憐太郎VS.リリアナⅡ
「プリムラぁあああ!!!」
プリムラの姿を視界に入れたリリアナは我を忘れて、プリムラへと襲い掛かる。
「どうした、隙だらけだぞ」
リリアナに対し、プリムラは不敵に笑うだけでその場を動こうとはしなかった。
それもそのはず、リリアナがプリムラに届く前に横から蹴り飛ばされたのだから。
「やっといいのが入った」
リリアナがやっと見せた大きな隙。
それを見逃す憐太郎ではない。
足に魔力を纏わせた飛び蹴りをリリアナに食らわせた。
彼女はそのまま場外まで吹っ飛び、下へ落ちていった。
「プリムラに対するコンプが透けて見えてたぞ」
短い時間だが、彼女と交わした数少ない言葉からリリアナがプリムラに対し並々ならぬ感情を抱いていたことは察しがついた。
プリムラの姿を見た瞬間に我を忘れるほどとは、憐太郎も思ってはいなかったが。
「気を抜くな。まだだぞ」
「ああ、分かってる。これで終わらせる」
そう言って、憐太郎は詩を口ずさみ始めた。
一方、憐太郎に蹴り飛ばされたリリアナはというと。
「……ぺっ」
口にたまった血を吐き捨て、屋上の方を睨みつける。
額からも血が流れだしているが、これが返って冷静さを取り戻させていた。
「クリスタがもう負けた? ……それではこちらの想定を大きく上回っているということ?」
クリスタがプリムラに勝てるとは最初から思っていなかった。
それでもこの短時間で敗北することは想定外だった。
何故なら、当初の想定ではプリムラは憐太郎に対し天冠級の魔法を付与している状態を維持し続けているから、さほど魔法は使えないと思っていた。
あくまで推測でしかないが、プリムラがすでに憐太郎に対する付与を解除していたのだとしたら、クリスタがこの短時間で負けることはあり得る。
そうなると逆に憐太郎の方が説明がつかない。
さっきまで普通に魔法を使っていた。
ならば考えられる可能性は一つ。
憐太郎はこの短期間で五年分の知識と経験を得た状態に成長したということだ。
常識外れの成長速度。
それは神童とうたわれたスペードの魔王候補に匹敵するほどの――。
とはいえ、リリアナの目測ではまだスペードの魔王候補の方が上だ。
「っち。……舐められたものね」
そこでリリアナはプリムラの思惑を察し、舌打ちをした。
スペードの魔法候補にはまだ勝てない。だから、経験を積ませるために先にハート陣営との戦闘を仕組んだのだ。
クリスタの報告を聞いたときに違和感はあった。
プリムラは何故、クリスタの目の前で憐太郎の魔力を覚醒させたのか。
あれでは憐太郎がクローバーの魔王候補である情報を開示するだけで、何のメリットもない。
普通ならあの場はプリムラだけでクリスタをやり過ごし、憐太郎が魔王候補である事は伏せるべきだった。
けど、プリムラはそうはしなかった。
結果、リリアナたちはクローバー陣営の戦力が整う前に叩く行動に出た。
それがプリムラの狙いだったからだ。
プリムラはリリアナたちハート陣営を踏み台にスペード陣営との対決を見据えていたのだ。
リリアナにとってこれほど屈辱的なことはない。
ここまで自分の思い通りに展開を運んできたプリムラのことだ。
このまままともに戦ったところでリリアナに勝ち目はないだろう。
それでも、今の彼女に逃げる選択肢はなかった。
「少なくともあなただけは必ず殺してみせるわ」
プリムラに対する憎しみを心に、リリアナは高く飛びあがる。
すると、屋上にた憐太郎が詠う姿が目に入る。
「“行きずりの星、1つに交わりて咎となれ――”」
「……詠唱?」
憐太郎の右手に宿る魔力がひと際膨れ上がっていく。
リリアナは知らない。憐太郎が口にしている詠唱が何かを。
それは以前、梗夜が使った魔法。けれど、詩は少し異なる。
「“――それは万物を飲み込む闇”」
闇の魔力に対応させた詠唱。
明らかに今までとは違う雰囲気にリリアナも自身の魔力を極限まで絞り出す。
「全魔力――解放!」
「っ! いけません! リリアナ様!」
その姿を倒れたまま見上げていたシスティが制止しようとするが、体が動かず彼女を止められない。
その間にも憐太郎の右手の魔力はさらに肥大化し、徐々に圧縮されていく。
「“ガンマ・バースト-オーバードライブ-”!!!」
先に仕掛けたのはリリアナだった。
炎と雷、それに加え風属性をも加えた3属性複合魔法。
らせん状に放たれたそれは今までの比ではない。
大気を震わせ、空間を裂く。
「“空虚なる黄昏”」
憐太郎の右手に圧縮された魔力がその枷を外したかのように解き放たれる。
炎属性のみを再現したその黒炎は空間全てを焼き尽くす。
そして――――――。
――2つの魔法が交錯する。
―――― ――――
音が消える。
ほんの一瞬。
それはぶつかり合い、収束。
……そして、拡散!
ドゴンっ!ガシャ…バリバリバリバリ……。
破裂する音、それに続くように突風が吹き荒れ、周囲に木々や建物のコンクリートさえも捲りあがって砂塵のように飛んでいく。
「――」
「っ! 何を!?」
プリムラはその爆発に巻き込まれないように、白撫とリリアナを抱え、さらに遠くへと逃げる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「はああああああああああああああああああ!!!!!」
互いが叫ぶ。
それでも二人の攻撃は衝突したまま止まっていた。
どちらの魔法も消えることなく今もなおぶつかり合って、その余波を周囲にまき散らす。
ここにもうショッピングモールだった面影などない。
既に荒野と成り果てた。
そして、決着の時は訪れる。
――――ピシッ……。
亀裂が走る――音がした。




