自称世界最強の剣
「勇者? 英雄?」
あ~、まぁそう言うお年頃か。
「そうなんだね。じゃあ、僕はこの辺で……」
「待つっす!」
「ぐえ、」
彼女はそそくさと帰ろうとする僕の首根っこを掴んでくる。
「さっきから、なんなのさ!」
「先輩。私、見ちゃったんす」
「見た?」
なんか悪いことしたかな? 見られて困るようなことなんて……。あ。
「ま、まさか!」
「そうっす。私が見たのは……」
「昨日、レンタル屋のR18コーナーの方を覗き込んだ時、あの場にいたの!?」
「それですそれです。18禁コーナーに……へ?」
「いや違う違うんだあれは僕が見たかったからとかじゃなくて今うちに居候している人にどうしてもって頼まれてちょっと行っただけで別に興味とかはホントないんだよでも頼まれたら断れない性格だしもうほんとしょうがないって言うか僕も嫌々って言うかもう他に選択肢がなかったからって言うかだからあれは不可抗力でホントごめんなさい他人に言いふらさないでください何でもしますからお願いします」
「ストップ! 待つっす! 何の話すか!」
「え、だからエッチなのはダメって話じゃ……?」
「それじゃなぁーい!!!! もっと他にあるっすよね!?」
「ほ、他に……?」
見られてやましいことなんて他に思い当たるのがないんだけど……。
「ちょっとエッチなソシャゲのイラスト集買ったやつ?」
「違います!」
「ちょっとエッチなドラマのブルーレイ借りたこと?」
「違います!」
「ちょっとエッチな……」
「違う違う違う! なんでエッチな話題しか出てこないんすか!!! 他にもっとあるっすよね!?」
「でも、他にやましいことなんてないんだけどなぁ」
「何言ってるんすか! とんでもないやらかしましたよね!?」
「???」
「首傾げないでください!」
竜胆はため息をつきながら、スマホを操作し、1枚の写真を僕に見せてきた。
「これでもう誤魔化せないすよね?」
「な、なんでこれを……!」
そこに映っていたのは僕とリリアナが旧ショッピングモールで戦っていた時のものだった。
「あの時、人払いの結界があって他の人たちはいなかったってプリムラが言ってたのに」
「無駄っすよ。あれは無意識的にその場から人を遠ざける魔法です。人払いの結界があると認識されその違和感に気づきさえすれば、効力はないんす」
「でも、それじゃあ、ずっとあの廃墟を意識してなきゃ、違和感に気づけなくない? そんなに四六時中廃墟のこと考えてたの? 廃墟フェチ?」
「なんでそうなるんすか!?」
「え? 他にないじゃんね?」
「私はですね、ずっと先輩のあとをつけてたんすよ」
「え、やっぱり過激派プリムラファンだったの?」
「あんな野蛮な人たちと一緒にしないで!」
「でも、他に思いつかないし」
「普通に考えてください。今まで不登校だった先輩が夏休み明けに急に登校してきて、それ以降学校ではおかしなことばかり起きてたんすよ?」
「た、確かに……」
プリムラの転校、それによる生徒の暴徒化、梗夜君やメイさん、風真さんといった部外者が当たり前のように学校に入り浸る。
しかも、はたから見たらこれ全部僕が学校に来てから起こってるし、なんならみんな僕と関係あるのも知ってるし、僕のせいに見えてもおかしくない。
僕は何もしてないはずだけど。
「ですが、確たる証拠がありませんでした。なので、先輩の悪事を暴くために尾行をしていたんす!」
「あ、悪事って……」
「そして、見つけました。先輩、魔王候補なんすよね?」
「いや……それは……」
「誤魔化せないっすよ。こっちには証拠の写真がばっちりあるんすから」
「じゃ、じゃあ、仮にだよ? 仮に本当に僕が魔王候補だったら、どうするのさ?」
「決まってるじゃないっすか。私は未来の勇者っすよ」
竜胆の手には魔法によって生み出された剣が一振り。豪勢にデコレーションされた刀身の細い剣。
「未来を照らす英雄の剣“ジュワユーズ”!」
彼女はその剣を振りかざす。
ちょっとこれやばいかも。
「未来の魔王を討伐します!」
「うわあああああ!!!! どいてどいてどいてくださぁあああああい!!!!!!」
僕は通行人たちを押しのけながら、街中を駆けまわる。
「逃がさないっすよ! 人類の敵は私が倒します!」
大勢の人がいるにもかかわらず、竜胆は剣を振り回しながら追ってくる。
「くそ! 何が未来の勇者だよ! 他人の迷惑考えなって!」
周囲を見渡すとみんな、竜胆の姿を見て、ドン引きしていた。
「人混みに紛れて撒こうって思ったけど、みんな、竜胆を避けるように道を開けるせいであんまり意味がない」
どうしよう。このままじゃ体力が先に尽きて捕まっちゃう。
この前の件もあって今日はちゃんとタブレットを持ってきてはいるけど、他の人たちがいる前じゃ使えないし。
こうなったら、人がいない場所に逃げて覚醒状態になった方が、撒ける?
