闇と甘い誘惑の世界へようこそ
「もうすぐ復活配信だね!!」
そして、部屋を追い出されてすぐゼラに捕まり一緒にルミエルさんの配信を見ることになった。
配信開始時間になり、モニターに黒百合クロネが映し出される。
黒をベースにピンクのインナーカラーが入った長い髪をツインテールにしている悪魔っぽい見た目の女の子。
というより、悪魔のコスプレをしている女子高生と言った方がイメージが近いだろう。
僕が見ているのはASMR配信だが、他にもゲーム実況、雑談配信、お歌配信などその活動内容は様々。
世界的に人気であり、チャンネル登録者は個人勢Vtuberの中でトップだ。
人気な理由はいくつかあるが、その中でも特に彼女の魅力を上げるとしたら、甘やかし上手なところだ。
普段の配信では口が悪く毒を吐きまくる彼女だが、ASMR配信になると一転、急に母性を解放させ、全人類を幼児退行させる。
そのため、彼女の配信開始時には例外なく、「ばぶー」と彼女の赤ちゃんたちがコメント欄を埋め尽くす。
もちろん、僕とゼラもちゃんと書き込む。
『こんにちは、契約者たち。闇と甘い誘惑の世界へようこそ。小悪魔系ライバー黒百合クロネよ』
配信が開始し、クロネはいつもの挨拶から入る。
契約者とは黒百合クロネの動画を見ている視聴者たちを指す総称である。
『今まで何してたの? 引退したと思った? 彼氏? ね。少し配信休んだからって深読みしすぎ。そんなんだから契約者たちには恋人出来ないんだよ』
「うん、クロネちゃんがいてくれたら、うち彼氏いらない!」
『配信機材の入れ替えに手間取って、しばらくの間配信できなかっただけだから。大規模侵攻? 関係ないない。ただの偶然だから。ホント、オタク君の妄想力キモすぎ』
これ、あのルミエルさんが喋ってるんだよね。
脳がバグりそう。
『じゃあ、今日はクロネが配信してなかった間に発売された新作ゲームをやっていくね』
どうやら今まで配信できなかったのは機材が揃わなかったから、他には何もなかった、と言うことで話を突き通すつもりらしい。
ほんの少数だけど、まだ配信していなかった期間について納得いっていない視聴者のコメントがちらほらと見えるが、クロネは無視するようだ。
「あ、これこの前、ゼラが買ってたゲームじゃん」
「うん。で、レンを遊びに誘おうとしたら、プリムラさんとイチャイチャしてた」
「え、何の話?」
ゼラは持ち出してきた話は、俺がリリアナと戦い、その疲労で自室のベッドで動けなくなっていた時、プリムラと会話しているところらしい。
イチャイチャしていた記憶が全くない。
「絶対に誤解だと思うぞ」
「ふ~ん、別に~。いいけどね。私はプリムラさんの恋人じゃないし。レンとイチャイチャしててもなんとも思わないけど」
「拗ねるくらいなら、いい加減プリムラと喋れるようになれよ」
「それが出来たら何年も引きこもりやってない!」
「おっしゃる通りで」
「大体、レンはさぁ……」
と、ゼラが何か言いかけた瞬間。
「てめぇ! 何してんだ!!!!」
下の階から梗夜君の怒鳴り声が響いた。
「また?」
「まただね」
ゼラを置いて、僕一人で一階の様子を見に行く。
「あら? 何か問題ありますの?」
「大ありだ、クソババァ!」
キッチンの方で梗夜君とメイさんが何やら言い争いをしていた。
「それはご主人のために俺が丹精込めて作った、プリンだ! てめぇのじゃねぇぞ!」
「いいえ、この世全ての食材はお姉さまのものですわ。あなたも、お姉さまのお食事を作れることを光栄に思うでしょう?」
「頭湧いてんのか、行き遅れおばさん」
「それ以上はあなたの命にかかわってまいりますわよ?」
「やってみろ、更年期ババァ!」
「あなたのその選択を後悔させてあげますわ」
ドッ! ガっ! ボコボコボコボコボコボコ!
