魔王一家
「さて、本日も定例会議を始めよう」
そこは魔界の中央都市にある魔王城の一室。
テーブルの上で腕を組み神妙な面持ちで構えるのは、魔界のトップである現魔王。
「しかし、その前に聞きたいことがある」
魔王は部屋を見渡し、1人の男が目に留まる。
スーツ服に身を包んだ褐色の男性。外見は30代の人間と遜色なく、魔族であると言われても誰も気づかないだろう。
彼の名はオルニゲス。現魔王のJである。
「何故、おぬししかおらぬのだ?」
そう、この部屋には魔王とその男、2人だけだった。
「幹部全員集合のはずだが? 我の幹部12人いたはずだが? みんな死んだか?」
「彼らは全員不参加のようです」
「どうして? ねぇどうして? もうずっとみんな会議に参加しないじゃん。なんで? 2人だけじゃ定例会議の意味ないじゃん。我、人望ない?」
「そんなことはありません。魔王様は皆から慕われております」
「じゃ、なんでいないのさ!」
「ここ5年、議題がお嬢様の反抗期についてだからではないでしょうか?」
「え!? なんで!? みんな、我の娘に興味ないの!? めっちゃ可愛いのに!」
「可憐であることは認めます。しかし、お嬢様の反抗期が年々悪化しております。彼らは相談に乗っても意味がないと思い始めたのかと。それから、定例会議が週3日は多いです」
「ぐぬぬ。というか、セレスの奴はどこじゃ。あやつも娘がおるだろ。我の気持ちが分かるはずだが」
「セレスティアナイト様はその娘さんにかかりっきりとのことです。なんでも、1年ほど前から遅めの反抗期が来たらしいです」
「なんだ、奴も子育てに手を焼いているのか。それならなおさら話が合うだろうに。って、反抗期? あやつの娘はもう30になっただろう。大の大人が反抗期とか我が家よりヤバいのでは?」
「そうですね。なので、彼女に頼るのは止めましょう。お嬢様も同じ運命を辿る可能性があります」
「なら、おぬし、なんでもいいから、案を出してくれ。娘がパパと結婚するってなるやつ」
「流石に16になってそのセリフを引き出すのは困難なのでは?」
「でも、前は言ってくれたぞ!」
「それはいつの話ですか」
「10年前の話だ!」
「もう、諦めましょう」
「分かった。結婚の件はとりあえず保留にして、」
「保留ではなく棄却でお願いします」
「とにかく、外には出てほしい。それから、学校にも行ってほしい」
「学校、ですか。それは難しそうですね。7年も通っていないのでしたら、今からの復帰はお嬢様に相当な負担をかけるかと思われますが」
「でも、学校に行かなきゃ将来が心配だ! 魔王の力で無出席でも高校まで進学させたのに!」
「それはそれで逆効果な気がしますが。恐らく、私たちがここであれこれ考えていてもよい答えは出ないでしょう。この5年がそれを裏付けています」
「それなら、どうする?」
「彼に相談してみたらいかがでしょう?」
「彼? 誰?」
「お嬢様唯一のご友人です」
*
「よし、では、これから家族会議を始める」
「はぁ」
「わーい!」
ここは魔王城から徒歩5分の場所にある一軒家。
そのリビングには魔王を含めて3人の魔族がテーブルを囲んでいた。
「今回の議題は、ゼラのお部屋大脱出大作戦だ」
「いつも思うんだけど、作戦名何とかならなかったの? 小学生の方がまともな名前つけられそう」
恐れ知らずに魔王へツッコミを入れたのは鬼人の女性だった。
「お前はいつもそうだな。何が不服だというのだ」
「センス」
「ばっさり!」
「あなたが変な名前ばっかり付けるから、娘たちの名前は全部私が考えたんじゃない」
彼女の名はアヤメ・グリーヴニル。魔王の妻である。
「自分だって結構いかつい語感の名前を付けた癖に」
「なんだって?」
「いいえ、なんでも」
「ミラはどう思う?」
「ミラはねぇ~、ミラのなまえ、すき~」
アヤメの問いに舌っ足らずの言葉で返したのは今年小学校に上がったばかりの少女。
ミラジェイド・グリーヴニル。
魔王の2人目の娘であり、ゼラの妹である。
「ミラ、パパは? パパはどうなんだ?」
「パパもすき~」
「うお~~~~ミラ~~~~~!!!!」
