先代魔女王
「来てはいけないと言われたが、ご主人の右腕である俺がついてこないわけにはいかねぇよな」
憐太郎に見つからないように後をつけていた梗夜は、アマゾンの居城のすぐ傍までやってきていた。
「何かあってもすぐ駆け付けられるようにしねぇと」
「いや、君は自分の心配をした方がいい」
「!?」
突如として背後から声をかけられ、梗夜は咄嗟に振り返りながら距離をおく。
「誰だ、てめぇ」
「スペードのJ、オッドゲイルと言えばわかるかい?」
白髪の頭に青い瞳を持つ、中年男性がそこにはいた。
「知らねぇよ、バーカ」
「いや~僕もいい大人だからさ、そんな煽り程度でいちいち突っかかったりしないわけよ」
「はっ! 敵を目の前にして何ねむてぇこと言ってんだ。やる気がねぇならとっとと消えろ」
「そう言うつもりで言ったわけじゃぁないんだけど。ただね。油断だけはしない方がいい。ここには俺一人だけじゃないからさ」
オッドゲイルがそう言うと、彼の後ろから新たな人影が姿を現す。
「まったく、最近の若いもんは年寄りをこき使いおるのう」
顔が皺だらけの小さな老婆が杖をついて前に出てきた。
「申し訳ございません。おばば。ボスの作戦ですので」
「あ? ガチババァ? 舐めてんのか?」
「舐めてはないさ。それに他にもまだ」
「!」
梗夜が周囲を見渡すと、いつの間にかスペードの配下たちに囲まれていた。
「さ、仕事を始めましょう」
*
――伊佐沼。
ここは川越にある1300メートルほどの沼であり、そのすぐ横にはフィールドアスレチックや広場などを擁する公園が設置されている。
休日には家族連れが多く集まる、外周2.4キロほどの大きな公園だ。
「日課の早朝パトロールに出てただけなのに、どうしてこんなことになるんすかね!」
そして、その公園には真澄の姿があった。
「おい! そっちに行ったぞ! 逃がすな!」
そんな真澄と相対するのは無数の魔族たちだった。
「ああ、もうキリがないっすね!」
ジュワユーズでなぎ倒していく真澄だったが、敵の数が一向に減らない。
「こいつら不死身なんすか!?」
敵の数は増えてはいない。
だが、彼らは倒しても倒しても起き上がってくるため、数が減ることもない。
「きゃははは! これ、うちの子たちだけで平気じゃない? 川越にめっちゃオシャレなスタバあるんだって。寄ってかない?」
伊佐沼上空には真澄の戦闘を伺う2つの影があった。
1人は赤い瞳に鋭い牙を持ったヴァンパイアの少女。
背中に生やした黒い羽で空を飛んでいる。
「ん、油断はよくない。ボスが言ってた」
もう1人も見た目はほとんど人間と大差ない少女。
ただ1点だけ人間と違うのは、尾てい骨から伸びる黒く細長い尻尾だ。
「もう、分かってるわよ。ボスの命令通り、ここで確実に殺すわ」
「ん、その後、一緒にスタバ行こ」
*
――白撫の工場。
「し、白撫ちゃん! しっかりして!」
「これは、参ったのう……」
白撫は額から血を流し、白衣が真っ赤に染まっていた。
そんな白撫を抱きかかえながら、ゼラは泣き叫んでいた。
「はぁ、残念です。人類最高の頭脳と評されるあなたがこの程度とは。同じ技術者として失望しました」
白撫が作った数々の兵器の残骸の山に立つドワーフの青年が眼鏡をくいっと上げる。
ドワーフらしく身長が低く白撫と同じくらいの背丈だが、彼には一切の髭は生えてなく、体つきも一般的なドワーフより細身だ。
また、他のスペードのメンバー達が羽織っている黒いコートの代わりに白衣を羽織っていた。
「技術者って……先輩は作るより壊す方が得意じゃん」
ボソボソと喋りながらツッコミを入れたのはスケルトンの女性。
全身白骨体の彼女が動くたびに骨同士がぶつかり合いカタカタと音が鳴る。
「コラ! 助手の分際でなんてことを言うんだ!」
「別に先輩の助手になった覚えないけど」
何やら2人が言い争いをしているようだが、ゼラはそれに構っている暇などなかった。
「し、白撫ちゃん。ど、どうしよう……」
「どうもこうもなかろう。……インペリアルドラグーンは先の戦いで破損し修理は終わっておらぬ、使用可能な武器は全て破壊されてしもうた」
「そ、それって……」
「打つ手なしじゃ」
*
「オレに慢心はない。油断もない。過信もない。侮りもしない。だから、だからこそ、お前たちクローバーの幹部には1人につき、うちの幹部2人と補欠を30人つけて強襲をかけた。万に一つ生き残る可能性などない」
「っく!」
「さぁ、最初の脱落者は貴様らだ。クローバーの魔王候補」