「他愛もありません」
Winnerメイ。
Loser梗夜。
いや、結果なんて見なくても分かってたし、いつもこの結末だし。
メイさんに顔が変わるほどボコボコに殴られた梗夜君はソファーの上で意識を失っていた。
まぁ、こうなったら後はもう大人しいだろうし、さっさと部屋に。
ドタタタタタタタタタタ。
物凄い速さで階段を駆け下りる音が聞こえる。
「今のは一体何だったんですか!?」
勢いよくリビングに飛び込んできたのは今配信中のはずのルミエルさんだった。
「何って? あぁ、ただ梗夜君とメイさんが喧嘩してただけだよ」
「とんでもない騒音だったのですが!?」
「あぁ、確かにそうですよね。最近これが当たり前すぎて感覚が鈍ってしまったかもしれません」
「一体、どうしてくれるんですか!?」
「え? 何の話?」
「あなたたちのせいで、とんでもない事態になってしまったんですよ!」
「???」
いまいち状況を飲み込めていない僕は首を傾げる。
「さっきの配信、君たちの騒ぎ声が完全に入ってしまっていたのです!」
「え、それって……」
「今、私のチャンネルは大炎上中、と言うことです」
「うわぁ、これはひどい」
ツ〇ッターではクロネの話題で持ちきりだった。
サジェストには「クロネ 彼氏」「クロネ 同棲」「クロネ 炎上」「クロネ 引退」などが上がっており、動画の方のコメントにも荒らしが湧いていた。
「どうするんですかこれ」
「それをこれから考えるのです」
ダイニングにはゼラを除いた全ての住人が招集されていた。
「待ってくださいまし。何故、当たり前のように天使がここにいるんですの?」
ルミエルさんがうちのシェアハウスにいることに疑問を持ったメイさんが手を上げる。
「えっと、それは……プリムラ?」
説明が面倒なのでとりあえず、プリムラに丸投げする。
「ルミルミは仲間になったの。だから、メイちゃん。受け入れて」
「はい、お姉さま!」
プリムラ全肯定王女様は扱いが楽でいいや。
「でもよぉ、なんで、てめぇの問題を俺たちが手伝わなきゃなんねぇんだよ」
それはね、原因が梗夜君たちにあるからだよ。
「大体、こんなことにご主人の手を煩わせるなんて、新入りのくせに生意気だぞ!」
「ごめんね、梗夜君。でも、僕は彼女が困っているなら、力になってあげたいんだ」
「ご、ご主人! 流石です。その懐の深さに感激いたしました!」
わー梗夜君、素直ないい子。
「怪しい……先輩が人のためとかあり得ないです。絶対、何か裏があるはずです」
「…………」
竜胆がジト目でこちらを見てきたので、僕はスッと視線を逸らした。
確かに僕が無償で協力などするわけがない。
これはクロネのためだ。
このままネットに帰ってこれなくなったら、あのASMR配信が2度と見れなくなっちゃうからね。しょうがないよね。
「では、協力が得られるとのことですので、これから『Vtuber事務所開業作戦』を実行します」
「わぁー」
作戦名から嫌な予感しかしない。安請け合いするべきではなかったか?
