金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる
「はぁはぁ……ホント、しつこい人たちっすね」
深夜0時を回った頃。
真澄は境内で倒れた不良たちを見下ろしながら肩で息をしていた。
「そろそろ家に帰って休まなきゃ……」
「おい! こっちだ! 奴がいたぞ!!!」
「あ~、これは徹夜確定っすかね。でも、ま、いいっすよ。見逃してあげる理由ないんで」
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――とあるビルの最上階。
「おじき!」
やたら豪勢な事務所。
そこにスキンヘッドの男性が飛び込んでくる。
「例の女なんですが、下っ端連中じゃ仕留められず、被害人数だけが増え続けてます!」
革製の黒いエグゼクティブチェアに腰かけている初老の男はスキンヘッドを睨みつける。
「っ!」
「たかが高校生のガキ1人に何を手間取っている」
「そ、それが心臓を撃ち抜いても死なないとかで……」
「ふざけているのか? そんな人間がいるわけないだろ」
「おかしな話ですが、実際に映像も残ってまして……」
スキンヘッドはタブレットでその時の映像を流す。
「…………」
「あの女、ただ者じゃないですって」
「仕方がない、なら専門家を雇おう」
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――プルルルルルル。
首都圏にあるホテルの一室で電話のベルが鳴り響く。
――ガチャ。
「はーい、こちら安心安全依頼成功率100%、何でも屋の『オイル社』です。ご用件は?」
固定電話を取り、対応した女性はやる気のない声を出しながら、空いた片手でポテチを口に運ぶ。
伸び放題で手入れされていない灰色の髪にブルーの瞳。着古したスウェットに身を包む彼女にはあまり清潔感がない。
「うんうん、あー依頼? でも今忙しくて~。え? ホント? その報酬ならやるやるいいよ。おっけ~、川越ね。今からそっち行く」
彼女は電話を切り、立ち上がる。
「ねぇねぇ、サクちゃん。依頼だって。しかも、お金いっぱい貰えるって」
その女性が声をかけたのは窓際で街を見下ろしている蒼髪の女性。
髪は首元で1つ結びにして垂らしており、灰色の左眼は前髪で隠れている。
正面から見れば普通の人間と外見の差異はないが、黒く細長い尻尾が生えており、それが、彼女は人間でないことを現していた。
真っ白なワイシャツに下は黒を基調としたサイドスリットロングスカートで、右の太もも部分だけ露出している。
彼女の名はサクヤ。『オイル社』の代表である。
「サクちゃんじゃなく、会長と呼びなさいといつも言っているでしょう? それにお客様には敬語を使ってと何度言えば分かるのかしら、ミユキ?」
「ごめーん、サクちゃん。次からは気を付けるね」
「…………そう」
全く反省する様子のないミユキに対し、サクヤはそれ以上何も言わなかった。
「それで、依頼内容は?」
「なんかー、捕まえてほしい人がいるんだって」
「誘拐の依頼ね。じゃあ、今、要人警護の仕事に出てる彼女たちが戻ってきたら……あら?」
ちょうどそのタイミングで部屋の扉が開き、2人の女性が入ってくる。
「た、ただいま、も、戻りました……」
「仕事、終わったよ」
1人は猫背でおどおどした少女。
両眼が隠れるほど長い黒髪。背にはギターケースを背負っている。
もう1人は落ち着いた雰囲気の女性。
ウルフカットの銀髪に褐色の肌。そして、何より目を引かれるのは長く尖った耳。
「おかえり。アカリ、メグ。次の仕事に行くわよ……と言いたいところだけど、ひどい恰好ね。特にアカリ」
「す、すみません……わ、わたし、う、上手くできなくて……」
サクヤに怒られると思い震えるアカリの顔には赤い液体がべったりとついていた。
「何かしら、これ」
サクヤはメグの顔についたその液体を救い取る。
「…………ケチャップ? なんで?」
「あー、今日の仕事先でアカリがドジ踏んだ」
サクヤの問いに答えたのはメグだった。
「今日の依頼は要人警護じゃなかったかしら? どうやったらケチャップが付くハプニングなんて起こるのかしら? 後、さっきから気になってたのだけれど、なんで2人ともバニーガールの格好をしているの?」
「その予定だったんだけどね。依頼人が経営するバニー喫茶で欠員が出て、私たちがヘルプで出ることになったんだよね」
「その場合って依頼料はどうなるのかしら? 減らされるの?」
「あー、そのことなんだけど、今回は出ないみたい」
「…………なんですって?」
「私たちがバニー喫茶で接客している最中に依頼主が襲われて意識不明の重体になったみたいでさ。部下の人たちから契約通り守れなかったのだから、依頼料はナシだって」
「でも、向こうの指示でバニー喫茶のヘルプになったのよね? それはおかしくない?」
「あ、それとこれ請求書」
「…………?????????」
「依頼主が負傷したのは君たちのせいだと言われて、賠償金を払えだって」
メグから渡された請求書の額を見て、サクヤは固まってしまった。
「す、すすすすみません。わ、わたしのせいですよね。死んでお詫びします……」
アカリがギターケースの中からハンドガンを取り出し、眉間に銃口を押し当てる。
「もーアカリはすぐ死のうとする。ダメだよ」
しかし、それをミユキが止める。
「このくらいサクちゃんなら何とかしてくれるから平気だよ。ね? サクちゃん?」
「…………ええ、もちろんよ。任せておきなさい」
サクヤは微笑を浮かべながら、アカリの持つハンドガンを取り上げる。
「とりあえず、アカリはすぐにお風呂に入って来なさい」
「は、はい……。ありがとうございます、サク会長」
「それとついでにミユキをお風呂に入れて貰ってもいいかしら? この子、1週間も入ってないから」
「え~~~~、私はいいよ~~~~」
「いいから、入って来なさい。これから仕事なのよ」
「で、ではミユキさん……い、行きましょう。お背中お流しします」
「背中だけじゃなくて、髪も洗ってくれるならいいよ」
「は、はい、私でよければ」
「じゃ、行こ~。あ、服も脱がせて~」
アカリはミユキの手を引きながらバスルームへと向かう。
「メグも行ってきていいわよ」
「会長、いつもごめん。面倒ばかりかけて」
「問題ないわ。この程度、私にとっては些細なことでしかないから」
「ん、ありがとう」
それだけ言い残し、メグもバスルームに入っていく。
「………………」
3人の姿が見えなくなったのを確認した後、サクヤはその場で膝をつき頭を抱えた。
「(なんでいつもこうなるのよーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!)」
サクヤは涙目になりながら、バスルームにいる3人に聞こえないように心の中で叫ぶ。
「(どうして仕事受けるたびに借金ばかり増えるのよ!!!!!!!! 手持ちもないから、このホテルに泊まれるのも今日までだし、もし次の依頼が失敗したら……野宿するしかないじゃない!!!)」
彼女たちは依頼成功したことの方が少なく、常に金欠状態だった。
「次の仕事は、失敗出来ないわ。あの子たちのためにも、絶対に成功させてみせるわ」




