Vtuber事務所開業作戦開始!
「キャラの設定資料は?」
「それはこれからです」
「ワタシが自由にやって構わないか?」
「問題ないようでしたら、お任せします」
「朱鳥、イメージボードとカラーパレットが出来たキャラからどんどん送ってほしいの。時間がかなりシビアじゃからのう」
「ああ、聞いている。3日だそうだな。これは中々――」
「――燃えるじゃろ?」
委員長と白撫は2人でグッと腕を組みながらニヤニヤ笑っていた。
この状況を楽しんでいた。
「頼もしい限りです」
その一歩引いたところでルミエルさんが2人を優し気な表情で眺めていた。
どうやら、池袋の病院で2人は会っていたみたいだが、委員長の方はよく覚えておらず、ルミエルさんの方はそれどころではないので、池袋のことに関しては完全にスルーし、すぐさまVtuber作製プロジェクトに着手し始めた。
「これ、1人分作るだけでも相当大変そうだけど」
ちらっと作業表を見たが、設定資料やキャラデザはもちろん、そのキャラに使われている各部位の色彩情報をまとめたカラーパレットに、キャラのパーツや仕様などが記載されるモデルデザインシート。ここまで来てやっと下準備といったところなのだ。これだけでも一日はかかりそうな気はするけど。
とは言え、心配したところで僕に出来ることはないので、彼女たちを放置し、自室に戻って寝ることにした。
もう遅い時間だしね。
「……レン。……レン」
と、部屋の前でゼラに小さい声で呼び止められた。
「なに?」
「今送ったから見て」
「?」
スマホにゼラから画像付きのメッセージが送られてきた。
そこには一枚のイラストがあった。
「これは……ゼラが書いたやつ?」
「う、うん……」
ゼラは恥ずかしそうに俯きながら、頷いた。
「…………」
そのイラストはお世辞にも上手いと呼べるものではなかった。
とは言え、荒唐無稽な絵と言うわけでもない。
エージェントの女性が黒手袋を左手にはめようとしている。と言ったことは読み取れる。
いや、下手と言いたいわけではない。
下手ではない。ただ、上手いわけでもない。
そう普通と言った感じだ。
一般的な女子高生が書いたらこんなになるだろうなくらいの。そんな平凡な絵。
「で、急に送ってきて、どうしたんだ?」
「い、今さぁ、……あ、あの人が、いらっしゃっているんでしょ?」
「あの人? あぁ、委員長のこと?」
「!!」
ゼラは赤面しながらすごい勢いで首を縦に振る。
委員長はネットで有名な神絵師だ。憧れからゼラがこんな反応になるのは分かる。
「もしかして、これを委員長に見せて来いってこと?」
「……えっと、その……余力があればといいますか……べ、別にいつでもいいので……見てご教授いただければと……」
「そうか、分かった。今すぐ見せてくる」
「え? いいの?」
誰とも話せなかったゼラがここに来て初めて人と関わりたいと自分から動き、僕に頼んできたんだ。
なら、それを断る理由はない。
すぐさま、僕はゼラのイラストを委員長のところへ持っていく。
「委員長、ちょっと見せたいものがあるんだけど」
「見ての通り忙しいんだが?」
「すごくいいイラストがあるんですが?」
「はやく、こっちに来ないか!」
委員長は僕を無理やり掴んで作業机に座らせる。
「それで、これが見せたいイラストか」
委員長にスマホを渡し、ゼラのイラストを画面に表示させる。
「……これを書いたのは?」
「うちの居候だよ。今は部屋で委員長の感想をびくびくしながら待ってる」
「部屋番号は?」
「へ?」
「すぐに行く」
そして、僕から部屋番号を聞き出した委員長は、作業をほっぽり出して足早にゼラの元へと向かうのだった。
バンッ!!!
「ひっ!!!!」
委員長はノックもせず、ゼラの部屋を勢いよく開け、押し入る。
「ななななななななな、なに!?!?!」
ベッドに寝ころんでいたゼラは飛び起きる。
「このイラストを描いたのは君か?」
委員長は僕から奪い取ったスマホの画面をゼラに見せる。
「す、すすすすみません……こんな下手くそな絵をお見せしてしまい。そうですよね文句を言いに来たんですよね。低俗な絵でお目汚ししましたすみません。もう二度と絵は描かないのでお許し下さい」
委員長に怒られると思ったのか、ゼラは土下座しながら、ボソボソと早口でなにやら謝っていた。
「確かに技術の拙い絵ではある」
「うっ!」
被害妄想と実際に言われるのは精神的に受けるダメージは違う。
ゼラは涙目になりながら、その場にうずくまる。
「委員長? やめたげて。それ以上はゼラのメンタルが持たない」
「ゼラと言ったな。印象に残る絵を描くのに最も必要なものはなんだ?」
「…………さ、才能?」
「違う」
「センス?」
「違う」
「え、と、ど、努力?」
「違う」
「も、もう、わ、分かんないです……」
「描く上で最も必要なもの、それは――
――――性癖だよ」
「え? せ、性癖……?」
「いいか? 小手先の技術をいくら磨いたところで、この時代、AIが描いた絵にすら勝てない。むしろ、AIに手伝ってもらう人もいるだろう。そんな中でただ上手いだけの絵など誰の心にも残らない。なら、どこで差をつけるべきか」
「それが、性癖」
「そうだ。そして、」
委員長はゼラの描いたイラストの手の部分を拡大させる。
「君はそれを表現できている」
「わ、分かるんですか!?」
「右手の手首のスジ、左手の甲にある骨と血管の描き込み。他のパーツと比べ明らかに手の入れ具合が違う」
「そ、そうなんですよ。そこだけはこだわってて。でも、そのせいで他がちょっとあれですけど……」
「ん? なんだ、無自覚でやっていたのか?」
「な、何がです?」
「キャラの顔、足や首、体全てが、その手を魅せる描き方がされている。このイラストを見たとき、一番最初にこの手へ視線が行くように、そして、記憶に残るように描かれている」
「確かにキャラの顔より、最初に手に目が行ったかも。胸とかお尻、太ももが印象的な絵があるけど、それと同じ感じ?」
「ああ、それが性癖を表現するということだ」
「……私は友達もいないし……まともに喋れないし……引きこもりだし……長所なんてないし…………そんな私でも……絵を、描いててもいいの?」
「ああ、君は――
――――君は神絵師になれる」
「うっ……あああああああああああああああ!」
ゼラは胸を抑えながらその場にうずくまり、大声で泣き叫ぶ。
よかったね、ゼラ。委員長に認められて。
でもさ、
ナニコレ?
作品の方向性変えた? 大丈夫? マルチジャンルにもほどがあるよ?
「Vtuberのキャラデザ、1人分やってみるか? もちろん、私も手伝う」
「っ! は、はい! 師匠!」
ま、別にいいか。
こっちに来て、ゼラがやっと僕以外の人と話せるようになったんだから。
ちなみに、Vtuber事務所開業作戦の顛末について、
委員長たちは予定通り3日で3人分のVtuberモデルを完成させた。
ただ、そこまではよかったのだが、事務所として起業するにあたって必要な手続きがいくつかあり、その辺の申請に時間がかかってしまったため、結局、今回の炎上騒ぎの火消しにこのVtuber事務所開業作戦は使えなかった。
でも、開業する方向ではあったので、クロネはその予定があるとだけ配信で伝え、一旦はクロネの炎上は静まった。
なお、この後、風真さんがボイチェンを使ってデビューした美少女Vtuberが人気を博し、クロネとの2枚看板になるのだが、それはまた別の話。




