↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自称コンサルタントのギャルが僕を魔王にしようとしてくる  作者: 結生
第一章 野に咲く花に祝福を

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/82

アフターハート

 埼玉県内のとある廃工場。

 旧ショッピングモールが崩壊したため、ハート陣営はここを新たな拠点としていた。



「ねぇ! 早く治して!」


「ひぃ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」



 その一室でアイズが荒れていた。

 そんな彼女に怒鳴られて泣き出しそうになっているのは、ハートの8(エイト)であるルーナ・エクティスだ。

 目の下にはクマが出来ており、伸びっぱなしで手入れのされていないボサボサの紫色の髪。2サイズ大きいダボダボの白衣を羽織っており、その下には着古して所々に穴の開いた灰色のシャツを着ている。

 彼女ももちろん魔女である。年齢は今年で26になる。



「腕は回収してきたから。早くくっつけてよ」


「あ、あのあの、わ、私、医者じゃないんです、けど……科学者なんです、けど……その、すみません……」


「なんでもいいから、さっさとやって!」


「は、はい……すみませんすみませんすみません。や、やりますよぉ……だから、そんなに怒鳴らないでくださいぃ……」



 ルーナは『私の方が年上なのに……』とブツブツと呟きながら、魔法で切断されたアイズの腕をくっつける作業に入る。

 その間、アイズは燕時と最後にやり取りをした時のことを思い出す。




  *




「じゃ、君はここで死んでもらおうか」



 満身創痍のアイズに避ける余裕などなかった。

 だから、そのまま燕時がクナイを持った手を彼女の首元に突きつければ、簡単に命を奪える。

 そんな状況だった。



「ま、待って! ……下さい…………」



 だが、それを止めるか細い声が2人の頭上から響いた。

 見上げるとシェアハウスの2階からゼラがビクビク怯えながら2人のことを見下ろしていた。



「ひ、人殺し……は、ダメだと、思います。で、ですから、あ、あの……もう、その辺で……あの、お願い、します……はい……」



 途切れ途切れではあるがゼラは勇気を振り絞ってそう言い切った。

 その直後、精神力を使い切ったのか、倒れてしまったようだ。



「あの子が殺すなというなら、仕方ないね。今回は見逃してあげるよ」


「っ! ふざけるな!あの女に庇われて、生き残りたくなんかない! それなら死んだほうがマシよ!」


「残念ながら、ここは君の死に場所じゃない。この先、君が死ぬことになろうとも、生き永らえるにしても、その分岐点はここじゃない。それが出来るのはきっと彼と彼女だ。だから、今回はこのまま帰ってくれ」


