自称世界を救う勇者
十月にもなれば、気温が下がり過ごしやすい季節になる。
よかった。まだこの国には秋があったようだ。
けれど、クラスメイト達にとってはそんなことは些事に等しい。
なぜなら、十月末には学生の一大イベント文化祭があるからだ。
僕は興味がないから準備に全く参加していなかったけど、梗夜君やメイさんは意欲的に取り組んでいたようだ。部外者なのに。
しかし、楽しみにしていた彼らにとって悲しい知らせが届く。
朝のホームルームで文化祭中止が告げられた。
理由は先日の襲撃事件だ。
みんなは僕やハートの魔王候補が関わっていたことは知らないが、逆に原因不明であることが危険であると判断され、うちを含め周辺の学校では外部の人を招く行事は軒並み中止となっていた。
「そりゃないぜ!」「学生における文化祭の重要性を理解してない?」「文化祭が先輩と出来る最後の演劇だったのに……」
もちろん、クラス中で批判殺到。
「おい! 俺のライブはどうなるんだよ!」
「すでに何着か衣装を作り終えていますのに、困りましたわね」
「JKのメイド服が見れないのか? なんてこった」
そして、当たり前のように教室にいる外部の人たちも不満たらたらだった。
あなたたち、生徒じゃないんだから元から参加権ないのよ。
「……そんな……バカな……文化祭の告白イベが見れない、だと……? クソっ! クソっ! クソっっっ!!!!!!!」
若干一名、病み上がりのくせに床に拳を叩きつけながらガチ悔しがりしてるんだけど、怖い。てか、怖い。
「…………」
なお、僕と同じで文化祭に興味のない白撫は机の上で適当に機械をいじいじしていた。
「…………」
そう言えば、あの日、一番助けてもらったのは白撫だった。あれ以降、ちゃんとお礼を言えてないし、ちょうどみんな騒いでて、1人だし声かけるか。
「ちょっといいか?」
「なんじゃ、お主か。なにかあったかのう?」
「この前のこと、助けてくれてありがとう」
「気にせんでもよいよ。わしも楽しませてもらったしの」
「楽しま……って、死にそうになってたんだけど!?」
「よいではないか。死にそうになりながらも、味方をアシストして、逆転勝利する。……最高にロマンじゃのう! お主もよい立ち回りじゃったよ」
気にしているかもしれない、もしかしたら、僕は白撫に責め立てられるかもしれない、そう思っていた。
なのに、白撫はなんてことないかのように、まるで宝くじが当たったくらいのテンションで喜んでいた。
「それにお主が何とかしてくれると思っておったからのう。死ぬ、などと考えておらんかったわ」
「え、どういうこと? おかしくない? 僕たちが会ったのはたった数日だよ? なのになんでそんなに信頼度が高いのさ」
「決まっているじゃろ。何年もお主のファンたちから耳がたこになるほどお主のことを聞かされておったのじゃ。じゃから、あれくらいやってくれる男だと信じていただけのことじゃよ」
僕のファン?
心当たりはないけど、今はそんなのはどうでもいい。
「でも、もし、僕が守れなかったら……?」
「死んでたろうな。わしもお主も」
「それでもよかったって言えるの!?」
「良い悪いもないじゃろ。死ぬんじゃから。ただ一つ分かっているのはわしらが生きてここで言葉を交わしているということ。なら、なにも間違ってはおらんかったということじゃろ」
「で、でも……」
「そう心配そうな顔をするでない。不安なのじゃろう? じゃが、問題あらんよ」
「だけど、僕は……」
「お主の不安も心配もこちらに少し分けてはくれぬか?」
「えっ……」
「それが仲間ってもんじゃろ?」
そう言って、白撫は僕の肩にポンッと手を置く。
「わしらがついておるぞ、ボス」
「白撫……」
彼女はゆっくりと教室から去っていき、僕はその去り行く背中を眺めていた。
ピッピッピッ…………。
「?」
彼女が去った後、机の上から何か小刻みに鳴る機械音。
音のする方へ視線を向けると、そこには7セグメントでカウントが表示されている箱があった。
3……。
2……。
1……。
0……。
ボンッ!
小規模な爆発が起き、教室は黒煙だらけになった。
「コホッコホッコホッ!」
咳を込みながら、僕は叫んだ。
「爆発落ちなんてサイテ―!!!!!!」
***
「やっと帰れる……」
帰りのホームルームが終わってすぐ帰り支度を整え、教室を飛び出す。
その時、梗夜君とメイさんが文化祭中止の撤回を訴える為にクラスメイト達をけしかけていたのを見たが僕には関係ないのでスルーする。
「……ん? 何これ?」
昇降口に着き、げた箱を開けるとそこには1通の手紙が入っていた。
「ま、まさかラブレターっ! ……じゃないな」
よく見ると封筒にはでかでかと『果たし状』と書かれていた。
「なんかこれ、久々の感じだ」
梗夜君がいい意味で目立ってくれたおかげでプリムラ転校初日みたいな生徒たちに追いかけまわされることがなくなった。
だから、こうして呼び出されるのは久々の感じがする。
って言っても、まだプリムラがこっちに来てから1カ月も経ってないんだけど。
「ま、これは……ポイっ」
中身を開けずビリビリに破いた後、そのまま近くにあったゴミ箱に捨てた。
「ろくなことが起きないって分かってるのに、バカ正直に行くわけないじゃんね」
そして、そのまま靴に履き替え学校を後にした。
「さーて、さっさと帰ってゼラとゲームでも……」
「どこ行くっすかぁ!!!!!!!!」
「ぬあっ!」
校門を出る寸前で僕の背中に誰かが物凄いスピードで飛び蹴りをかましてきた。
「い゛って! いたたたたたたいてぇええええええええ!!! 折れた! これもう骨折れた! 死ぬ! 死んじゃう! いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
苦痛で声を我慢できず、恥も外聞も捨てて地べたへ横になって転げまわる。
「まったく、大げさっすよ」
「それを……蹴り飛ばした本人が言うのかよ……」
僕は打ち付けた腰をさすりながら大人しく立ち上がりこの少女の方を見る。
僕と同じ学校の制服。学年を現すバッチは赤。つまり1年生。僕の1個下だ。
髪は腰くらいの長さで、薄紫色。その髪には星を基調としたアクセがいくつも付けられていた。
なんか、鞄の方にも何やらよく分からんキーホルダーをジャラジャラとつけてるし。
最近の女子の流行ってこんなんなの?
まぁ、ミニスカハイニーソはとても良いし、流行ってもらってもいいんだけど。
「先輩……今、私の足を舐め回すように見ました?」
「誤解だ。僕は年上の肉付きがいいお姉さんにしか興味がない」
「やっぱり変態さんなんすね! 粛清! これは粛清です!!!!!」
「ちょちょちょ、待って待って。話がわからないんだけど。まず、君は誰なのよ。てか、誰なのさ」
「なぁ! やっぱり、私の手紙見てなかったんすね!!!!」
「あ、……あれ君だったんだ」
「いいです。じゃあ、もう自分で言うっす! 私は竜胆真澄! いずれ勇者になって世界を救う英雄よ」




