VS.オイル社
「どうする、会長? 向こうはまだやる気みたいだけど?」
「決まってるじゃない。返り討ちよ」
「は、はい……。会長の命令通り、排除、します……」
メグは革手袋をギュッと引き締め、サクヤはシャベルを右手に持ち替え、アカリはハンドガンとナイフを構える。
「“未来を照らす英雄の剣”!」
「“アルファ・リリース”!」
真澄はジュワユーズを具現化させ、憐太郎は手足に闇の魔力を灯す。
「はあああ!!!!」
先に動いたのは憐太郎だった。
サクヤの顔面目掛けて飛び蹴りを打つ。
「軽いわよ」
サクヤはその蹴りをシャベルで受け止める。
「か、覚悟してください」
そこで動きの止まった憐太郎にアカリが銃弾を放つ。
「“天翔ける真意の衣”」
白い外套を纏った真澄が憐太郎を掴んで空へ飛び、銃弾を回避する。
「逃がさないよ」
それを読んでいたメグが跳躍し、憐太郎と真澄を蹴り落とす。
「ぐっ!」
「きゃ!」
地面に背中を叩きつけられた2人にアカリがナイフを突き立てる。
「こっっの!!」
真澄が咄嗟にジュワユーズを振り上げ、ナイフの刃を切り落とす。
「…………」
それに動揺することなく、アカリは刃の折れたナイフを投げつけた。
「ん」
憐太郎は闇の魔力を宿した左手でそのナイフを払う。
「“ニュー・レイン・フォース”!」
それと同時に闇の魔力で生成された無数の弾丸を放つ。
「狙いが雑ね」
「…………」
「効かないね」
サクヤは自分に当たりそうな弾丸のみをシャベルで叩き落とし、アカリはすり抜けるように躱し、メグは避ける素振りを見せずそのまま攻撃を受けていた。
「避けられるのはともかく、傷一つつかないってのは流石にプライドが傷つくな」
「あのダークエルフには先輩の攻撃は効きません。でも、私のジュワユーズなら」
「よし。なら、足に乗れ」
「? ……はい!」
一瞬何を言っているか分からなかった真澄だが、即座にその意図を理解し、憐太郎があげている右足の上に乗る。
「いっけええええええ!!!!」
足に乗った真澄をメグに向かって蹴り飛ばす。
「“ジュワユーズ・ベータトロン”!!!」
憐太郎の蹴りで加速した真澄の動きを見切れなかったメグは躱しきれず、左頬にジュワユーズの一撃が掠った。
「っ! メグ!」
「心配いらないよ、会長。少し油断しただけ」
メグは頬の血を拭い、真澄の持つジュワユーズを見つめる。
「傷を負ったのなんていつ以来だろう。その魔法の剣は危険だね」
メグにもう油断はない。避けずに攻撃を受けてくれるチャンスなど二度と訪れないだろう。
「私の剣はなんでも斬れるっすからね」
メグは服の内側から粘土のようなものを取り出す。
「C4?」
「正解。この爆弾が私の武器だよ」
「魔族なのに科学の武器を使うんですね」
「会社の方針だからね」
「ふざけてますね!」
真澄は地を蹴りメグに斬りかかる。
「真正面からなんて真面目だね」
メグは粘土爆弾をちぎって、投げる。
「……ッカ」
そして、メグが奥歯を噛んで音を鳴らすと、投げた粘土爆弾が爆発する。
「……マジ?」
粘土爆弾を投げられた時も、爆発した時も、真澄は見えていたが、迷わず真っすぐツッコんできた。
「はっ!」
爆炎を生身で突破した真澄はそのままメグとの距離を詰め、ジュワユーズを振るう。
メグは咄嗟に後ろに飛び、回避しようとしたが少し掠り、銀色の髪が数本宙を舞った。
「覚悟が決まってる人ってのはホント、やりずらいね」
「メグ!」
メグがやられたんじゃないかと、サクヤが視線を逸らした瞬間を憐太郎は見逃さなかった。
「隙だらけだぞ。“ガンマ・バースト”」
カンッ!