「……ぁ……っく」



 アイズは心を揺さぶられる。

 だって、何故なら。


 燕時が膝をつきながら、頭を下げた。



「…………次よ」



 アイズは落ちた腕を拾い上げる。



「次は必ず殺から」



 それだけ言い残し、その場から撤退した。




  *




「っち! クソ!」



 ルーナに腕を治してもらったアイズはイライラしながらも、幹部たちがいる奥の部屋へと入る。



「あれ、ボスは?」



 けれど、そこにリリアナの姿はなかった。

 そこにいたのはクリスタとエリザベートの二人だけだった。



「なぁ、おい。あんま落ち込むなって」


「だって、負けちゃったんだもん。グスっ……あんな人間なんかに……」



 ぐずぐずと泣きはらした顔で落ち込むエリザベートをクリスタが慰めていた。



「それを言っちゃあおしまいだろ。あたしだって負けたんだ」


「でもクリスねぇの相手ってあのプリムラだったんでしょ? なら仕方ないじゃん。私はモブみたいな人間だったんだよ」


「なら、敗因はそのおごりだったんだろうな。相手は人間だからと侮ったから負けたんだ」


「うぐっ……ひどい! なんでそんなこと言うの!?」


「っ! めんどくせぇなぁ、おい! アタシにどうしてほしんだ!」



 わがままなエリザベートの態度にクリスタが我慢できずにキレ散らかす。

 いつものクリスタなら軽く受け流していたが、今はそんな余裕はないらしい。

 アイズはそんな2人を見て、今回の一件で苦い思いをしたのは自分だけではないと分かり溜飲が下がる。



 そんな焦燥を抱えていたのはもちろん彼女たちだけではない。

 廃工場の地下。

 その培養液の中に彼女たちの長、リリアナがいた。



「お目覚めかい、お嬢?」


「ん……クリームヒルト?」



 憐太郎たちとの戦いからすでに三日が経過していた。

 それまでリリアナは意識を失っていた。

 培養液の中で体の修復をしていたため、憐太郎から受けた傷はすでに完治していた。



「あなたの警告を聞いておくべきだったわね」



 目を覚ます直前、リリアナはクリームヒルトと交わした会話を夢の中で思い出していた。

 この作戦が言い渡されたとき、クリームヒルトはリリアナを止めていた。



「あなたの言っていた通り、私は焦っていたのかもしれないわ。プリムラの名を聞いて居ても立っても居られなくなってしまっていたの」


「いや、いいさ。どうせあたしが何言っても無意味だったろうしな」


「どういうこと?」


「なんだ、気づいていなかったのか? プリムラに対して強い執着を持つようにインプットされてたんだよ。お嬢は疑似人格だからな。そういう改造もできるだろうよ」


「そういうことだったのね。通りで感情の制御が上手く機能しないと」


「相変わらず自分のことなのにドライだな。もう少し自分の体や心をいじくりまわされることに抵抗を覚えたら……って言ってもその辺もコントロールされてそうだな」


「いえ、多分それについては平気そうよ」



 その言葉の意味が分からず、クリームヒルトは訝し気に眉をひそめる。



「今のこの心を誰にも触らせたくないと、そう思っているの」


「……あいつらに何かされたか?」


「どうして、そんな怖い顔をするの? いいことだとは思えないの?」


「そうじゃないが……なんかさっきからボスの様子が変なんだよ。憑き物が落ちたみたいに異常に穏やかだし。数日前はプリムラの名前を聞くだけでイライラしてたのにさ」


「そうね。思い返してみれば、どうしてあそこまで焦っていたのか分からないわ」


「確かにいい傾向だとは思うけどさ。ここまで様変わりしちまえば、逆に不安にもなる。一体、あの唯野憐太郎ってやつに――」


「ん」


「ん?」



 リリアナの体が一瞬、ピクリと反応したのをクリームヒルトは見逃さなかった。



「なぁ、お嬢」


「な、何かしら」



 リリアナにも自覚があったのか、不自然に誤魔化しているように見えた。

 そこでクリームヒルトは少しだけ試してみることにした。



「プリムラについてはどう思う?」


「どうって、今までと変わらないわよ。あれだけの才能があるんだから、私の味方をしてくれればいいのにって思ってるわ」


「じゃあ、魔女王様のことは?」


「尊敬しているわ。でも、私の心をいじって利用していたことには少し思うところはあるわね」


「んじゃ、最後だ」



 クリームヒルトは一拍おいて、その名を口にする。



「唯野憐太郎についてはどう思う?」


「べ、別に何とも思ってないわよ? た、倒すべき敵としていずれ決着付けなくちゃって」


「声、めっちゃ上ずってるけど」


「ふぇ!?」



 今までに聞いたことないリリアナの鳴き声にクリームヒルトは笑うのを我慢できなかった。



「ちょ、ちょっと! その反応は何なのよ!」


「くっ……くはは……わ、悪い……くっははははは!!!」



 大きすぎるクリームヒルトの笑い声は廃工場中に響き渡り、他の面々を引き寄せた。



「ど、どうしたの!?」



 そして、システィたちハート陣営の幹部がぞろぞろとやってきた。



「クソオタクの気持ちわりぃ笑い声が聞こえたが?」


「リリねぇ? 平気なの?」



 心配してきたシスティたちだったが、笑い転げるクリームヒルトと顔を真っ赤にしたリリアナを見て安堵した。



「なあ、みんな聞いてくれ! うちのお嬢が……ぷふっ……恋しちまったってよ!」


「クリームヒルト!!!」



 クリームヒルトの暴露にリリアナは泣きそうな声を上げる。

 けれど、色恋沙汰が少ない魔女たちにとってこれほど興味をそそられる話題もないため、リリアナの気持ちをよそにハート陣営初の女子会が開催されることとなった。




 そんな和気あいあいとしているハート陣営とは裏腹に怒り心頭の人物が一人。



「魔女王も舐められたものだ」



 魔界にある魔女の国。セレスティア王国。

 その第七王宮に落雷があり、跡形もなく消えていた。

 当然、それは自然災害ではない。

 魔女王――クルス・ルインズワース・セレスティアナイトの魔法によるものだった。



「随分荒れておるのう。クルスよ」



 殺気を放っていて誰も近づけないクルス相手に声をかけたのは顔が皺だらけの杖を突いた老婆だった。



「お母さま、いえ先代魔女王か」



 メイと同じ長い栗色の髪を払いながらクルスは振り返る。



「違うじゃろ。ママと呼ぶように言っておるではないか」



 老婆は杖を振りながらクルスに口酸っぱく注意をする。



「スペード陣営に寝返ったあなたのことを血縁だとは思いたくはないな」


「まったく相変わらず小さいやつよのう。あ、もちろん胸の話じゃ」



 クルスは間髪入れず先ほどと同じ雷を老婆に落とす。



「いきなりひどいやつじゃ。冗談が通ずぬのう」



 しかし、王宮を消し飛ばすほどの落雷を受けても老婆は涼しい顔をして立っていた。



「そんなんじゃから、娘たち(・・)に愛想つかされるんじゃぞ」


「別陣営に加担するあれらを娘だと思ったことはない」


「それだけでなく、せっかく出来た魔女の魔王候補にも嫌われたらしいのう」


「なんの話?」


「とぼけても無駄じゃ。お主の帰還命令を無視して、日本に滞在し続けていると聞いておるぞ」


「っち。相も変わらず耳ざとい」


「お主が苛立つのも分かるが、そのたびに王宮を壊されては困るぞ」


「直せば文句あるまい」


「お主のストレス解消に国民の血税を使うでないぞ」


「うるさいな。われは魔女王ぞ」


「こりゃ、育て方を間違えたわしの責任じゃな」



 老婆は深いため息をつく。



「それでなんの用だ」


「不良娘の説教に決まっておろう」


「そんな親心があるとは思えないが?」


「失礼じゃな。カッコウくらいの親心はあるぞ」


「御託はいいからさっさと用件を言え」


「本当に面白みのないやつじゃのう。ま、用件があるというのは間違っておらぬよ」



 老婆は懐から取り出した葉巻を口にくわえ、指先から小さな火を出し、葉巻に付ける。



「ふぅ~。うちの魔王候補が動き出すようでな。邪魔はするなとのことじゃ」


「スペードの? それをわれに伝えるということは標的はダイヤかクローバーか?」


「ああ、そうじゃ」



 老婆は大きく息を吸い、ゆっくりを煙を吐く。



「クローバー陣営を潰したいそうじゃ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。