでは真澄が1人でスペードの魔族兵たちを相手に奮闘していた。
そして、その様子を上空から2人の魔族が静観していた。
「へぇ、あの子粘るねぇ。もしかして、不死持ち?」
「そう聞いてる。頭の上にある星の円環がある限りは死なないって」
「条件付きか~。でも、時間をかければ余裕でしょ?」
「どうだろう。貰ったデータだと、彼女の体力は人間離れした数値をしてる。1週間不眠状態で戦闘を続けられるだけの体力はあるみたい」
「え、あんな可愛い顔して、中身体力バカなの? 魔族でもそんなこと出来ないし、そもそもやろうとする人なんかいないわよ」
「ん、だから、このままフィリスの眷属たちだけで戦い続けても、倒せるのは1週間後になると思う」
スペードの10である吸血鬼の少女の名はフィリス・ロード。
金と銀が混じった白金色のくせっ毛。鮮血のように紅い瞳と、開いた口から覗く八重歯。背にはコウモリのような黒い羽。
黒いコートは肩までかけず袖に通した状態で着崩しており、下には白いワイシャツとピンクのネクタイが見える。
眷属とは吸血鬼が血の契約によって隷属させた者のことを指す。
吸血鬼の眷属となったものはその能力の一部を分け与えられる。
そのうちの1つが不死である。
真澄が戦っている魔族兵たちは全員フィリスの眷属であり、不死を持っている。
そのため、どれだけ攻撃しても彼らは立ち上がってくるのだ。
だが、不死という点では真澄も同じである。
これはどちらが先に音を上げるか、そういう戦いであった。
「1週間!? そんなに待ってられないよ!」
「ん。じゃ、どうする?」
やたらと声を荒げるフィリスに対し、常に静かな口調で返すのは、スペードの4《ケイト》であるイーリス・テスタロッサ。
緋色に染まった長い髪。ウェーブがかかっており纏まりの髪だが、左右には小さなお団子が作られていた。
腰の下あたりには細長く黒い尻尾がゆらゆらと静かに揺れている。
「決まってるじゃん。私が直接、相手するよ!」
ズドン。
フィリスは空中から急降下して、土煙を上げながら真澄の前に立ちふさがる。
「あぁ、強そうなのが出てきたっすね」
真澄は頬から流れる血を拭いながら、ジュワユーズを構えなおす。
「先手必勝!」
地を蹴り真正面から斬りかかる。
「死なない相手との戦い方はよく知ってるの」
しかし、ジュワユーズがフィリスを捉える前に、上空から赤黒い槍が雨のように真澄を襲った。
「……がはっ!」
無数の槍が真澄の体を貫通し、身動きを封じる。
「だって、私も不死だから」
フィリスは真澄に近寄り、頬を撫でる。
「これは……血?」
「うん。私の血で作った槍。もう、逃げられないよ。どうする? 私の眷属になるなら生かしてあげるけど?」
「……悪いっすね、その誘いには乗れない。生き方を縛られるなら、それはもう死んでるのと同じだから」
「しょうがないね。じゃあ、このまま死ぬまで殺してあげる」
*
――白撫の工場内。
「さぁ、ボスの命令だ。あなたにはここで死んでもらう」
スペードの8、ヴィザ・オルフィス。
細身で若いドワーフの自称エンジニア。
サイズが少し大きい丸メガネをかけており、白衣もサイズが合っておらず、両手は袖に隠れ、裾は地面を引きずっており、少しだけ土がついていた。
見た目のサイズ感から小学生男子にしか見えないが、実年齢は25歳。
しかも、工場内にあった白撫の兵器を単独で全て破壊し、瓦礫の山を作っていた。
その光景を目の当たりにしていた白撫たちからすれば、彼の見た目など今更関係なかった。
「に、逃げなきゃ……!」
戦うすべを持たないゼラは傷つき倒れた白撫を抱えて、工場の外へと出ようとした。
「……逃がすわけ、ない」
「!?」
しかし、一瞬にしてスケルトンの女性がゼラの前に立ちふさがり、行く手を阻む。
「は、速い……!」
彼女の名はワイズ・メタファー。スペードの9を冠す者。
身長150センチほどの女性型スケルトン。
全身骨だけのため、一般人には個体の見分けなどつかない。
ただ、黒コートの上からのぞく彼女の鎖骨には藍色のリングがはめられていた。
「ゼラニウム様。あなただけは傷つけてはいけないと言われている。その子を渡して」
「そ、そんなの、で、出来るわけ……」
「なんじゃ、そんな簡単な話じゃったか」
ゼラの言葉を遮り、白撫は抱きかかえていた彼女の手を振りほどいて、突き飛ばした。
「お主は逃げてよいそうじゃ」
「……ダメッ……!」
「……いい覚悟。それに免じて、苦しまないように……」
ワイズの右手の骨が変形し、鋭い刃物になる。
「……殺してあげる」
そして、一気に間合いを詰めた彼女はその右手を白撫の心臓目掛けて、突き刺す。