いや、でもそれしたところで結局、明日以降も学校で絡まれ続けるだけだし、筋肉痛で死ぬしでメリット何もないんだけど。
これ詰んでない?
「天翔ける真意の衣“エクリュ・クローク”!」
竜胆は真っ白で袖のない外套を身に纏う。
「今度は何!? 何するの!?」
トンっとジャンプすると竜胆はそのまま空中に浮く。
「このまま追い詰めるっす」
「空も飛べんの!? ズルくね!?」
武器作る魔法じゃなかったの!? 物出せて空も飛べるってそんな属性の魔法あったっけ!?
「って考えてる場合じゃない! 早く逃げなきゃ!」
でも、空まで飛ばれたんじゃホントに逃げ場がないんだけど!!!
「奴だ! 奴がいたぞ!!!」
すると、今度はガラの悪い連中が数人目の前に現れた。
「なになに!?!? 次はなんなのさ!!!!!」
どう見てもまともな連中じゃない。だってバット持ってるもんバット。釘がいっぱいついてるやつ。
多分だけど、プリムラ関係だよね。こんなタイミングで出てくるなんて最悪すぎる。どこまで僕を追い詰めれば気が済むのさ!
「ここで仕留めてやる!」
「なっ!!!!」
パンッ!
ガラが悪い連中の1人が拳銃を取り出し、発砲する。
あ、死んだ……………………。
「あ、あれ……?」
咄嗟に目をつむったが、銃弾が当たった感覚がない。
ゆっくりと目を開けると銃口はこちらを向いており、硝煙もある。
「外した……?」
いや、違う。銃口が若干上を向いている。
「ってことは……!?」
僕は後ろを振り向きながら上空を見上げる。
「狙いは竜胆……!?」
竜胆の胸からは赤い血が滲み出し、ぽたりと地面に落ちる。
それを見た瞬間、周りの人たちは悲鳴を上げ、逃げ惑う。
「よし! 当たったぞ!」
「そのまま確実に仕留めろ!」
不良連中は追撃とばかりにさらに発砲しようとする。
しかし……。
「あ? なんだ、こりゃ……」
引き金を引こうとした瞬間、バレルの部分が切り落とされた。
「ホント、川越は治安が悪くて仕事が減らないっすね」
いつの間にか竜胆は敵の正面に立っていた。
「な、んで……、てめぇ! 心臓を撃たれてなんで動ける!?」
「調和を指し示す星の円環“ステラ・リング”」
星の形をした複数の髪飾りが竜胆の頭上で円を描くように回っていた。
「この星が巡る間、私に死は訪れないんっす」
「な……んな、ふざけた魔法があるわけねぇだろが!!!!!」
不良の言う通りだ。
武器を作れて、空も飛べて、不死だなんて、そんな性能盛り盛りな魔法をたった1人の人間が使えるわけがない。
……あ、いや、なんでも出来そうな魔法使うのがうちに1人いるけど、まぁあれは人間じゃないし例外的なものだと思うけど。
でも、そうか、もしプリムラと同じだとしたら、彼女は新たな魔法の可能性を自力で開拓したってことなのかもしれない。
「こっっの! 死ねぇ!!!!」
釘バットを持った不良が竜胆の後頭部めがけ振り下ろす。
「遅いっすね」
振り下ろされた釘バットを一振りで切断し、そのまま空中で1回転し、蹴りを叩き込む。
「バ、バットが豆腐みたいにスパって真っ二つにされちまった! なんて切れ味だ!」
「世界最強の剣なんすよ? “ジュワユーズ”に斬れぬものなし!」
つ、つえぇ……。てか、魔法もだけど、身体能力もバケモンじゃん。これ覚醒状態になっても勝てないのでは?
「っく! どんな魔法か知らんが、魔法は魔法。魔力がなくなればそれまでだ! 物量で押し続ければそのうち力尽きる! ここら一帯にいる奴ら全員呼んで来い! 袋叩きだ!」
「いいっすよ。正義の味方は決して悪から逃げたりしないんすから!」
な、なんか分かんないけど、あっちで勝手に盛り上がってきて、こっちはガン無視っぽいな。よし、今なら逃げてもバレないだろう。
そーらすたこらさっさ。
僕は巻き込まれないように気配を消しながら、その場を去って、家に帰った。




