VS.クリスタ・アルザリオンⅡ
人間界に来る少し前、アタシはボスから任務を受けた。
「プリムラ? 聞いたことねぇな、そんな魔女」
「でしょうね。魔女の歴史から抹消された存在だから」
「んで、そいつを付け回す理由ってのはなんだ?」
「彼女には魔王の魔力への適性があるのよ」
魔王の魔力を覚醒させるためには魔女の遺伝子情報を摂取しなければならない。
だが、それはどんな魔女でもいいと言ったものではない。
限られた適性を持つ魔女だけが、魔王の魔力を覚醒させることが出来る。
「つまり、そのプリムラって女が今後どっかの魔王候補と接触する可能性があると?」
ボスは小さく頷いて、アタシの言葉を肯定する。
「アタシは暗殺って手段が好きじゃねぇ。どうせなら正面切って叩き潰したい派だ。だからボスの考えてることが分かんねぇ。なんでこの任務にアタシを指名した?」
「あなた以外に適任がいないからよ。どんな状況でも慌てず対処できる。そんなあなたにしか今回の任務は任せられない」
「それはありがたいお言葉なこって」
「けど、そんなあなたでもきっと動揺は隠せないでしょうね」
「?」
あの時、ボスの言っている意味が分からなかった。
アタシはたいていのことには動揺しねぇ。
魔王候補が歴史上初の人間だったって知ったときも大して驚かなかった。
むしろ処理するのが弱い人間であることにがっかりしたほどだ。
だが、今は――
「さいっこうだ!! てめぇら!」
額から流れ落ちる血を拭って、払う。
プリムラの魔法を受けて、魔法が使えるようになった憐太郎と幾度となく打ち合い確信した。
こいつは強い。
「“蒼炎蛇王”!」
ハエみたいに飛び回る憐太郎を炎で作った蛇で絡めとり、地面に叩き落とす。
向こうが態勢を立て直す前に、チラリとプリムラの方へ視線を向ける。
魔力はほとんど尽きて、立っているのがやっとのようだ。
先ほどから付与魔法での援護がないからもしやと思ったが、やはりさっきの魔法で魔力をほとんど使い切ったようだ。
ならあれはもう無視でいい。
あの男を速攻で潰す!
「“ベータトロン”」
「ッ!!」
一瞬で背後を取られ、重い蹴りを貰う。
「ぐっ!」
今のは魔力を推進力とした高速移動の魔法。
知ってても対応が遅れるっ!
「一方的にやられるつもりはねぇよ!」
蹴りを貰う寸前にこっちの魔法はすでに仕掛けてある。
「なんだこれは?」
憐太郎の足に無数の青い花弁が咲き誇る。
「“蒼炎花葬”!」
散った花弁が連鎖的に爆発していく。
「今のは良いのが――なに?」
爆炎の中から姿を現した憐太郎は影となって霧散した。
「これは分身魔法! 奴は一体っ!」
その気配を察知し、咄嗟に空を見上げる。
そこには魔力を溜めた憐太郎の姿があった。
「“ガンマ・バースト”!!」
炎、雷、光の三属性混合によって再現された荷電粒子砲。
それがアタシ目掛けて頭上から降り注ぐ。
あれに対抗できる魔法はアタシの手札じゃ一つだけ。
「“蒼炎鳳凰―花椿”」
蒼炎で形成したのは不死鳥を模した巨大な怪鳥。
翼を羽ばたかせるたびに花弁が舞う。
黒色の荷電粒子砲と蒼炎の鳥が衝突する。
衝撃は暴風となって周囲の木々を払い飛ばす。
「落ちろ!!!」
「打ち砕け!!!」
威力はほぼ互角――いや。
「っく!」
咄嗟に魔法を放ったせいで魔力を練りこめていない!
怪鳥の体にはひびが徐々に入っていく。
「っち、クソが……」
黒い魔力に怪鳥が飲み込まれ、消失する。
そしてそのままアタシに降り注ぐ。
憐太郎の魔力に包まれながら、小さく悪態をつく。
この任務はアタシにゃ荷が重すぎるってんだよなぁ、おい……。
「もう、体が……動かねぇ……」
アタシの負けか。
憐太郎の魔法によって公園にはバカでかいクレータが生まれた。
その中心でアタシは大空を見上げながら寝転がっていた。
「んで、なんで殺さねぇ」
アタシの顔を覗くように憐太郎が頭上に立っていた。
「逆になんで殺さなくちゃいけねぇんだよ。俺はそういう世界とは無縁の場所で生きてきたんだ。いきなり命のやり取りなんかできねぇって」
「あめぇな。アタシらはまたてめぇらの命を狙うぞ」
「それでも誰かの死の上で生きるなんてそんな息苦しい生活なんて、ごめんだね」
「っけ。おめでてぇこった」
平和な世界で生きてきたガキの言葉。
だから、こいつはこの先の戦いでは生き抜けない。食い物にされるだけだ。
「このままじゃ、てめぇの周りの人間は戦いに巻き込まれるぞ。それでも同じことが言えんのか?」
「何度だって言ってやる。そのためなら魔王でも勇者でも返り討ちにしてやるさ」
ああ、ホントおめでてぇやろうだ。
彼のその言葉を最後にアタシの意識はぷっつりと途絶えた。




