ダイヤの魔王候補
日本から西南西約15,000キロメートル。南アメリカ北部に位置するアマゾン密林の最深部。
僕はプリムラと共にそのジャングルの中へとやってきていた。
「ねぇ~ぇ……ホントに大丈夫なの? 死なない? ここって地球で最も危険な場所なんでしょ? アリですら危険って言うじゃん」
「ここに来る時に、何度も説明しただろう。そこに関しては平気だ」
「でもでも、やっぱり他のみんなも連れてくるべきだったって。ジャングルのヤバさが平気でも、他の魔王候補たちもここに集まってくるんでしょ? 絶対よくないって」
ティーパーティーの招待状とは、地球にある魔族領内で魔王候補の4人が一堂に会する茶会の誘いだった。
そこで魔王選定戦の詳しい内容が発表されるのだという。
招待されたのは魔王候補。そして、同席可能なのはQのみ。
とは言え、みんながそれを守る保証もなく、魔王選定戦の内容によってはその場で殺される可能性だってある。
プリムラだけじゃ不安だ。
プリムラが負けるとは思わないけど、我が子を千尋の谷に落とす、みたいなことするタイプだし。僕が死にそうになっても平気で傍観してそう。
「さぁ、着いたぞ」
「ねぇ、無視しないで。僕の話を……って、なにこれ!?」
目の前に広がっていたのは、直径1キロはある巨大な大穴だった。
もちろん、そこは見えない真っ暗闇だ。
「地球と魔界を繋ぐ狭間、『深淵の境界線』だ」
「は、初めて見た」
ここから飛び降りれば、魔界に行けるんだ。
…………それ、死なない?
って、思ったけど、よく見たら、穴の側面に沿って階段が連なっていた。
あそこから降りれるようになってるんだ。
「ん? ちょっと待って。魔界に行くの? 聞いてないんだけど?」
「はぁ~、お前、招待状を読んでないのか?」
プリムラに呆れられたんだが。呆れられたんだが!?
「読んでるわけないじゃん! 僕行かないって言ったのに! 無理やり連れてきたのプリムラだったじゃん!」
「私たちが招待されたのは『深淵の境界線』のすぐ隣に見えるあの居城だ」
「都合が悪くなったら話を逸らすのやめない? ねぇ、やめない?」
僕の話など無視して、プリムラはその居城に向かってどんどん進んでいく。
こんなところで1人で放置されたくないので、僕はプリムラの後を追う。
「クローバーのK、唯野憐太郎とクローバーのQ、プリムラだ」
居城の扉の前には3メートルを超える全身甲冑に身を包んだ2人の兵士が戦斧を片手に立っていた。
その2人に見えるようにプリムラはティーパーティーの招待状を掲げた。
すると鋼鉄の扉がひとりでに開き始め、僕とプリムラは居城の中へと入っていく。
「何あの人たち。めっちゃデカかったんだけど。巨人族とか?」
「巨人族があんなに小さいわけないだろう」
「え? じゃあ、さっきの人たちは?」
「『リビングメイル』だ。聞いたことはあるだろう?」
「ああ、それなら知ってる。中に人が入ってないのに勝手に動く鎧のモンスターでしょ。ゲームとかで見る。って、あれって実在したんだ」
「はぁ、魔界に関する知識が乏しいな。魔王になる者として、致命的だ。帰ったら、みっちりコンサルティングをする必要があるな」
「だから、魔王にならないから! 勉強もいらないって!」
「あれ? 君は魔王にならないの?」
「うお、え、誰?」
急に話しかけられて振り返ったら、その窓の外には見知らぬ女性が飛んでいた。
飛んでいた。それはそのままの意味だ。
跳んだ、ではなく、浮いている、でもない。
空に羽ばたき飛んでいるのだ。
そう、その女性は人間ではなかった。
両手が腕は鳥の羽、足は鳥の足、それ以外の部分は人間とほぼ同じ。
彼女を表すのに最適な言葉があるとすれば、
「ハーピィだ」
「よっと!」
ハーピィの女性は滑空しながら、窓から中に入ってくる。
そして、僕の目の前に降り立った瞬間に赤と黄色のグラデーションで彩られた派手な羽が舞い落ちる。
髪の両サイドにも2本の羽があるけど、あれはアクセサリーなのか、それとも本物の羽なのだろうか。
「どう? 今のアタイの登場っぷりは目立ってた? 目立ってたよね!」
なんだろう。この人、すごいアホっぽい。ポンコツ臭がする。それと同時に僕の危機感知能力がビンビンに反応した。
この人と関わるとろくなことにはならない。
「ライバルが減ってくれるのはいいんだけど。どうせなら、もっとアタイを輝かせてくれてからにしてほしいな!」
ライバル……ティーパーティー……このタイミング居城にやって来た……なるほど、つまりこの人は。
「もしかして、魔王候補?」
「え!?!!!? その反応、もしかしなくてもアタイのこと知らない!!!!!?????!?!?!?」
「え、あ、はい」
すげぇ驚かれたんだけど。この人、そんなに有名人なの?
