見せ札と切り札
「カッコいい? ばっかじゃないの!」
梗夜の言葉を聞いたエリザベートは貶す。
「同意見だ。俺もバカだと思ってるぜ」
けれど、梗夜は即座に肯定した。
「イカれてる」
エリザベートは梗夜の放つ緑の炎を躱し、お返しとばかりに人形の爆弾を飛ばす。
梗夜はその人形が近づいてくる前に黄色の炎で撃ち落とす。
「多色使えても、手札が分かれば対策できるのよ!」
範囲攻撃の赤は人形で防御、貫通性の高い緑は回避、弾速の速い黄色は……。
「程度の低い攻撃ならこれで平気なのよ」
連続で撃ってきた黄色の炎を羽織っていた黒のマントで防ぐ。
「っ! かっった! なんだそれ!」
「魔界に存在するグレートモスの布を使ったマントだよ? 控えめ火力で撃ち抜けるものじゃないってのよ!」
それはゼラの枕にも使われているものであり、世界最強度を誇る布である。
そう、ハートの一味が持っているマントはただの飾りじゃない。
あれは武装だ。
「おっけー。なら、後はじゃんけんってことか」
「無駄よ。あなたが撃つ瞬間、咄嗟にマントでガード、コンマ1秒でも攻撃が届かなかったのなら、赤と緑の二択。そこからならさっき見せた通り対応できるわ。あは♡」
「そう言うのはこっちの手がすべて出てから言うんだな!」
梗夜は銃口を向ける。
「私の話、聞いてなかったのかしら?」
「お前のその理論が正しいか当ててみろ」
互いに向き合った状態。どこからでもかかってこい。と挑発していた。2人とも。
「行くぞ! “黄の弾丸”」
高速の炎がエリザベートめがけて撃ちだされる。
「だから効かないって!」
彼女は黒マントでそれを防ぐ。
「とめねぇぞ。“緑の弾丸”」
矢継ぎ早に放ってくる色の違う炎に翻弄されながらも、エリザベートは跳躍して緑の炎を躱す。
「飛んだな。“黄の弾丸”」
再び高速の弾丸が放たれる。
「ん~~~~~~ひつこーーーーい!!!」
エリザベートは体をくねらせ、射線上にマントが入るように空中で方向転換する。
黄色の炎はマントで防げた。
けれど、無理して空中で動いたため、態勢が崩れてしまった。
「ここだ」
「やばっ……!」
このタイミングで撃つとすれば、回避して避けられない緑の炎。
だから、彼女は最初から5体の人形盾を召喚し、貫通されてもいいように重ねるように並べる。
「速いな」
恐ろくべき、判断能力の速さ。
だが、その速さが命取りになる。
「ざ~んねん! ハズレ!」
梗夜が引き金を引く。
そして、その色は……。
「“紫の弾丸”」
「まっ……!」
最初に放たれた魔法は間違いなく一本の直線だった。
けれど、それはすぐさま木の枝のように無数に分岐した。
「あぁぁぁぁああああ!!」
エリザベートに届くまでに20本以上の炎の線となり、彼女を襲った。
彼女が咄嗟に召喚した盾は5つ。
それで防ぎきれる程度の数ではなかった。
「紫は炎の増殖だ。一発撃ってもそっからオートで分裂し、無数の弾丸を増殖させる」
「…………っく」
紫の炎をまともに食らったエリザベートはふらふらとした足取りで立ち上げる。
「あぁ、いい表情だ。ピッタリなメスガキフェイスに仕上がってるぜ」
「別に……あんな程度じゃ、……泣かないし……」
「だな、まだ足んねぇな。メスガキにふさわしい表情にしてやんよ!」
「こっからは私もちょー本気でいくしぃ!」
エリザベートはガっと両手を大きく上げる。
「“玩具星座占い”」
その魔法を唱えた瞬間、空に巨大な魔方陣が浮かび上がる。
「んだ、ありゃ」
「今から今日の運勢を占うの。なんだと思う?」
「関係ねぇよ。その前にてめぇを撃ち抜く!」
「残念、もう遅いよ。今日の1位星座は獅子座! ってことだからおいで――」
上空に展開された魔方陣からゆっくりと巨大な人形が姿を現してくる。
「“レオ・レグルス”!」
そして、その全容が明らかになる。
デフォルメされた獅子の人形。一見可愛く見えるファンシーなデザインだが、そのサイズはファンキーだ。
全長8メートルはあろうかと言う、超巨大獅子人形だ。
「ふざけろ!!!」
常識外れのサイズ感に梗夜はブチ切れた。
「やっちゃえ。レオ」
「ぐるるるるるるる、がう!」
エリザベートに返事する鳴き声は高温で可愛らしいものだった。
「んだ、あいつ、頭がバグる」
とは言え、尻ごんでもいられない梗夜は真っ向から向かっていく。
「先手必勝! “青の炎”」
魔法銃から破壊力の高い青炎が放射線状にバラまかれる。
「迎え撃って。“ディザスターテンペスト”!」
「があああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
獅子の人形は吼えた。
それだけ。
たったそれだけ。
だが、
「なっ! 炎が消され……ぐわ! 飛ばされる!」
獅子の人形の方向は突風を生み、炎ごと梗夜を吹き飛ばした。
「きゃはは、流石のあんたでも風には弱いみたいね! ざーこ♡ざーこ♡」
自分が優位に立ったと思ったエリザベートはまたしてもすぐに調子に乗る。
けれど、獅子の人形が生み出した暴風により土煙が立ち、エリザベートは梗夜の姿を見失う。
「隠れたって無駄。レオ、このままあいつ潰しちゃって」
「がう」
獅子の人形はモグラたたきをするかのような軽い感じで辺り一帯を前足で無差別に叩きまくる。
すると、明後日の方向に飛んでいく黄色い炎が視界に入った。
「どこ狙ってるの? いや、レオ! そっち!」
炎が飛んで行った方向とは逆方向。
エリザベートが指さした先に梗夜の姿があった。
「囮のつもり? そんなものに引っかかるわけないでしょ!」
梗夜の姿を捉えたレオの前足が迫りくる。
梗夜は攻撃が当たる瞬間に、地面目掛けて赤い炎を放つ。
それを推進力にして上空に飛び上がり、レオの上に着地する。
そして、そのまま駆け上がりながらエリザベートへと接近していく。
「それは悪手でしょ!」
小型の人形型爆弾を投げつけながら、エリザベートは牽制をする。
梗夜はお構いなく爆炎の中を駆けていく。
(どういうこと? 中距離型のくせに距離を詰めてきた。何かを狙っている?)
