魔王候補抗争 対ハート陣営戦 開幕
「プリムラ! 一体何があったんだ!」
茉奈花と梗夜君が襲撃されたと連絡を受け、僕は息を切らせながらリビングへ飛び込んだ。
そこに広がっていた光景を見て、言葉を失う。
「……茉奈花」
ソファーに横たわる茉奈花は静かに眠っていた。
顔色は悪くない。目立った外傷もない。けれど、呼びかけても返事はない。
恐る恐るその手を握る。
「茉奈花……おい、起きろよ」
反応はない。
隣のソファーには梗夜君が寝かされていた。全身に傷を負い、風真さんが応急処置をしている。それでも包帯はすぐ赤く染まり、血が止まる様子はなかった。
「プリムラ……」
振り返ると、プリムラは銀色の髪を揺らして立っていた。
本来の姿。
普段の金髪ギャル姿ではない。
それだけで、この状況がどれだけ異常なのか理解できた。
「何があったんだ」
「見ての通りだ。茉奈花と梗夜がハート陣営にやられた」
短い返答。
それだけで十分だった。
「風真さん」
僕はすぐに風真さんを見る。
「相手はどこですか」
「ここから南東十キロくらいの旧ショッピングモールだよ。使われてない建物だから根城にはちょうどいい」
「なら行こう」
僕は立ち上がる。
だが、その腕を白撫が掴んだ。
「待つのじゃ」
「待てない」
「憐太郎」
「待てるわけないだろ!」
思わず声が荒くなる。
「茉奈花は何も知らないんだ!」
魔王候補なんて。
魔王軍なんて。
闇の魔力なんて。
何一つ知らない。
「なのに巻き込まれた!」
拳を握る。
「僕のせいだ」
そうだ。
全部、僕が魔王候補だから。
「僕がいなければ茉奈花は普通に買い物へ行って、普通に帰ってきてた!」
胸の奥が締め付けられる。
「もし茉奈花に何かあったら……」
そんな未来は考えたくない。
「僕は自分を一生許せない」
部屋が静まり返る。
誰も何も言わなかった。
やがて風真さんが小さく息を吐く。
「気持ちは分かった。でも一人で突っ込む気じゃないよね?」
「そのつもりはありません」
僕はプリムラを見る。
「プリムラは来るんだろ?」
「嫌な信頼のされ方だが、否定はできないな」
「風真さんも来てください。道が分からない」
「はいはい。おじさんも働きますか」
風真さんは肩をすくめて笑った。
「白撫はここを――」
「断る」
「え?」
「ここは燕時に任せる。敵地の方がわしの力を活かせるじゃろ」
「おじさんはどっちでもいいよ」
「私も場所は把握している」
プリムラが言う。
「なら決まりじゃな」
全員の視線が僕に集まる。
プリムラは大鎌を肩に担ぎ、小さく笑った。
「じゃあ行こうか」
その一言で覚悟が決まった。
今度は逃げない。
茉奈花を傷付けた奴らを、このままにはしておけない。
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旧ショッピングモール。
人の気配を失った建物の中で、一人の少女が負傷したエリザベートを治療していた。
「エリちゃんがやられるなんて……」
紫色のぼさぼさ髪を揺らしながら、不安そうに呟く。
ルーナ・エクティス。
ハート陣営唯一の治癒魔法使いだった。
「実はクローバーって強い?」
「肩書だけならそれなりのが揃ってる。が、外れ値みてぇのはプリムラくらいなもんだろうよ」
ルーナのつぶやきに答えたのは今しがたやって来たクリスタだった。
「魔女といってもこいつはまだガキだしな」
「で、でも、エリちゃんは優秀だよ?」
「んな事分かってる。じゃなきゃ、数札なんか与えられねぇだろ」
そう吐き捨てると、クリスタは辺りを見回した。
「あのオタクは?」
「クリームちゃんなら池袋に行ったよ?」
「……はぁ?」
額に青筋が浮かぶ。
「あいつ、このタイミングで抜けやがったのか」
苛立ちを隠そうともせず舌打ちする。
だが、すぐに口元を歪めた。
「まぁいい」
拳を鳴らす。
「プリムラはアタシがぶっ飛ばす」
前回の借りは返す。
そのつもりだった。
その時。
ショッピングモールの外から車のエンジン音が聞こえてくる。
クリスタはニヤリと笑った。
「……来やがったか」




