アルバスの四大法則
――旧ショッピングモール立体駐車場1F。
「蒼炎竜王!」
竜を模った青い炎がプリムラを襲う。
「付与魔法“増殖”」
けれど、彼女の目の前で炎は徐々に小さくなっていき、たどり着く前に黒い煙だけになる。
「やっぱ、バレてっか」
何度炎を放っても毎回同じように消される。
炎の周辺の二酸化炭素を増殖させることで局所的に酸素濃度を減らし、炎をかき消したのだろう。
普通の火を消すなら合理的な方法だろう。
だが、魔法は別だ。
魔法には物理現象を覆す力がある。
水の中だろうと宇宙空間だろうと炎を出し、維持することは可能だ。
それが魔法の一般常識だ。
だから、わざわざ酸素を減らして炎魔法を消すなんて、実戦の中で試そうだなんて頭のいかれた奴はいない。
アタシの魔法はそれを逆手に取っている。
魔法学の祖、アルバス・エルドリッジが提唱した第四法則。
『反作用の法則』。
魔法は制約を課すことで効果が増大する。
青炎は火力を優先した代償として、本来なら鈍重になる。
だから私は"酸素を必要とする"という制約を加え、速度を補っている。
これはアタシの最大の弱点だ。だから、ボスにも伝えていない。
なのにこいつは一度戦ったあの時に見抜いたってのか?
いや、ありえねぇ。
「一応聞くが、アタシの魔法をどこで知った?」
「言っただろう? コンサルタントは何でも知っている」
「何でもの範囲を超えすぎだ。アタシの知ってるコンサルタントとおんなじ意味か?」
十中八九、何かしらの魔法だろう。
付与魔法にそんなことが可能だとは思えないが、やつがプリムローズと同一人物であれば、今までの常識では測れない。
向こうはこっちの手の内を全て知っている前提で戦えばいい。
それにさっきのあの物言い。
『断言しよう。君のお仲間はここには戻ってこれない』
ブラフだと思いたいが、これが事実の場合アタシがここでどれだけ時間を稼いだところで意味はない。
ボスの作戦通りこのまま時間を稼ぐか。あるいは一か八かにかけて、勝負を挑んでみるか。
ボスの作戦、か……。
これまでボスを疑ったことはない。
だから、うだうだ考えずにボスの言う通り行動していればいいはず。
なのに、頭にはあのクソオタクの言葉が嫌でも思い浮かべちまう。
「あ? てめぇいまなんつった?」
「割に合わないって言ったんだ。この作戦はどう考えたっておかしい」
「ボスを疑うってのか?」
「本気でこの作戦に勝ち目があると思っているのか?」
「強いだけが取り柄のくせして何弱音はいてんだよ」
「冷静に状況分析すれば子供でも分かる。魔女王の娘、世界最高峰の科学者、世界三大財閥の御曹司、そこに元勇者パーティまでいる。肩書だけ見ても粒ぞろいだ」
「ボスがアタシたちを裏切るってそう言いてぇのか?」
「別にそうは言ってないだろ。あの人は本気で魔王になりたがっているのは知っている」
「なら……っ!」
「どうにもボスは焦っているように見える。それはおそらく――」
「プリムラだってか? ボスとあの女にどんな因縁があるか分からねぇが、それならボス自身がプリムラを相手取るっていうだろうよ。だが、やつの相手はてめぇだ」
「確かにな。けど、あれだけ気にかけていた存在だ。何もないなんてことはないだろう。だから、恐らく、ボスはプリムラに会えば自分が冷静じゃなくなると、そう考えての判断だったんじゃないか?」
なんで、今こんなことを思い出す。
あれはオタク野郎の妄想で、絶対そうってわけじゃない。
なのに、アタシの直感がさっきからうるせぇ。
『ボスにプリムラを会わせてはいけない』
っち、ああ! じゃあもういい!
「ごちゃごちゃ考えるのはもうやめだ! 読みが外れてたらぶっ殺すからな、クリームヒルト!」
「長考はもういいのかい?」
「ああ、決めた。てめぇは今ここでアタシがぶっ飛ばす」
「なるほど。考えすぎて眠ってしまったようだ」
「寝言じゃねぇよ。ちゃぁんと、てめぇに勝つ算段はあるんだ。そこだけはしっかり考えてきてんだ」
なにもプリムラは無敵じゃない。
特殊な異能力ではなく、アタシたちと同じ魔法という技術を使っているだけだ。
なら、当然奴にも弱点はある。
アルバスの第三法則。『演算飽和の法則』
一度に維持できる魔法には限界がある。
魔法階級が上がれば上がるほど同時に発動できる魔法の数は減っていく。
上級魔法で10前後が限界だ。
天冠級であればなおのこと。それが発動中であれば使えてもせいぜい中級以下の魔法を一つか二つ程度だろう。
プリムラの言葉が真実であるならば、やつは今もなお、天冠級魔法を発動中のはずだ。
天冠級であろうとも付与魔法であることには変わりない。
だから、魔法と解けば唯野憐太郎から知識と経験が抜け落ちてしまう。
そう考えれば全部説明がつく
もし解除してしまえば、彼はボスとの戦いにおいて大きなハンデを背負うことになる。
天冠級のインパクトと寿命のデメリットであの時は気づけなかったが。
つまり、寿命のデメリットはブラフで、こっちが本当のデメリットだろう。
少し考えれば分かることだった。
天冠級のわりに効果とデメリットが釣り合っていない。
自分の姿を元の姿に戻しているのもそのためだろう。
付与魔法で姿や性格を変えていたのだろうが、併用できる魔法が少ないこの状況では解除するしかなかった。
「っと推察してるんだが。どうだ?」
「長々とどうも。それで、今の説明のどこに勝算があったんだ?」
「あ?」
「君の推理はおおむねあってる。でもね、炎は魔法一つで簡単に打ち消せる。さっきから何度も見せていると思うが。君の魔法じゃ私に勝てないよ」
「あんま煽んな。負けたときカッコがつかねぇぞ」
アタシは体内の魔力を全て炎に変換し、全身に纏う。
「蒼炎鳳凰――神威」
「いいのか? 見たところ持って一分だろ」
「ああ、だからわりぃな。命乞いは聞いてやれそうにねぇ」