「なッ!」
しかし、サクヤは憐太郎の魔法を見ずにシャベルで弾いた。
「わざわざ意識を割くまでもなかっただけよ」
そのままサクヤは憐太郎ではなくアカリの方を見る。
「メグの方へ、行ってあげて。彼は私一人で充分よ」
「……は、はい。わ、分かりました」
アカリは背中のギターケースからスペアのナイフを取り出し、メグの元へと向かった。
「さて、仕事を終わらせましょう。これ以上の稼働は赤字になってしまうわ」
トンッ。
サクヤが地面を蹴った瞬間、その音が聞こえるより先に憐太郎との間合いを詰めていた。
「……ぐっ!」
サクヤが目の前に迫って来た、と認識した時には既に上空へ殴り飛ばされていた。
「まず……」
追撃が来る。そう頭で分かっていたのにも関わらず、次の瞬間には田んぼの中へ叩きつけられていた。
「がはっ!」
サクヤは常に憐太郎が頭で認識するよりも一手先へ行く。
スピードもパワーも全てがサクヤに届かない。
「埋まってなさい」
サクヤはシャベルを田んぼに突き刺し、土を掘り起こして憐太郎に向かって飛ばす。
「……は?」
ただし、それは泥をかけられた、と言った生易しいものじゃない。
「なんだ……この波は!」
サクヤがシャベルで地面を掘り起こした。
その動作だけを書けばなんてことのない穴掘りだ。
けど、今のこの場合においては意味合いが大きく変わる。
サクヤが掘り起こした田んぼの土は高く高く、濁流となって憐太郎を襲う。
「化け物かよマジで!」
高さ十メートルは超えるであろう巨大な濁流に憐太郎は飲まれそうになる。
「“行きずりの星、1つに交わりて咎となれ――”」
「詠唱?」
サクヤは憐太郎の詩を聞いて首を傾げた。
「“――それは万物を飲み込む闇”」
詠唱により憐太郎の右手には圧縮された魔力が溜まる。
それは空間全てを焼き尽くす黒色の炎。
「“空虚なる黄昏”!!!」
梗夜の魔法を自分用にアレンジした闇魔法。
最大火力で巨大な濁流を吹き飛ばす。
「はぁはぁ……クソが……」
ここまで、“ガンマ・バースト”2発に空虚なる黄昏が1発。他にも常時“アルファ・リリース”を展開し続けなくてはならなく、魔力の消費は激しい。
いつ魔力切れになってもおかしくない。
「そろそろ降参かしら?」
対してサクヤの方は息を切らしておらず、そして何より、彼女は……いや彼女たちは一度も魔法を使っていない。
これだけでどれだけの戦力差なのかは明らかだ。
なら、どうする? 逃げる?
いいや、ここにそんな選択するやつはいない。
「負けなんか認めるかよ。俺は男の子だからな」
サクヤと少し間合いのある距離で、憐太郎は拳を構える。
「そこから殴ろうと? あなたのリーチでは届かないでしょう? 自暴自棄かしら?」
「ああ、俺だけじゃ、無理だ。真澄!!!!」
「はいっす!」
返事をした真澄は憐太郎から少し離れた位置におり、メグとアカリの2人と対峙していた。
どう見ても、憐太郎に手を貸す余力があるとは思えない。
が……。
「はぁっ!!!」
真澄はメグとアカリの間をすり抜け、憐太郎とサクヤの間に入ってジュワユーズを振るった。
「?」
その行動にサクヤは一瞬首を傾げた。
何故なら、サクヤとの間合いが開いており、ジュワユーズの刀身では全く足りず、はたから見ればただの素振りにしか見えなかった。
「っ!」
はずなのに、サクヤが気づいた時には何故か目の前に憐太郎の拳があった。
そのまま振り抜かれた拳を額に受け、サクヤは後ろに吹き飛ばされた。
「あれは、まさか……」
当事者であるサクヤには何が起きたのか理解できなかったが、少し離れた位置で見ていたメグには真澄が何をしていたのかが分かった。
「間合いを、斬った……?」
そう、真澄はジュワユーズで憐太郎とサクヤの間にあった間合いを割断し、一瞬で距離を詰めたのだ。
「言いましたよね。ジュワユーズに斬れないものはないって」
殴り飛ばされたサクヤの元にメグとアカリが駆け寄る。
「会長、平気?」
「い、今すぐ、こ、殺して来、ます。い、いいですよね……?」
「あの程度の攻撃、何ともないわ。それより、アカリはギターケースからロケラン取り出さない。メグも手持ちのC4全部投げつけようとしないで。備品はタダじゃないんだから。これ以上は本当に赤字になってしまうわ」
サクヤは暴走しそうなメグとアカリをなだめる。
「それよりも彼女を連れて行きましょう。どうやら、さっきのが最後のひと踏ん張りだったみたいだから」
サクヤの言葉通り、憐太郎と真澄は魔力を使い切っていた。
憐太郎は肩から闇の魔力が消え、真澄のステラ・リングもただの髪飾りに戻っていた。
「あぁ……もう嫌だ……調子乗った。ホントごめんなさい。許してください、竜胆はどうなってもいいから、僕だけは助けてください。」
「先輩……さっきと言ってることが違うんですけど? サイテーですね……」
憐太郎は普段のヘタレ状態になっており、真澄も体力の限界でツッコミに勢いがない。
「さて、彼女を捕えて、さっさと報酬を貰い……」
「うむ、ご苦労」
メグとアカリが真澄を捕えようと手を伸ばそうとした時、パチパチと拍手をしながら初老の男がガラの悪い連中を引き連れて現れた。




