対プリムラ用新兵器
「ちょ! 先輩! 何するんすか!!!!! 離してください!!!!」
耳鳴りが治まり、耳が聞こえるようになったとたん、今度は竜胆の甲高い叫び声が耳に響く。
「うるさ。てか、うるさい」
「誰のせいですか誰の!」
暴れまわって仕方ないので、一旦竜胆の手を離す。
「全くなんなんですか。先輩結構強引なとこありますよね。そんなに私のことが好きなんすか?」
「いや、まったく」
「はぁ!? 私の足をめっちゃ見てたじゃないすか!?」
「だから、あれは誤解だって言ったじゃん。ただミニスカニーソについて考えてただけで竜胆に欲情はしてない」
「そこはしてください!!!!!」
「君、結構無茶苦茶言うね」
「私も女の子ですからね。魅力がないって言われたら流石に傷つきますよ」
「魅力がないとは言ってないよ。ただ、僕は年上にしか欲情できないんだ」
「女子の前で堂々と性癖暴露しないでください。セクハラで捕まえますよ」
「何言っても捕まえようとするじゃん。これだから冤罪がなくならないんだよ」
「何言ってるんすか? 冤罪は『罪』って言葉入ってるんですから、犯罪じゃないんすか?」
「えぇ……」
この子、思ったよりバカなのでは?
「って、そんなのはどうでもいいんすよ!」
深堀してきたのは君の方だけどね。
「なんで逃げる必要があったんですか!? 私なら戦えました!」
「その自信がどこから来るのか分からないけど、寝てないんでしょ? もうふらふらじゃないか。少しは休んだ方がいいって」
プリムラの話じゃ竜胆の魔法はかなり繊細だ。集中力を欠いた状態では魔法そのものが発動できない。
「一徹くらいどうってことないです。私は最大七徹まで稼働できますから」
こいつ、体力バカかよ。人間辞めてんじゃん。
でも、この子の魔法ならそれすらも可能に出来そうではあるから、嘘でもなさそうだけど。
「普段はどうか知らないけどさ。めっちゃふらふらしてんじゃん」
「こ、これは……秩序の破壊者が思ったより、面倒だっただけで……い、いつもなら平気なんすよ!!」
「あ~はいはい、分かったから」
威勢よくツッコんでいるが、肩で息していて、目も虚ろでいつ倒れてもおかしくない状態だ。
にしても、徹夜してる状態とは言え、竜胆のチートみたいな魔法を相手にしてここまで追い込めるってあのサクヤって人、相当強いんじゃないの?
最後のあの殺気もクリスタやリリアナと同じ感じだった。
既にプリムラに連絡済みだが、『頑張って♡』と他人事のような返事しか来なかった。最悪だ。
「あ、あの……」
てか、こんなのに巻き込まれてる原因って風真さんにお願いされたせいだし、あの人にも責任取ってもらわなきゃ。
とりあえず、電話してみよう。
「す、すみません……」
全然、出ない……。まぁどう見ても電話に出てくれるようなタイプじゃないよね。通知とか溜まってそう。
あ、いや、女性からの連絡には反応してそう。
よし、竜胆から連絡させてみよう。
「先輩!!!」
竜胆に首元を引っ張られ、後ろに倒れる。
「な、急に何!? も、もしかして今の声出てた?」
知らないおじさんに連絡先知られるのそんなに嫌だったのか?
「何の話してるか分かんないですけど、考え事もほどほどにしてください。じゃないと、死にますよ」
「え?」
竜胆の視線の先、そこには長い黒髪で目元を隠している少女がいた。
あ、そう言えば、さっきからなんかどもりながら声かけてた人だ。相手してる余裕なかったから、無視してたけど。
「キャッチくらいで人は死なないよ? そんなんじゃ池袋は世紀末になっちゃうじゃん」
「……先輩、本当に気づいてなかったんすね」
状況が飲み込めなくて話についていけなかった。
「…………ちょ、ま……、あれって」
でも、目の前の少女が右手に持っているものを見て、察した。
「……ナイフ?」
その時、無意識に首元に手を当てた。
「……ッ」
それでやっと理解した。
首筋に薄っすらと切り傷が出来ており、少しだけ血が流れていた。
恐らく、彼女が僕の首を狙ってナイフを振るったのだろう。
竜胆が助けてくれなければ、今頃、僕は頭と胴体が別々になっていた。
「もしかしなくても、追手?」
「彼女はオイル社所属のエージェント。魔族に育てられた殺し屋、久我アカリ」
猫背と呼ぶには前のめり過ぎるほどに、腰を異様に曲げた前傾姿勢。右手には逆手で持ったナイフ。背にはギターケースを背負っている。
「ご、ごめんなさい。痛かったですよね……。辛かったですよね……。だ、大丈夫です。つ、次は……ちゃ、ちゃんと殺しますから、ゆ、許してください……」
こ、こえぇ~~~~~! 何この人!!!!