魔王は泣きながらミラに抱き着き、そんな魔王の頭をミラは優しく撫でていた。
「魔王の威厳ないな~」
と、ぼやきながらもアヤメはそんな2人を隠し撮りしていた。
「で? ゼラをどうやって部屋から出すのさ」
「今回はちゃんとした作戦がある」
「期待せずに聞いてあげる」
「ゼラが仲良くしているという友達に話を聞こうと思う。きっと我らの知らないゼラのことを知っているかもしれないからな」
「人頼みか~。魔王のくせに、情けな~い」
「何とでも言うがいい。ゼラとミラのためなら、プライドなんか捨ててやる」
「わーパパ、かっくいー」
「ふ~ん、その中に私は入ってないんだ」
「え、あ、いや、は、入ってます……」
「よろしい」
「パパ、かおまっか~」
「ねぇ~」
パシャ。
「あ、コラ! 撮るな! 消せ!」
「無理。あなたの写真は撮った瞬間にクラウドとPCのハードディスクにバックアップ取るようにしてるから」
「なんて無駄に手の込んだことを!」
「それでゼラの友達にどうやって話を聞くの?」
「話を逸らすでない!」
「え~、じゃあ、今日の家族会議はもう終わりでいい?」
「よし、分かった。写真の件は後で話そう」
「そしたら話し戻すけど、ゼラの友達の連絡先知ってるの?」
「いいや、名前すら知らない」
「ダメじゃん」
「だが、ゼラのパソコンからならその友達と連絡を取ることが出来る」
「え、なに? もしかして、娘のパソコン勝手に見ようとしてる? 人としてダメだよ」
「我、魔王ぞ?」
「なら、言い直す。親としてダメだよ」
「だが、これしか手が残っていないのだ」
「いや、そんな悔しそうに言われても、まだ他に出来る手立てはあるでしょ」
「一番の問題はゼラが四六時中パソコンに張り付いていて、こちらが操作する暇がないことだ」
「あ、無視? 話し続けるんだ」
「そこで陽動作戦を仕掛ける」
「ミラ、一昨日、お母さんが実家から持ってきたドラゴ〇ボールZの続き見よっか」
「え~ミラはぷいきゅあの方がいい!」
「ダメでしょ。まだ、セルを倒したところまでしか見てないんだから」
「ねぇねぇ、我の話聞いて」
結局、その後、話に飽きたミラはアヤメの言う通りドラゴン〇ールZのアニメを見始めた。
「つまり、私がゼラを呼び出して、適当な会話でリビングに引き留め続けて、その間にあなたがゼラの部屋に忍び込んでゼラの友達を通話すると」
「うむ、そうだ。家の外は無理でも、リビングまでならゼラは出てくるからな」
「で、適当な会話って何?」
「そこは……頼んだ」
「私の負担がでかくない?」
「信じてる」
「まぁ、いいけどさぁ。でも、ゼラのパソコン見れても、相手の名前は知らないでしょ? どうやって、相手の連絡先を特定するの?」
「え? 家族以外の連絡先があったら、それだろう?」
「……親として悲しくならない?」
そして、作戦決行当日。
「ゼラ、ちょっとリビングに来てもらえる?」
「無理。今、忙しい」
「お母さん、プリン作っ「今行く」
プリンと聞いた瞬間、食い気味に反応したゼラは部屋から出て、リビングに向かった。
「流石、アヤメ。ゼラの扱いが上手いな」
その様子を隣の部屋から聞いていた魔王。
ゼラがリビングに入っていったのを確認してから、ゼラの部屋へ侵入する。
「しつれしま~す」
パソコンはつけっぱなしのため、パスワードを入れる必要がない。
「連絡してるのは……ディスコか?」
既に開かれている通話アプリを確認し、そこでレンの名前を見つける。
「見つけたと言っても、このアカウントしか登録してない。チャットを見る限り毎日やり取りしてるみたいだし、ゼラの友達はこのレンって子で間違いないようだ」
そして、魔王は何の躊躇もなく通話ボダンを押した。
『もしもし、ゼラ? 急にどうした』
すると、少年の声が聞こえてきた。
「………………」
そこで魔王は少し言葉に詰まってしまった。
「(男だと? てっきり女の子だと思っていたが)」
『あれ? ゼラ? 音声入ってる?』
「ああ、聞こえている」
『そっか、よか……? なんか声がいつもと違うんだけど、ゼラ?』
「いや、我はゼラの父である」
『………………………………………………へ?』