梗夜の不審な動きを警戒したエリザベートは立ち回りを変える。
「“人形縛布”」
獅子人形の背中にあった毛糸が解け、梗夜の右腕を縛り付ける。
「んだこりゃ!? 糸か!」
梗夜が思いっきり引っ張るが引きちぎれない。
また、引き金を引こうにも、そうさせないように毛糸が指に絡まっていた。
「ちなみに、それ爆発するから」
「……は?」
「“炸裂繊維”」
チチチチチチチっと音が鳴った直後、梗夜を縛っていた糸たちが爆風を巻き起こす。
「がはっ……!」
右半身に大きな火傷を負った梗夜は意識が飛びそうだった。
倒れそうになるが、右半身にはまだ糸が絡まっており、それを許さなかった。
「やっと、近づけた……これでお終いよ!」
好機と見たエリザベートは拳を握り、距離を詰める。
それを見て、ギリギリの意識を保っていた梗夜が笑う。
「……勝った」
「は?」
エリザベートは素っ頓狂な声を上げた。
何故なら、魔法銃の銃口が彼女の方を向いていたからだ。
いいや、梗夜が持っていた魔法銃は右手。糸が絡みついたままで動かせない。
じゃあ、これは?
答えは簡単だ。
左手に握りしめられていたもう一丁の魔法銃。
「待ってたぜ。あんたが無防備でこの距離まで近づいてくるのを」
そうして、梗夜は引き金を……。
「っ!」
引けなかった。
右手と同じく、左手も糸によって拘束されてしまった。
「あんたが何かを狙っているのは分かってたんだから。当然警戒してるに決まってるでしょ。空いてる片手をさあ!」
そう、これで梗夜に打つ手はない。
そのはずだが、彼はまだ不敵に笑っている。
(なに? まだ何か……。どこを見て……?)
梗夜の視線はエリザベートを見ていない。
その後ろ、エリザベートの背後に向いていた。
「っ!」
それに気が付いたエリザベートは咄嗟に振り返る。
するとすぐそこまで黄色い炎が迫っていた。
(これはあの時の!)
土煙の中から囮として撃った黄色の弾丸。
それが軌道を変え、エリザベートへと目掛けて降りてくる。
(けど、無理に軌道を曲げたせいで、せっかくの速度が落ちている。これなら!)
エリザベートは先ほどと同じく黒いマントを翻し、黄色の炎をやり過ごす――。
「……え?」
――黄色の炎は黒いマントに防がれることなく、エリザベートの腹部ごと貫いた。
「ごふっ……! なん……で……?」
黄色の炎は火力が低くマントを貫通できるだけの威力はない。
そう、貫通した。
これは緑の炎の特徴。
だが、今の炎は間違いなく、黄色だった。
何が起きたか咄嗟に理解できなかったエリザベートの頭にこれまでの戦いの光景が走馬灯のように呼び起こされる。
そして、気が付く。
(……っ塩!)
塩に含まれるナトリウムは炎を黄色く変色させる。
例え、魔法だとしても炎色反応を起こすことは可能だ。
けれど、それに気が付いたところでもう遅い。
不測の事態によって思考がそちらへ向いてしまったため、エリザベートは次の攻撃をかわせない。
黄色に誤魔化した緑の弾丸が貫いたのは黒いマント、エリザベートの腹部、そしてその後ろにある、梗夜を縛っていた糸。
両手が自由になった梗夜は二丁の拳銃を再びエリザベートに向ける。
「や、やめ――」
「“青の弾丸”」
銃口から放たれた青い炎にエリザベートはその身を焼かれる。
青の特徴は火力特化。攻撃範囲、弾速、射程その全てが最低値であり、火力に全振りしたピーキーな色。
普通に使っても当たらないからこそ、梗夜は至近距離まで近づけこの機を狙った。
「――――っ!」
高火力の炎に焼かれる彼女はその場にのたうち回る。
いかに魔女と言えど、この炎を至近距離でしかも無警戒で食らったら無事では済まないだろう。
そして、しばらくして、炎が消え去った。
残ったエリザベートは全身にやけどを負い、その場に倒れたまま起き上がらない。
「俺の勝ちだ。メスガキ」