「ちょっと、アカリ。殺すなって、会長に言われてるでしょ」
「今度は誰!?」
アカリと言う少女の後ろに新たな人影が現れた。
「ご、ごめんなさい、メグさん。で、でも、わ、私は殺し以外に、取柄がなくて……」
「はぁ……全くこの子は」
落ち着いた雰囲気の大人な女性。整った顔立ちに輝くような銀髪。それだけで多くの人の注目を集めるだろう。
けど、それ以上に目を引くのは彼女の尖った耳と褐色の肌。
それは僕でも聞いたことのある幻の種族。
「…………ダークエルフ?」
ダークエルフとは全生物の中で最大の魔力量を持つと言われる種族だ。
10年以上前に絶滅したって聞いてたけど、生き残りがいたなんて。
「彼女もオイル社所属のエージェントで、名前は御原メグ。彼女のヤバさは言わなくても分かるっすよね」
「流石に大丈夫」
状況は全く大丈夫じゃないけど。
「後もう1人いますけど、彼女は今回、バックアップに周ってるようです。そして、会長である秩序の破壊者。オイル社はこの計4人で構成されてます」
「ねぇ、もしかしてだけど、その4人と今までやり合ってたの?」
「そうですよ。正直、秩序の破壊者だけだったら、とっくに何とかなってます」
だから、その自信はどっから来るのよ。
向こうの会話から殺さないようにとは言われてるみたいだから、ある程度手加減はされてたっぽいけど、それを差し引いてもここまで渡り合ってるこの子も相当化け物ではある。
「とりあえず、秩序の破壊者がいない今のうちにあの2人だけでも」
竜胆は剣を生成し、飛び掛かる。
「“未来を照らす英雄の剣”!」
それを見た黒髪の少女、アカリは前に出てナイフを構える。
いや、それはダメだろう。竜胆の魔法を知らないのか? あの剣はなんでも斬ってしまう。ただのナイフ程度受けきれるはずがない。
「はあああああああ!!!」
竜胆はアカリに向かってジュワユーズを振り下ろす。
「………………」
アカリはそれをナイフで受ける……ことはせず、ナイフの刃の上を滑らせるように受け流す。
「っ!」
そのまま地面にジュワユーズが振り下ろされ、竜胆は隙だらけとなる。
パンッ!
そこへアカリは左袖に仕込んでいたハンドガンを取り出し、竜胆のこめかみに銃弾を撃ち込む。
「竜胆!!!」
避ける余裕もなく、竜胆の頭から血が飛び散る。
「“|調和を指し示す星の円環”!」
竜胆の頭上で星の髪飾りが円を描くように回りだす。
すると、こめかみに空いた穴が即座に修復されていく。
一瞬、焦ったけど、竜胆には不死の魔法があった。
これなら……。
「………………」
パンッ! パンッ!
だが、その不死の魔法に顔色を変えることなく、アカリはさらに2発、眉間と心臓に弾丸を撃ち込む。
加えて、追い打ちとばかりに右眼と喉元にナイフを突き刺した。
「…………なっ!」
ステラ・リングで竜胆の傷はすぐに治る。
けど、そんなこと言ってられない。
あのアカリって人、人を殺すことに躊躇いがない。いや、なさすぎる。
「はぁはぁ……ぐっ!」
傷が治ってやっと立ち上がった竜胆の腹部に蹴りを入れ、吹き飛ばす。
ヤバい! ヤバすぎる! こんなの不死とか関係ない! このままじゃ魔力が先に尽きて、殺される!
「アカリ、やりすぎだって」
「で、でも、し、死なないんですよね……?」
「そうだけど……魔力が突きて魔法が解けるライン間違えて殺さないようにね」
「は、はい……だ、大丈夫、です」
ク、クソっ!
恐怖で足がすくんで動けない。
竜胆を助けるにしても、逃げるにしてもこのままじゃ……。
「やっと、追いついたわ。ってさっきもこのセリフを言ったような気がするわ」
最悪だ……。
「まだ、鼻に変な臭いが残っているが気になるわね」
サクヤまで来てしまった。
「か、会長っ! お、お疲れ様です……」
「遅いよ、会長。こっちはもう終わりそう」
仕方がない。
もう人目がどうこう、筋肉痛がどうこう言ってる状況じゃない。
覚悟を決めろ。決めるんだ。
僕は丸薬を口に含み、飲み込む。
「……っ!」
体が段々熱くなり、肩から黒い魔力が噴き出る。
「……何かしら、この異様な魔力は」
「会長、あれ見て」
「さっきの少年? 肩から黒いオーラ、じゃなくて魔力?」
「ヤバそうな雰囲気だけど、どうする?」
「この仕事は失敗できないわ。だから、決まっているでしょう? アカリ、メグ」
「「了解」」




