最後の魔王候補
なんで学校まで着いて来た?
どうやって転校の手続きをした?
僕と同じクラスに割り当てられるように仕組めた?
そんなことを問い詰める間もなく訪れた昼休み。
プリムラのやつがまた面倒ごとを起こし始めた。
「こっちに来るなぁあああああ!!!」
僕は学校中に響き渡るほどの大声で叫び声を上げた。
「待てや、ゴラァ!!」「てめぇを倒せばプリムラさんと付き合えるって聞いたぞ、ゴラァ!」「プリムラさんとはどういう関係なんだ、ゴラァ!」「同棲はマジなのか、ゴラァ!!!」「プリムラ様、しゅき!!!!」
僕の背後には数十人を超える男子生徒たちが蠢いていた。
どうやら、転校初日からプリムラに告白して振られた人たちの集まりのようだ。
そして、僕に対する恨みから察するにプリムラが振る時に僕の名前でも出したのだろう。
こんなことをされたら余計に学校に行きたくなくなるんだが、あいつは一体何がしたいんだ。学校に行かせたいんだかそうじゃないんだかよくわからん。
「はぁはぁはぁはぁ……」
とりあえず、使われていない空き教室に逃げ込み、男子生徒をやり過ごす。
「プリムラの奴、何を言ったんだ? どうすればあそこまでの暴徒を生み出せるんだよ」
「ふふ~ん、知りたいの~?」
「うおっ!!!!! おま、いつの間に!」
教卓の下に隠れていたら、ひょこっとプリムラが顔を出してきた。
「うんとね~、告白されたっしょ? そんで
『ごめんなさい。あーし、強い人が好きなの。例えば、同じクラスのレンタローとか。え? レンタローを倒したら? そしたら、その人のことちょっと気になっちゃうかもー。でーも、レンタローが負けるとか絶対ないよ。レンタローはね小さい頃にあーしを助けてくれたあーしだけの王子様なんだ。だからきっと、大丈夫』
って言いながら頬を赤らめてみたんだけど、どう? いい演技だったっしょ?」
「最悪だよ!!!!!!!!」
想像以上に余計なことしてやがった!!! 適当な嘘も交じってるし! しかも最悪なことに僕はこの学校にあまり登校していないから周りの生徒からの印象も最悪。そんな人たちに捕まったらどうなるか、考えたくもない。
「ここはどう逃げ切れるかを一緒に……ってあれ??」
プリムラの姿がない……ッ! あいつまさか!
「あ! レンタローだー!!! こんなとこにいたんだね。じゃ、これから一緒にかーえろ!」
廊下から僕の方を指さしながら、クソバカでかい声で余計なことをペラペラと喋り始めた。
「「「「「「「「「「うあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっぁあぁあ」」」」」」」」」」
「出たああああああああああ!!!!!!!」
しかもなんかちょっとゾンビ見たくなってる!?!?!
「振られて心は死んだ。だが、恋心だけは死ななかった。
だから彼らは立ち上がる。何度でも。
……そんな連中を、人は“ラブゾンビ”と呼んだ」
「ちょっと軌道修正やめてもらっていいですか!? この状況でちょっとよさげなセリフ言ったところでカオスな状況には変わりないんだから! あとこの作品の作風も変わらないから!」
「ごめんちゃい」
「かわいくいってもダメ!!!!」
そして、僕はまた逃げる。
どこだ? どこならバレない? この人数を引き連れて学校を出るのは周囲へ被害が出かねない。何としても校内だけで逃げ切らなければ。
「こっちだ、こい」
「え?」
どこを走っていたときだろうか。後ろから急に首根っこを掴まれどこかの部屋に連れ込まれた。
「随分、人気じゃないか」
「委員長!! 神!!」
僕が連れ込まれた部屋は生徒会室のようだった。
「ラブゾンビは行ったようだ。これなら……」
「逃げきれるね。どこかに裏道とか「恋バナが出来るな!」
「だから! 人のセリフに割り込まないで!!」
「まぁ、落ち着け」
「鼻息荒くしてる人のセリフじゃないよ、それ」
「何を言っている。ワタシはいつも通りだ」
「じゃあ、その鼻血はなんなのさ」
「それよりも大事なことがあるだろう!」
委員長はティッシュを鼻に詰め、強引に話を進める。
「君たちの関係について詳細に聞きたい。まずは出会いから頼む」
「いや、出会いも何もこいつが急に「あーしたちの出会いは今から十年以上も前のこと」
「だから、セリフ奪うなって! あと、その導入からしてフィクション確定なんだけど!?」
「プリムラさん、彼は無視して続きを頼む」
「りょ」
「りょ、じゃない! これ以上拗らせないで! 特にそこカプ厨に目を付けられるのはマズイ!」
「なん……だと……君たちにそんな過去が…………――――尊死」
バタンと委員長が倒れた。
「って! いつの間にか話し終わってた!?!?!?!?」
「あははは、委員長っておもしろー」
「おま……お前、何言ったんだ!」
「ヒ ミ ツ♡」
「けど、まぁ、いいか。委員長の意識がないうちに……」
「エッチだー!」
「違うやめろ! 脳内ピンク! 逃げるんだよ!」
「この流れだとレンタローが委員長に悪したのがバレないように逃げる感じになるよね」
「誰のせいだ誰の。とにかく、どんな誤解が生まれようともここにとどまるという選択肢はない。速攻逃げる」
「その宛てはあるのかなぁ~?」
うざったい顔で煽ってくるが、元凶はお前なんだぞ。
昼前だが、僕はもう帰らせてもらう。
プリムラになんていわれようが知ったこっちゃない。こんなところにいられるか。
そうして、学校を逃げ出し、走って、走って、走った。
「はぁはぁ、さすがにここまで来れば誰も見つけられないでしょ」
学校近くの駅から徒歩で40分以上離れた距離にある初雁公園と呼ばれる場所までやって来た。
小学生のころよく入り浸っていたから、無意識にこっちまで来てしまった。
引きこもって以来しばらく来ていなかったから、懐かしい気持ちに浸る。
昔遊んだ遊具が軒並み撤去されているところに時の流れを感じる。
あまり人が寄ってこない公園でこの静けさが好きだった。
「あれ? そういえばいつの間にかプリムラがいなくなってる」
ここに来る途中ではぐれたのか?
なんにしてもありがたいことだ。あれといると異常に疲れる。
しばらくはこの静けさを堪能しよう。
草木の生い茂る原っぱの上に寝転がり、空を見上げる。
「よぉ、見つけたぜ」
「――っ!」
その声と共に心臓がきゅっと絞めつけられる感覚に陥った。
見上げた空の上に赤いローブを羽織った女性の姿がある。
一瞬、学校の生徒たちが追いかけてきたのかとも思ったが、そんな生易しい人ではないと直感で理解した。
明らかに、その身にまとった殺気の質が違う。
「てめぇが最後の魔王候補だろ? なぁ!おい!」
――この人は本気で僕を殺す気だ。