「しょうがないなぁ~。それじゃ、初見さんのために自己紹介したげる。アタイの名前はシャーリィ・ククルン! 魔界でアタイのことを知らない人なんていないって程の有名人! アイドルであり! 女優であり! 歌手であり! モデルであり! アナウンサーであり! ユーツーバーであり! チックトッカーであり! ダイヤの魔王候補だよ!」
肩書の羅列がすごい。どっかの委員長みたい。
で、ホント? と言った目でプリムラを見ると、ゆっくりと首を横に振っていた。
なるほど、自称か。よくいるんだよ、自称連中。
「オッケー初めまして。魔界のコメディアン」
「お笑い芸人じゃないわよ! 失礼ね!!!」
「お、ツッコみいいじゃん。うちさ、ボケ多くてツッコみ足らないんだよね。どう? やってみない?」
「やらないわよ! アタイは人に笑われる仕事してないの! アタイは人を笑顔にする仕事をしているの!」
「おお、これが魔界のコメディアンソウル」
「もう! 怒ったんだからね! 君は絶対アタイが潰すんだから!」
そして、シャーリィはそのままぷんすか怒ったまま、先へと行ってしまった。
「なんだったんだ今の。ここで飼ってるペットみたいなもの?」
「何を言っている。彼女がさっき言っていただろう。――ダイヤの魔王候補だと」
「…………は?」
聞き間違えじゃなきゃ、とんでもないこと言わなかった?
「だから、彼女はダイヤの魔王候補だ」
「いや、だって、さっきあれは全部自称だって」
「全部とは言っていない。ほとんどは彼女が勝手に言ってるだけだ」
「じゃ、じゃあ……」
「魔王候補というのは本当だ」
「あ、あ、あ……」
「まさか、初対面の魔王候補相手にいきなり勧誘を仕掛けるなんて中々やり手になったものだ」
「ち、違う! あれは違うから! 誤解だあああああああ!!!」
そして、さらに最悪なことに、
「憐太郎……? 今の、どういうこと?」
「なっ! リリアナ!」
シャーリィと入れ替えでやって来たのはハートの魔王候補であるリリアナとそのQであるシスティだった。
「そんな……私という者がありながら、あんな女に手を出そうとするなんて……もしかして、これが…………浮気!?」
「違う違う違う違う。そもそも付き合ってない。僕と君との間には他人以上の距離があるから!」
「あ~~~~~らららららららららら???? これはよろしくないんじゃないでしょうか? 浮気はよくないですねぇ? リリアナ様、こんなクズ男とはすぐに分かれましょう。いえ、墓の下に埋めましょう。あ、その前に、慰謝料を取らないとですね。腕のいい弁護士には心当たりがあります。大丈夫です。白でも黒くしてくれます」
ここぞとばかりにシスティさんがめっちゃ喋る。てか、僕の方をチラチラと見ながら煽ってくる。
どうやら、リリアナが僕と結婚しようとしているのをずっと止めたかったみたいだ。
それには賛成だし、なんなら協力したいけど、あそこまでボコボコに罵られると流石に泣く。
「決めたわ! 私が魔王になって、あなたを魔王城に縛り付けるわ。そしたら、きっともう浮気なんてしないでしょ? ね? ずっと、ずっと、私と一緒にいるの。それがきっとあなたにとって一番幸せなのだから。私が幸せにするわ。任せて。全部。何もしなくていいよ? あなたは傍にいてくれるだけでいいの。他は全部私がするから。だから、ね? ずっと私だけを見ていて」
こっっっっわ。こんなんだったっけ? もっと好戦的な感じだったけど、方向性がちょっとズレただけでこんなヤンデレみたくなっちゃうの?
リリアナもぷんすか怒りながら先へと行ってしまった。そして、その後をシスティさんが嬉しそうにこちらを振り返りながら、リリアナの後をついて行った。
「ハートとは同盟が組めそうだったが、これは別プランを用意した方が良さそうだ」
「僕のせいだと思ってる?」
「憐太郎が大人しくリリアナと結婚しとけばよかったと思っている」
「なんでさ!」
「後悔してももう遅い。2つの勢力の標的にされたんだ。選定戦のルールによってはあっさり死ぬ可能性が出てくるかもしれないな」
「不穏なフラグ立てないで!」
「残るはスペードだな。こちら側についてくれれば2VS.2になるんだがな」
魔王候補に選ばれるのは癖の強い人ばかりだし、どうせ無理なんだろうな。
話が通じる人、じゃなくて魔族な感じしないもん。