「私はVtuber事務所を立ち上げる予定で、配信に乗った声は事務所に入る予定だったライバーと言うことにします」
「でも、そんなこと言って信じてくれますかね?」
「なので、実際に事務所を作り、あなたたちをライバーとしてデビューさせます」
そんな気はしたよ。
「厳しくない? 僕たち配信経験なんてないし。そもそもモデルは? キャラ設定やキャラデザすらないですよ?」
「そこは白撫さんに対応してもらいます」
「うむ。配信に関しては2、3回やってもらえれば、後はAIに学習させて任せればよいじゃろう」
おお、本当にAIがライバーになるのか。時代の進みは速いなぁ。
「モデルとかも白撫出来るの?」
「出来るも何も、クロネのモデリングはわしがやったからのう」
はえ~、なるほど。ルミエルさんが言ってたビジネスパートナーってそういう事。
「え、じゃあ、キャラデザとかも白撫が?」
「流石に無理じゃ。そこに関してはデータを貰っておったからのう」
「ダメじゃん。キャラデザどうするのさ?」
「問題ありません。ママにお願いします」
ママと言うのはVtuberのキャラデザを担当しているイラストレーターのことだ。
ルミエルのママとは、母親のことではなくクロネのキャラデザをしたイラストレーターを指す。
「そんないきなり大丈夫なんですか? 1人分じゃないですよね?」
「そうですね。早急に対応しなければ、火消しが追い付きませんから。先伸ばせて3日と言ったところでしょうか」
「素人意見で恐縮ですが、無理です」
3人分のキャラ設定を考えた後に、イラストレーターさんにキャラデザ、白撫にモデリング、その他にもいろいろあるだろうけど、それを3日なんて不可能だというのは僕にでも分かる。
ブラックIT企業でもそんな過酷ないって。不具合のオンパレードになる予感しかしない。
「それイラストレーターさん、断りそうですけど」
「いえ、先ほど依頼受諾の返信が来ました」
「マジっすか……」
どんな変態イラストレーターですか。
クロネのママならそれなりに知名度があって忙しそうな気はするけど。
「白撫の方は? 平気なの?」
「理不尽な納期――これは燃えるのう」
そう言えば、あなたロマン大好き娘でしたね。
そりゃ、スイッチ入っちゃうか。
「早速取り掛かりましょう。ママは今からこちらにいらっしゃるそうです」
「え!? 来んの!? 今から!?」
「はい、その方が効率が良いとママからの提案です」
「すごいアクティブな人ですね……」
「会ったことはありませんが、仕事の腕は確かで信頼しています」
「さいですか」
大物Vtuberのイラストレーターさんなら粗相のないようにしないと。
「おい、ルミエル。その今から来る客の食べ物の好みは分かるか?」
「とにかく、甘いものが好きだと聞いています」
「甘いものだな、すぐに取り掛かろう」
「この時間からの作業なら夜食も必要ですね。そちらは私が用意しますね」
そう言って、梗夜君と茉奈花はすぐさまキッチンの方へ向かう。
「では、わたくしは客間の片づけをしましょう。竜胆真澄、手伝いをお願いしてもよろしくって?」
「はい、布団や着替えなどの準備をしておきます」
そして、メイさんと竜胆は客間関連の整理に向かった。
客が来る。
ただそれだけのことだが、このシェアハウスではその瞬間一致団結する。
というか、意外とそう言う気づかいが出来る人たちばかりなのだ。
若干三名何もしてない人がいるけど。
人のプリンを片手にスマホをいじっているギャル、リビングのソファーでカシオレの入った酒瓶を抱えて泥酔している人に、未だに家の外に出れず引きこもりっぱなしの魔族少女。
……………あれ? まって、もしかしなくても、この状況、僕も何もやってなくない?
うそでしょ? 僕こっち側なの?
そうして、しばらくすると、来客を知らせるチャイムが鳴る。
そう、来たのだ。最強のイラストレーターが。
僕はドキドキしながらゆっくと玄関の扉を開く――。
そして、そこに立っていたのは――――。
「やぁ、憐太郎? こんな夜分遅くに君たちの関係性を間近で見られるなんて、どんな仕事を投げうってでも手に入れたい勲章だよ」
「委員長!?」
どう見ても、今目の前にいるのはうちのクラスの委員長。恋羽衣朱鳥。
いや、待てよ。これまでの流れを考えたら……。
「なんでこんな夜分遅くうちに来たんだ?」
「決まってるじゃないか。依頼を受けたからさ」
「そういうことかーーーーーーーーーーーー!」
つまり、ルミエルのママって言うのは……。
「クロエのイラストレーターやってます。クラス委員長兼風紀委員長兼剣道部主将兼生徒会長兼、黒百合クロネのママであるプロイラストレーターのouiです」
「やっぱおまえかあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




