生き抜く覚悟
見晴らしのいい田園で、憐太郎とアカリが一進一退の攻防を繰り広げていた。
「はああ!!!」
「…………!!!」
憐太郎が上段の回し蹴りを繰り出すと、アカリはかがんで躱し、その直後、憐太郎の首筋に向かってナイフを突きつける。
「このっ!」
憐太郎はナイフを持っている手の方を払い、アカリの腹部に叩きこもうとする。
「…………」
しかし、アカリにその拳が届く前に、空いた方の手から銃弾が放たれる。
「っあ……!」
左拳に銃弾を撃ち込まれた憐太郎は血をまき散らしながら、後ろに後退する。
「っ……はぁはぁ……見たところ、人間ではあるようだが。この強さは一体なんだ……? 接近戦だけなら確実にリリアナを超える」
「へぇ~、彼凄いね」
憐太郎とアカリの戦いを静観していたメグは感嘆の声を漏らした。
「彼、人間なんでしょ? 何者?」
メグはインカムでミユキに訊ねる。
『ん~~……ボリボリ……わかんなぁーい……ボリボリ』
「ポテチ食べてないで、調べて。咀嚼音うるさいんだけど」
『…………』
「え、なに? ミュートした? なんで? 咀嚼音指摘したから?」
メグが何度もインカムで話しかけるがミユキの反応はない。
「会長、リモートワークやめよ。サボる人が出てくる」
「あの子は現場に出てきても変わらないわよ」
「それは……そうだけど。にしても、人間相手にアカリがここまで手こずるなんてね」
「そうね。動きは悪くないわね。でも、結果は見えてるわ」
ドッ!
アカリの蹴りが憐太郎の腹部に入り、そのまま田んぼの中に落ちる。
「彼はあの黒いオーラのようなもので、アカリの視界を限定させ反応を鈍らせていたわ。けれど、あの子ならもう目が慣れた頃でしょう。メグ、彼女を連れてきて。彼は仕事に関係ないから、これ以上、相手をしてあげる必要はないわ」
「了解」
メグは動けなくなった真澄に近づき、連れて行こうと彼女の腕に手を伸ばす。
「“ベータトロン”!」
その瞬間、憐太郎が闇の魔力で加速し、速度の乗った拳を叩き込む。
「はぁはぁ……真澄に手を出すな」
手負いの憐太郎だったが、今のは渾身の一撃だった。手ごたえもあった。だからこそ……。
「で、気は済んだ?」
「っ!」
平気な顔をして片腕で受け止めた彼女に驚きを隠せなかった。
「ん? あぁ、私が無傷なのは気にしなくていいよ。魔力の総量が違うからね。人間の魔力じゃ相手にならないよ」
「っく!!!!」
憐太郎は倒れている真澄を掴み上げながら数歩後ろに後退する。
「なに? 諦めないの? 力の差は歴然だと思うけど?」
「なにがだ……」
「君じゃ、私たちには勝てないよ。だから、彼女を渡して。今なら軽い怪我程度で済むよ」
「そう、です……先輩……。先輩には関係、ないんすから……私が、私が捕まれば先輩は助かるんす。だから、ここは……」
フラフラの足で立ち上がった真澄は憐太郎の前に立つ。
「私に任せて、さっさと逃げてください……」
「逃げるつもりはない。言っただろう、君にもう血は流させないと」
「バカなこと言ってる場合じゃないんすよ。このままじゃあなたも殺されてしまいます。だから、私が代わりに……」
「死ぬのか?」
「え?」
「俺の代わりに死ぬつもりなのかと聞いたんだ」
「当然でしょ! 人々の窮地に駆け付ける勇者は命を張って助けるんだから!」
「そうか。なら、君は一生勇者になることは出来ない」
「な、なんで! 今それ関係なくない!?」
「お前はなれない」
「だから、なんで………」
そんな文句を言っている2人の隙を見逃すはずもなく、オイル社の人たちは2人に襲い掛かる。
それを察知していた憐太郎は彼女たちに向かって両手を突き出す。
「生身の人間に使うのは気が引けるが仕方ない」
憐太郎は両手の平から黒の魔力を凝縮させ、放つ。
「“ガンマ・バースト”!!!」
超電磁砲と勝るとも劣らないエネルギーの波動が螺旋状に吹き出す。
「2人とも下がっていなさい」
それを見たサクヤが一歩前に出る。
「邪魔よ」
そして、サクヤは左手に握っていたシャベルを振り上げ、憐太郎の魔法を弾いた。
「……これは流石に参ったね」
サクヤたちの圧倒的な力を前に憐太郎は冷や汗をかく。
「だから、言ってるじゃないすか。私を置いて、先輩は逃げ……」
「自分一人救えない奴が一体何を救えるんだ」
「っ!」
「世界を救うんだろ。その君が死んだら、その後はどうするんだ。命を懸けるなんてのは弱い奴のすることだ。いいか、自分でやると決めた未来があるなら、死んでる暇なんてないぞ」
「………………!」
その背中に父の姿が被って見えた。
『私もね! 大きくなったら勇者になる! パパに負けないから!』
『ははは、いいじゃないか。でも、真澄には覚悟はあるかな?』
『もちろん! みんなを守るためなら命を懸けられるよ!』
『逆だよ、真澄。生き抜く覚悟が必要なんだ』
『?』
『あー、まだ分からないか。いつか知れたら、きっとその時は……』
「もう、先輩は仕方ないですね」
真澄はゆっくりと立ち上がる。
「どうせ人の言うことなんて聞かないんすから」
真澄の頭上で再び星の髪飾りが円を描きだし、彼女の傷を治癒していく。
「私が救ってあげますよ」
「魔力が尽きて死にそうだったが、平気か?」
「ええ、生き抜く覚悟を決めましたから!」




