だから、戦う
時は少し遡り、ショッピングモールの二階。
そこではリリアナの口からプリムラの正体について明かされていた。
「いい? プリムラには本来自我なんてものは存在しなかったのよ。それが動いているのだから、あとは想像がつくでしょ?」
「プリムラの背後には別の何かがいるというわけじゃな」
「あなたたちはそれでもプリムラを信じられるのかしら?」
やっぱり、分からないな。
白撫が、リリアナが何を言いたいのかさっぱりだ。
なんだって今そんな話をしているんだ?
「なんじゃ、憐太郎。その呆けた顔は」
「だって、二人がさっきから何を言っているか分からないんだもん」
「聞いていなかったのかしら。プリムラはあなたたちを騙して――」
「だから! 今! それが何の関係があるんだ!」
「っ!」
僕が急に怒鳴り声を上げたせいで、リリアナが小さく肩を震わせた。
別に脅かすつもりなんかなかった。
それでもこの苛立ちを隠すことなんてできなかった。
「あんたたちは僕の妹に手を出した。だから、戦うんだ。もう二度と傷つけさせない。だから、戦うんだ。大切な日常を守りたい。だから! 戦うんだ! プリムラのことなんて関係ないだろ! 話をそらすなよ。先に仕掛けてきたのはそっちなんだ。言い逃れできると思うな!」
「…………」
一瞬場が静まり返り、白撫の小さな笑い声だけが響く。
「その通りじゃな。まずは奴らにお灸をすえてやろうかのう」
「ああ、ここで終わらせる!」
ズボンのポケットからタブレットを取り出し――。
「あ……」
タブレットから丸薬を出そうとして、タブレットごと手からすり抜けそのまま下階へ落ちていった。
「こんな状況でドジっ子キャラを演じとる場合か!」
「ち、違う! 勝手に落ちたの! クソ!」
慌てて吹き抜けから飛び降り、一階へ向かおうとしたが。
「え? なに、これ?」
見えない床に阻まれ、一階へ着地することは出来なかった。
はたから見ると僕は宙に浮いているようだろう。
「すみません、結界の展開に手間取りました」
いつの間にかリリアナの隣に青髪の女性が立っていた。
「いいえ、完璧なタイミングよ。システィ」
システィと呼ばれた女性は小さく頭を下げ、リリアナの一歩後ろに控える。
「これより四方300メートルの範囲においてあらゆる者の出入りを禁ずる」
そういうことか。やっぱりこの見えない床は結界魔法の一種。
四方300メートルってことは大体ショッピングモールの建物全体を覆えるくらいか? いや、一階に降りられないってことは二階より上の全てってことだろう。
けど妙だな。
出入りを制限するだけの結界魔法ならこんな時間稼ぎをする必要はないと思うけど。
「なるほどのう。してやられたようじゃぞ、憐太郎」
「白撫? どういうこと?」
紫紺に光る白撫の瞳が結界を嘗め回すように眺めていた。
白撫の鑑定眼で結界の構造を看破したようだ。
「この結界、出入りを禁ずるだけではないのう。結界内のものが手にしたものを落とす。そういう術式が組み込まれておる」
「な、なにその地味な嫌がらせみたいな効果」
僕がさっきタブレットを落としたのはその効果のせいってこと?
それだけを狙ったにしては回りくどいような。
「そうとも言えぬよ。要は武器を持つことが出来ないってことじゃからのう」
「ええ、そうよ。この場でもっとも不確定要素の高い存在は科学者であるあなただもの」
そうか。白撫のよく分からない発明品を使わせないための結界ってことか。
「わし対策か。悪くない手じゃ。じゃが、それだけでは足らぬぞ?」
ん? なんだ?
空から風を切る音が聞こえる。
「人間相手に向けられぬ平気じゃが、魔女のホムンクルスであれば問題なかろう」
白撫は上空に指を向ける。
「何をする気か分からないけれど、自由にさせるとでも?」
瞬間、一気に周囲の気温が下がった。
いや、違う。これは寒気だ。
リリアナの左目に黒い魔力が灯る。
「ガンマ・バースト」
突き出した両手から黒い電磁袍が僕ら向けて放たれる。
今の僕は魔法が使えない。白撫も論外。
このままだと直撃する!
「起動、インペリアルドラグーン」
白撫の声に答えるように、天井を突き破り1台のコンテナが降って来た。
ちょうど僕たちの盾になるような形で黒い電磁袍を防いだ。
リリアナの攻撃を何とかやり過ごし、激しい土煙が徐々に晴れていく。
「なっ! こ、これは!?」
そこで白撫の新たな姿が露わになる。
それはおそらくコンテナの中にあったものだろう。
白撫の両手足と背中には男心をくすぐるメカが装着されていた。
「ぱ、ぱぱぱパワードスーツ!?」
右腕はブレード、左腕はリボルバー、腰に小口径の大砲が2門。肩に大口径の大砲が2門装備されている。装甲は黒塗りのメタリック。
装着してるのがスク水ロリであることを差し引いてもバカかっこいい。
「来るがよい、魔王候補よ。ロマンというものを教えてやろう」




