少年なら彼女を救えると、そう思っているんだ
「何事もなく昼休みになっちゃった」
竜胆に絡まれた翌日、学校で彼女がまた襲来してくるのではないかとビクビクしていたが、午前中は何もなかった。
「なんでかは知らないけど、このまま一生会わないことを切に願う」
そんなことを考えながら、自販機でコーラを買う。
「てか、なんで僕、当たり前のようにパシられてるんだろう」
僕は炭酸系があまり好きではない。これはプリムラの分だ。
「で、後はピーチティね」
こっちはメイさんに頼まれた分。
10円硬貨を1枚ずつ入れていると、近くを通りかかった生徒の話し声がふと耳に入ってきた。
「あの妄想女、今日休みだってよ」
「また暴れまわってんのかよ」
「ホントやべぇよな。高校生にもなって本気で勇者になれるとか思ってんだぜ」
「それを言うなら、あいつの親だろ。40過ぎのいい年したおっさんが勇者目指してたんだぜ。夢見がちにもほどがあるよな」
「え? あれ、マジなの? 流石に冗談だと思ってたわ」
「それがマジなんだよ。ほら、勇者試験って受けた人の名前ってネットで見れるじゃん? 何年か前の試験に父親の名前があったんだって」
「ガチでヤバ。自分の親がそんなことしてたら、普通に病むわ。親ガチャハズレだろ」
「それな。親が親だから、妄想女は洗脳されてる説が出てんだよ」
「ありそー。行動がマジで頭イカれてるもんな」
笑い声と共にそんな会話が繰り広げられていた。
名前は出されていないが話の内容からして、竜胆のことだろう。
「…………」
ま、僕には関係ない話だ。
ピーチティも買ったし、さっさと教室に戻ろう。
「お、少年」
後ろを振り返ると、中庭のベンチで寝ていた風真さんに声をかけられた。
「ねぇ、氷結売ってる自販機ない?」
「ここ学校ですよ?」
「…………あはははは、冗談冗談」
最初の間は何? 冗談のつもりじゃなかったでしょ。
「はい、これ少年にプレゼント」
「ん、なんですかこれ」
投げて渡されたのは紙で作られた手裏剣。
懐かしい。子供のころ作った記憶がある。
「中開いてみるといいよ」
「中……?」
手裏剣を分解し、紙を広げる。
すると、そこには住所が書かれていた。
「これ、なんの住所ですか? 場所はここから近いみたいですけど」
「少年が今、一番気になってる女の子の住所」
「通報していいですか?」
「あー! 待った待った! そうじゃないそう言うのじゃない。分かった分かった。正直に言うから、そのスマホしまって」
「で、これは何なんですか?」
「少年が気になってる少女の住所ってのは本当だよ。そこにはね、竜胆真澄嬢の家があるんだよ」
「別に気になってませんけど」
「あれ? そうなの?」
「迷惑してるってだけのことなんで。で、女子高生の家を嗅ぎまわってたことは警察に言えばいいですか」
「ちょっと待って! やめて! それだけはやめて!」
「風真さんのおふざけに付き合ってる暇ないんですから、僕が今何持ってるか分かりますよね? これ届けないと怒られるの僕なんですけど」
「分かった。なら、それはおじさんが持って行ってあげるから。少年は彼女のところに行ってあげて欲しい」
「いや、あの、意味が分からないんですけど、なんで僕がそんなことをしないといけないんですか? 自分から捕まりに行くようなことしたくないんですが? 自首ならおひとりで行ってください」
「…………」
また茶化すのかと思ったら、意外にも風真さんは少し口を閉じた。
「……少年なら彼女を救えると、そう思っているんだ」
いつもとは違う真剣な表情に今度は僕が押し黙ってしまう。
「実はあの子には少し縁があってね。でも、おじさんにはあの子を救うことは出来ないから。だから、少年にお願いするんだ」
「……救うって何から救うんですか。あのいじめみたいな雰囲気からですか?」
「分かっているのに、それを聞くのかい?」
「…………」
「昨日、あの子を見て分かっただろう? 今の彼女は危うい。あのまま1人にしちゃいけない」
「……1人?」
「あの子の両親はもういないんだ」
「それって……あっ」
「じゃ、これはおじさんが責任を持って届けておくよ」
いつの間にか僕の手にあったコーラとピーチティが風真さんにとられていた。
「あ、あの!」
呼び止めようとしたが、風真さんはそのまま教室の方へ行ってしまった。
「……はぁ」
風真さんから貰った住所のメモを見て、ため息をこぼす。
「この前はゼラと家をハートの連中から守ってくれたみたいだし、そのお返しくらいはしないとだね」
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――勇者軍日本支部。
「はい、特別顧問のルミエルです」
その一室でルミエルはスマホにかかってきた電話に出る。
「川越? はい、明日、件の現場に行く予定なので近くを通りますが……はい? 女子高生が襲われている? いや、女子高生が襲っている? どちらなのですか? 要領が得ませんね。そちらで対処出来ないのですか? そうですか、で、当事者は? そのくらいの情報は掴んでいますよね。ヤクザと……竜胆真澄……?」
その名を聞いた瞬間、ルミエルは勢いよく立ち上がる。
「確かに竜胆なのですね? はい、分かりました。では今すぐに向かいます」
ルミエルは通話を切り、背もたれにかけていた白い隊服のコートを羽織る。
「……全く、親子そろって困ったものです」




